2015.06.02更新

<袋小路>

大橋信昭

俺は疲れていた。今日も朝から電話、課長の罵声、タバコの煙、高温多湿な環境、汗の匂い、狭い廊下を歩いていたら部長と体当たりし、取り巻きに叱られた。もうどうでもよい。サラリ-マン生活なんて、どうでもよい。まずは一杯だ。俺の足は狭い汚く煩雑とした飲み屋街の一角、居酒屋"犬の尾"にたどり着いていた。薄汚い玄関をこじ開けると、澄子というママに視線が一致した。「お久しぶりね。待ってたのよ。」と誰にも言う挨拶にうんざりし、「仕事が立て込んでいたんだよ。」と煙草を一本、ライターを付け真っ黒な天井に向かって煙を吐き出した。客は3人ばかりそれぞれ離れて飲んでいる。どいつもこいつもやけくそなんだと、俺は思った。
 頃合いを見て、ママ澄子に「なー、あの物件世話してくれないか?」と俺は厳しい視線をママに送った。彼女は青ざめ、「店が引けるまでだめなの?」「仕方がない」俺は、飲みつぶれないように、腕時計を睨んだ。午前1時にまであと2時間か?それにしてもこの店の悪臭はひどいものだ。ホステスの安香水、タバコ、アルコール臭、調理場からの食物が腐ったような臭いだ。私は午前1時までは待ちきれず、支払いを済ませて、ママ澄子を待っていた。するとサングラスをはめた、このくそ暑いのにスーツと背広姿で、がっちりした男が寄ってきた。「今日の案内役は俺、片岡というんだ。ママは今日出れない。付いてきな!」追いかけるのも、不安だが、俺の心が乱れきっており、彼を追いかけた。袋小路の狭い道を右に行ったり左に曲がったりしているうちに、ある占い師の館にたどり着いた。中には、黒い頭巾を着た厚化粧の老婆がいる。「姉貴、こいつをお願いしますよ。」と男は去っていった。その老婆は口を開いた。「あなたは、こんなもの手にして大丈夫かね。いつ、どこから、命を奪われるか分からないよ。」「俺は構わないよ」すると彼女は奥の間からしぶしぶやっと見つけたように手のひらサイズの黒いケースを持ってきた。10万円で彼女は、その黒いケースを私に譲った。
 私は、黒いケースの中に"ドラッグ"が入っていることを確認し、外へ出た。
急に夜の酒場を行き交う人々の視線が厳しくなった。急いで、大通りに出て、タクシーを拾い、俺の安アパートへ向かった。俺はこのドラッグは使うつもりではない。それはある食物の種であった。これを、知り合いの黒幕の岡安に売りつけ一儲けしようと思っていた。慌てて、電話をかけた。すぐにこの物との
交換場を指定してきた。相手の社気に対する凶悪性から、その人通りのない裏ビルの倉庫は危険だ。ともかく、俺は危険でもいいから刺激が欲しかった。すぐに黒いセダン車がやってきた。俺が到着してすぐにだ。交感条件を言うと彼はにやりと笑い、部下3人が俺を取り囲み、「なめるな!」といい、殴られるは蹴られるは意識がもうろうとなった。ドラッグも、現金も取られ、俺は真っ黒な大都会の細道を血まみれになって歩いていたのだ。俺は世間のクズだ。サラリーマン一人では命があっただけましだったのか?どうせ殺してくれればよかったのに。彼は思いっきり血の混じった唾を道路にはいた。あの岡安を消したいが、もう現れないであろう。安アパートでシャワーを浴び、スーツを着替え、
何もないように会社へ行った。相変わらずの雑然とした会社だ。俺はここで定年を待つ気はない。一山当てるのだ。今夜も刺激を求めて裏通りへ行くつもりだ。「こらー」とさえない課長が俺を呼んだ。足取り重く、彼に近づいた。大したことは無い。別に命まで取ろうとしているのではない。(完)


岐阜県大垣市の大橋医院は、高血圧症,糖尿病、や動脈硬化症に全力投球します

投稿者: 大橋医院