大橋院長の為になるブログ

2021.11.05更新


 2021-22年シーズンも季節性インフルエンザに対するワクチン接種を行う時期となっている。昨(2020-21年)シーズンは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とのダブル流行の懸念でワクチン需要が高まったが、結果的にインフルエンザは流行しなかった。この経験と記憶は今シーズンの接種動向に影響するのか。10月中は例年の6割程度になるという供給制限の影響は。m3.com意識調査で尋ねた。(m3.com編集部・軸丸靖子)

【調査の概要】
調査期間:2021年9月21日-27日
対象:m3.com医師会員
回答者総数:965人(勤務医746人、開業医219人)
統計に基づく世論調査ではありません
「今シーズン、インフルエンザは流行らない」が6割
 昨シーズンは、「COVID-19とのダブル流行を避けたい」とインフルエンザワクチン接種が積極的に推奨されたが、結果的にはインフルエンザの発生報告はほぼなく、ダブル流行も起こらなかった。要因としてまず指摘されたのは、「手洗い・うがい、マスク着用、3密防止」という国民レベルでのCOVID-19対策の徹底だ。夏季に南半球の温帯地域でインフルエンザの流行がなかったこと、夏~秋にかけての沖縄でも流行が見られなかったことなども、昨シーズンに流行がなかったことの傍証となった。

 この経験と記憶は、今シーズンにどのように作用するのか。

 2021年の夏も、南半球の温帯地域でインフルエンザの流行は起こらなかった。夏~秋にかけての沖縄での流行もなかった。感染症週報(IDWR)の第39週(2021年9月27日~10月3日)までの定点あたり報告数を見る限り、昨シーズンと今シーズンの動向は同じで、流行の兆候は見て取れない。

 ただ、日本感染症学会は、(1)南半球の亜熱帯地域ではインフルエンザの小流行が起きている、(2)昨シーズンに流行がなかったため、社会全体の集団免疫が形成されておらず、海外からインフルエンザウイルスが持ち込まれれば大きな流行になる可能性がある、(3)英国政府は、今シーズンは早期に流行が始まり、例年の1.5倍の流行規模になる可能性を示している――として、インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨している状況だ。

 これらの状況を踏まえ、m3.com会員医師に対し、今シーズンに日本でインフルエンザが流行すると思うかどうかを尋ねたところ、「流行すると思う」との回答は全体の16.0%にとどまる一方、「流行しないと思う」との回答は62.4%に達し、回答医師の6割以上が今シーズンもインフルエンザの流行はないと考えていることが示された 。


 自由回答にも、「今年は少数と思われる」(脳・神経科勤務医)、「マスクが普及したために流行しないと思う」(整形外科開業医)、「マスクを正しく装用して自粛を続ける事でインフルエンザも回避できる」(眼科勤務医)、「人々がこのまま感染予防に努力すれば、インフルエンザの流行も抑えられるのではないか」(産婦人科勤務医)と、今シーズンもCOVID-19対策がインフルエンザの流行抑止に有効に作用すると考える意見が多く寄せられた。

コロナ禍でワクチン需要は減るのか、増えるのか
 問題は、インフルエンザの流行如何にかかわらず推奨されるワクチンの接種だ。「昨シーズンは流行らなかった」という国民の記憶は、接種動向にどのように影響すると会員医師は考えているのだろうか。

 調査で今シーズンのワクチン接種の需要を予測してもらったところ、「例年通り」との回答は37.9%にとどまった一方、「多少増える」と「多少減る」(21.3% vs. 22.3%)、「大幅に増える」と「大幅に減る」(10.4% vs. 8.1%)がそれぞれ拮抗し、意見が分かれた。

 この回答を診療形態別に見ると、「ワクチン需要は多少減る/大幅に減る」と考えている割合は勤務医より開業医の方で高く(29.0% vs. 35.2%)、「ワクチン需要は多少増える/大幅に増える」と考えている割合は勤務医の方が開業医より高い(34.3% vs. 22.8%)という傾向が見られた。


「コロナ対策をしていればインフルワクチンは不要」?
 自由意見では、「飛行機などでの国内、国外への移動が昨年より多くなっており、インフルエンザの持ち込みや持ち出しも増える。昨年流行ってない分、抗体を持っていない人が多く、ワクチンを打っておかなければ昨年よりは広がりやすいと思う」(内科開業医)、「手洗い励行が習慣化されてもインフルエンザ予防接種は必要」(内科勤務医)、「流行する、しないにかかわらず接種するべき」(呼吸器科開業医)、「間違いなく接種数は増える」(循環器科開業医)とワクチン接種の重要性を強調する意見が複数寄せられた。

 その一方、「昨年、各々の感染予防対策によりインフルエンザ患者は大幅に減少した。今年のワクチン希望者も大幅に減ると予想する」(内科勤務医)、「南半球で流行っていなかったようですし、今年も流行しないでしょう。ワクチン接種も希望者は少ないでしょう」(循環器科開業医)、「コロナ対策さえしていればもはやインフルエンザワクチンは不要」(消化器科勤務医)、「マスコミが煽らない限り接種希望者は少ないと思う」(循環器科開業医)、「必要性を感じない」(脳神経科開業医)と、ワクチン需要の減少を示唆する意見も多く寄せられた。

ワクチン納入の遅れ、影響は?
 こうしたインフルエンザの流行予測や需要予測は、インフルエンザワクチンの発注量設定に影響を及ぼすのか。

 この点について、インフルエンザワクチンの発注を行う回答医師874人に例年と比べた今シーズンの発注量を尋ねたところ、「例年通り」が62.2%を占めたが、「大幅に増やす/多少増やす」が17.8%、「大幅に減らす/多少減らす」が19.9%と、発注量の調整を検討する意見も少なくないことが分かった。

 発注方法も、「初期に確保して、余りそうなら返品する」(34.0%)より「初期に確保せず、接種の予約状況を見ながら追加発注をしていく」(50.2%)という意見が多く、様子を見ながら判断しようという姿勢がうかがわれた。

 実際、ワクチンを確保しようにも、資材不足の影響でインフルエンザワクチンの供給が例年より遅れているという事情もある。国はあらかじめ「10月分は例年の6割程度になる」という通達を出しているが、需要量と供給量のどちらも読みづらいのが今シーズンの実情だ。

 通達の影響について意識調査で尋ねたところ、「大いに影響がある」「多少は影響がある」との回答が60.3%に達した。自由意見では、「接種希望者の予測が困難で、(10月分が)6割程度と言うのが果たして少ないのか十分なのか読めない」(整形外科開業医)、「入荷量が分からないので予約の受付が行いにくい」(小児科開業医)という意見が寄せられた。

番外:2種類のワクチン、医師の興味関心は他のところにも?
 自由回答にはこのほか、「新型コロナワクチン3回目接種との兼ね合いに興味がある。相加効果のようなものはあるのだろうか?」(産婦人科勤務医)、「不活化ワクチンと mRNAワクチンとの違いをしみじみ体で実感したい」(精神科勤務医)といった意見も寄せられた。2種類のワクチンを近接した時期に接種する“今シーズンならでは”の事情に、医学的な関心も刺激されているようだ。

投稿者: 大橋医院

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