<強く生きる>
大橋信昭
私は思う。人間は強く生きてゆかねばならない。どういう過程で生まれるか、いつ死がどんな形で現れるか、わからない。しかし、私も皆様も、人間は、その日、その日を強く生きていかねばならない。誰かの助けを当てにするかとか、世間の同情を買うなんて、最低の間違いである。死はどうしても避けられない現象である。死後の世界があるなんて、あてにはならない。火葬後のお骨しか残らないのだ。私は医師である。死を目前に病床に横たわっている人がいる。病院から化学療法を勧められている。しかし、副作用が目立つのみで、病院でより自宅での最後を選択される。私は医師として、どうしても悪性疾患より来る苦痛のみを緩和して、家族との触れ合い、自宅のお気に入りの部屋、趣味、私との幼いころからの思い出話に明け暮れる。家族も強い。その人の死に様をもう受け入れている。様々な葛藤があるが、ご本人、家族とも乗り越えられ、昇天される。断末魔に笑顔さえ見られる。家族も尊厳死をよく理解し、涙さえ見られない。強い!
私は、62歳を超えたが、3回も喪主をしている。最初は子供、そして父、3年前には母である。落ち込み、地獄の底で、喘ぎ食事さえ拒んだ。眠れず、閉じこもり、人と交わりたくなり、次の日の朝、死体になっていることを望んだ。アルコールに酩酊し、項垂れた毎日を過ごした。しかし、私は、徐々に立ち直っていった。世間の目は冷たい。あいつは仕事もできずに、過去をひきずり、暗い表情のいやな奴で、終わってしまう。時間をかけて、一歩一歩前を向くようになった。太陽のエネルギーを思いっきり浴び、体を動かし、白衣を着て、患者の話を聞く耳を持ち始めた。そして再び、苦しんでいる家族の在宅医療を始め出した。
人間には、突然、残酷な事態が身の回りに起こる。そして、しゃがみ込み、のた打ち回り、泣きじゃくる。そこで終わってはいけない。悲劇の主役と演じているだろうが、それほどこの世は甘くない。他人は、その悲劇を、おしゃべりのつまみにし、いたる所で、ひそひそ話に事欠かない。軽蔑されるだけだ。
負けてはいけない。一人時間をかけて、自分の人生を生まれた時から思考し、何のために、何が宿命なのか、神は自分に指名を与えてくれなかったのか、考えねばいけない。やがて、その宿命は、力に満ちた人は気が付き、ゆっくり歩み始める。
私は24歳の時に、当時救命率50%の手術を受けねばいけないことを知った。幸い医師であったため、先輩や教授たちの暖かい言葉でその手術を乗り切った。集中治療室から一般病棟、リハビリに至るまで辛かった。何とか医師として復帰したが、体も頭も思うように動くには3年はかかった。私は恨んだ。何故、私がこの病になってしまうのか、病人を助けるために、苦労して医師になったのに、3年間はそれができなかった。しかし、強い意志を持ち、じっくりと体のリハビリ、治療を乗り越え、苦しむ患者さんの所へ走って救命活動が出来るようになった。私は強くなった。
開業してからも、これらの経験、思考過程は私の心にしっかり刻まれており、どんな悲しい境遇で発症した患者さんも復帰するまで全力投球である。幸いなことに、医師であるから、今まで、学んだ医療を、患者さんへ応用すれば、病名も診断でき、社会復帰でき、人に幸せな方向へ導けるのである。こんな素敵な仕事はない。
私も患者さんも、そのご家族も、病院へ来るということは、何らかの不幸を抱えてやってくるのである。努力して、病も乗り越えた経験のある私は、患者さんの気持ちがよくわかる。どんな状況であろうと、可能性さえあれば、小さな隙間さあれば、幸福は待っているはずだ。
私は、あと何年、医師として活動出来る時間が神様からあたえられているか分からないが、激しく進歩していく医療に乗り遅れないように、前を向いて、患者さんと接触してゆく決心である。(完)
岐阜県大垣市の大橋医院は、高血圧症、糖尿病、や動脈硬化症に全力投球します。
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