大橋院長の為になるブログ

2020.10.22更新

不眠症:

睡眠の作用として、脳の「老廃物」を除去したり、記憶を強化したりする可能性があるという。平田氏によると、神経内科領域では、最近「グリンパティックシステム(glymphatic system)」と呼ばれる機構が脳に存在するとの仮説が注目されている。生活習慣病や不眠がこの機構の不調を引き起こすことで、アミロイドβとタウ蛋白の放出の経路を障害し、脳内へのこれらの物質の沈着が起こり、認知症の発症に関与している――という仮説で、議論が続いているそうだ。平田氏は「これはまだ推測の域を出ないが、質の良い睡眠が認知症リスクに保護的に働く可能性は考えられる」と説明する。

 ただし、「主観的な不眠が認知症リスクの上昇に関連しなかったことを示したオランダのRotterdam studyのデータにも注目すべき(J Alzheimers Dis. 2018; 64: 239-247)」と平田氏。「自覚的な睡眠の質が悪いことが、必ずしも認知症につながるわけではないということを示した点で重要」と指摘する。「不眠を含む睡眠障害があると、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を介して生命予後の悪化につながることは明らかだが、認知症との関連については推測の域を出ていない」との見解を示した。

中年以降の「夢の行動化」は神経変性疾患の前兆である可能性
 この他にも、神経学の分野ではさまざまな神経変性疾患の前段階に睡眠障害が関わっている可能性も指摘されている。平田氏によると、パーキンソン病が顕在化する前の段階から、脳幹を起点に病原性タンパク(αシヌクレイン)の伝播が始まり、嗅覚障害や便秘、パーキンソニズムや睡眠覚醒中枢をつかさどる部位の異常に伴う傾眠といった症状が起きているとの「Braakの仮説」が提唱されている。

 この仮説に含まれる前駆症状の一つに「レム睡眠行動障害」があり、「最も注目されている症状」(平田氏)とのことだ。今のところ、レム睡眠行動障害の有病率は高くないものの、50歳以降の男性の発症頻度が比較的多いことが分かっている。「レム睡眠中に夢を見ても、錐体路が遮断されて動けない状態にあるため、動けない、目が覚めないことが普通だが、それが行動化してしまう(dream enacting behavior; DEB)というのが、レム睡眠行動障害」と平田氏。「襲われる夢を見て、自分を防御する行動を取ったり、ひどい場合は隣で寝ているベッドパートナーを殴ったり、自傷行為をしたりする行動も見られる」と説明する。

 平田氏によると、最近、このレム睡眠行動異常を発現した人の半数程度が10年以上たつと、パーキンソン病やレビー小体型認知症を発症することを示唆するデータが報告されているという。また、片頭痛の患者にDEBが見られるとの平田氏らの報告(Cephalalgia. 2013 Jul; 33: 868-878)や、DEBが片頭痛患者の睡眠障害や重症度に関連すること、ただし、片頭痛患者のDEBは神経変性疾患のリスクを上昇させないことも報告されているそうだ。

「人生の3分の1占める睡眠は疾病の源泉」
 平田氏は不眠と認知症との関連は、十分解明されていない部分はあるものの「人は人生の3分の1を睡眠で過ごしている。さまざまな疾病の源泉が睡眠にあるのは、当然と考えられる。生活習慣病の一つである睡眠障害が、他の重要な生活習慣病を来すことを多くの医師に知ってほしい」と話した。おおはし

投稿者: 大橋医院

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