2016.11.16更新

医師になり、医局に入ると怖い怖い教授のカバン持ちを、学会に行くときは新人が強制されることはよくある。私も例外ではなかった。「今日は、内科学会総会だ!君も学ぶことが多いであろう。」嫌と言おうものなら、ジャングルの猛獣の中に追いやられるようなものである。東京行きの新幹線の中、教授との会話は気をつけねばいけない。一回、頭の中で、咀嚼、整理して話さないととんでもない雷が落ちる。

DR.NO:「心臓カテーテル検査はたのしいですな、しかし、記録係はつまらないですね。」

教授:「馬鹿者!記録係もレントゲン撮影係も、患者の全身状態をテェツクしている者も大切なのだ!チームワークなのだぞ!」

 そんなに、怒らなくても退屈だから少し話しかけたのに、大変な剣幕で返事が返ってくる。凝んなときは文献でもカバンから取り出して、勉強している振りが一番である。そのうち三島を過ぎたあたりから、教授が居眠りを始めた。そっと、文献の代わりに”Playboy"の綺麗な女体を観察しているうちに私も眠くなった。私が寝ているのを確認した教授はそっと私の”Playboy"を取り出し、ニヤニヤしているのが分かった。いつも「眠る前には、文献を読め!」と口癖のように私たち新人に説教していたが、教授だって男には変わりは無い。学会場に着いて手続きをすませ、一緒に演題を聞く。「必ず、大切なところはメモをしなさい、それを重ねていくと、宝となるものだ。」教授の隣に座り、講義を聞くが新人の私には日本語で討論がなされていることがわかる程度である。私もメモ用紙に「ア-外に出たい、パチンコでもやりたい」と書いた。休憩時間に教授は私に言った。「今、大学では君の仲間は一生懸命仕事をしている、集中治療室では汗まみれに働いている仲間もいるのだ。そのおかげで、私たちは勉強させてもらっているのだ。」そこまで言われるとメモ用紙も真剣になってきた。講義が終わり、ホテルにチェックインである。一緒に夕食をとる。医師とはどうあるべきかの話ばかリである。たまたまインドカレー専門店での食事であったが汗まみれである。サー夕食が終わり、同じ部屋に泊まることになる。明日の発表の打ち合わせである。その後、バスを沸かし、先に教授に入ってもらう。

教授が出てから私もシャワーにする。ベッドで教授はもう高鼾だ。うるさくて隣では眠れない。睡眠薬があったので私も眠りに入った。悪夢にうなされつつ朝を迎えた。目が覚めたら、もう教授は背広を着ているところであった。「サー今日も勉強だぞ!発表もあるからな。」こんな24時間以上、教授と一緒ではかなわない。発表が終わり、仲間が来たらずらかろうと思った。今日も学会場の教授の隣に強制着席である。もう3日もこんな状態では私は気が狂うかもしれない。やっと、発表がおわり、仲間がやってきて、ほんの隙間を狙って外へ出た。空は青い、女性はきれいだ、ゲームセンターが近くにあった。一ゲームやって、ため息をつき学会場に戻った。「どこへ行っていたのだ?」と教授の眉と眉の間にしわが入った。「えー私は脈波に興味がありまして、PWVの講演会場にいました。」「うそをつけ!私はそこにいたのだ」大学へ帰ったら3倍のお説教であった.かばん持ちはつらいものだ。

 

けんしゅう

投稿者: 大橋医院