大橋院長の為になるブログ

2020.10.10更新

Marfan症候群:

マルファン症候群は幅広い表現型を持つ,全身性の結合組織障害である.マルファン症候群の特徴的症状は視覚器系,骨格系,循環器系に現れる. FBN1遺伝子の変異が,マルファン症候群の単発的な症候から,新生児期に認められる多臓器にわたる重症で急速に進行する症候にまで広範な表現型の発現に関わっている.近視はマルファン症候群の最も一般的な眼の症状であり,約60%の患者に見られる水晶体偏位は,特徴的な所見である.マルファン症候群の患者は網膜剥離,緑内障,早期白内障の発症リスクが高い.骨格系の症状は骨の過形成と関節の弛緩によって特徴づけられる.四肢は体幹に対して不均衡に長くなる(クモ状肢).肋骨の過形成は胸骨を押し込んだり(漏斗胸),押し出したりする(鳩胸).脊柱側彎症は一般的な症状であり,軽度な場合も重度で進行性の場合もある.マルファン症候群の病状と早期死亡の主要な病因は,循環器系に関係したものである.循環器系の特徴的症状にはバルサルバ洞を含む上行大動脈の拡張,大動脈の断裂や破裂,血液の逆流を伴う事もある僧帽弁逸脱,三尖弁逸脱,近位の肺動脈拡張などがある.適切な治療により,マルファン症候群の患者の平均余命は一般人の平均余命に近いものになる.

診断・検査 

マルファン症候群は家族歴と多臓器における特徴的所見に基づいて臨床的に診断される.マルファン症候群の臨床的な診断基準はすでに確立されている.診断の4大所見はバルサルバ洞レベルの大動脈拡張もしくは解離,水晶体脱臼,硬膜拡張,8つの骨所見のうち4つを有すること,である.マルファン症候群に関与している唯一の遺伝子であるFBN1の分子遺伝学的検査は臨床的に利用可能で,70-93%の患者で変異が同定される.

臨床的マネジメント 

マルファン症候群の臨床的マネジメントには遺伝医学,循環器,眼科,整形外科,胸部外科の専門科によるチームアプローチが必要である.多くの眼症状は眼鏡によって調整できる.水晶体脱臼に対しては水晶体摘出が必要となる.成長が完了していれば人工水晶体の植え込みを行う.側彎症に対しては脊柱の外科的固定が必要となる.漏斗胸も外科的治療を要する場合がある.矯正具やアーチサポート(訳注:土踏まずの部分がふくらんだ靴底)は偏平足による下肢疲労や筋痙攣を改善する.大動脈壁の血行動態によるストレス負荷を軽減する薬剤,たとえばベータ遮断薬が診断時もしくはたとえ診断が確定していない場合でも大動脈拡張の進行を抑制するために投与される.ベータ遮断薬が使用できないときはベラパミルが用いられる.成人や年長小児で大動脈径が5 cmを超える場合,拡張速度が1 cm/年に達する場合あるいは大動脈弁逆流が進行する場合は外科的修復が必要となる.うっ血性心不全をきたしている場合は後負荷を軽減する薬剤が奏功する.定期観察では上行大動脈の状態を把握するための超音波検査を毎年行う.

成人で大動脈基部の径が4.5 cmを超える場合,拡張速度が0.5 cm/年を超える場合,明白な大動脈弁逆流を生じた場合はより頻繁な観察が必要となる.マルファン症候群を疑わせる所見を持つ場合や発端者における症状が軽微な場合は親族に対する超音波検査が必要となる.

罹患者は身体接触を伴う競技や競争,アイソメトリックな運動を避け,中等度の有酸素運動にとどめるべきである.充血除去剤やカフェインを含む,心血管系を刺激する薬剤も避け,再発性気胸の危険がある場合には気道抵抗に対抗するような呼吸や陽圧呼吸管理も避けるべきである.歯科治療に際しては,亜急性細菌性心内膜炎の予防を行う.

遺伝カウンセリング 

マルファン症候群は常染色体優性の遺伝形式をとる.マルファン症候群と診断された人の約75%は両親のどちらかがマルファン症候群に罹患している.残りの約25%の人たちは新生突然変異による遺伝子変異の結果として発症している.発端者の同胞のリスクは両親の状況に依存している.もし親が罹患者であれば,その子が病気になるリスクは50%である.もしマルファン症候群の子が臨床的に非罹患の健康な両親から生まれたら,その子は家系内において新規の変異を有したのであって,同胞が持つリスクは50%よりもはるかに少ないと考えられるが,一般のリスクよりは高い.なぜならば,体細胞や生殖細胞系列のモザイクの存在が報告されているからである.マルファン症候群を罹患している親から生まれた子が,変異アレルや疾患を受け継ぐリスクは50%である.

マルファン症候群の出生前診断は,リスクのある妊娠において(両親のいずれかが罹患している事が判明している場合),病気を起こす遺伝子変異がその家系の罹患者により明らかにされている場合や,連鎖(解析の結果)が出生前診断に先立って確認されている場合には,連鎖解析と遺伝子変異の分析のいずれを用いても(技術的には)可能である.しかしマルファン症候群のような,主に成人になってから発症し,知能や寿命に影響しない疾患の出生前診断の依頼はあまり一般的ではない.

診断

臨床診断

マルファン症候群は家族歴や多臓器における特徴的症状の観察にもとづく臨床的診断名である.マルファン症候群の臨床的診断のための基準が確立されている.

家族歴 マルファン症候群の家族歴がない場合,2つの器官に主症状と,他にもう1つ副症状が観察されなければならない.
発端者にマルファン症候群の診断が下されたら,一度近親の診断に必要なのは1つの器官系の主症状と,他にもう1つ副症状が観察されることである.これらの診断基準は,これはすでにマルファン症候群に関連するFBN1遺伝子の変異や,マルファン症候群の家系内で同定されたFBN1遺伝子変異を持っていると判明した人にも適応できる.このように,病気に対する遺伝的素因の記録が存在する場合でさえ,マルファン症候群と診断するためには臨床的な徴候を観察しなければいけない.おおはし

投稿者: 大橋医院

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