2015.02.07更新

<私の書斎>
大橋信昭

 私の書斎について考察する。私は医師であり、本来書斎には、医学書が一杯溢れていなくてはいけない。ところが、今書斎を眺めてみると、歴史書、随筆集、推理小説などがもう7割を占拠しており、もう今年の購入した医学書を並べるところがなく、仕方がなくソファーの横にある机の上に山積みしてある。
これでは本業の医師たるべき最新医学知識はどこから得ているのか?もう医学情報はタイムリーにネット、勉強会、新聞、雑誌の要旨を読むのがやっとであり、今の後輩医師から医学情報をおねだりしている始末である。先週に、古い医学文献を片付けていると、山のようなゴミになり、大変疲労困憊した。もう3年前の医学知識は役に立たないからである。
 それにしても歴史書は大切に保存してある。次女が言うには「ブックオフに売れば2足3文だけど、お小遣いなるわよ」と聞こえた。とんでもない!この歴史書は誰にも渡さない貴重なものだ。20代から買い集めている歴史書を、還暦が2年前に過ぎているのに再読中である。どうしても司馬遼太郎が多いが、古代中国から、有史以前の日本、国をなしたころの古代日本、源平合戦から、太平記、戦国時代から江戸時代、幕末、明治時代、大正、昭和初期から戦後の日本の歩み、すべてがわが書斎にあり、どこを再読しても楽しいものである。今、手にしたのは司馬遼太郎の街道が行く24巻目であり、ちょうど関ヶ原から近江に入ろうとしている。今日、医師会があり、有知識者が隣に降り、岐阜県と滋賀県の間に50cmの溝があり、寝物語のいわれにつて尋ねたがよく知っておられた。やはり同業者は知識が旺盛である。下手に聞くものではない。私は、今日の土曜日と日曜日の大半をこの本で過ごそうとしている。
 私が32歳ごろであろうか?司馬遼太郎であるが「項羽と劉邦」という本に夢中になり歴史書の購読、乱読、買い漁りに走ってしまったのである。女房が産気づいても歴史書を読んでおり、父親が心筋梗塞で倒れても、看病、付添いの際にも本を読み漁っていた。その様子を見て、父の主治医が「君、帰っていいよ、後は当院に任せてくれ。」と言われた。本ばかり見ていては父もあきれ返り「よく本を読む息子だ」と病気療養中でも私の看病には感謝していなかった。司馬遼太郎の本を全部買い漁り、講演集まで読み切り、亡くなってしまったものだから、記念館まで行って、手書きのメモまで見てきたのである。
 印象に残る作品として山岡宗八の「徳川家康」がある。これも全部で40巻近くあり、読み切るのに時間がかかったが、戦国時代のスターが総出演しており、とても面白い作品であった。山岡宗八はこの作品を書くとき、家康が乗り移った夢を見たそうであるが、人質として今川家に取られ、織田信長には我慢をし、豊臣秀吉には意地を見せ、大阪城を廃墟にし、使いものにならなかった江戸を世界一の都市に変えるあたりすごいものである。武田信玄には、三方が原の戦いで負け、脱糞しながら浜松城に逃げ込んだり、書きだしたらきりがない。吉川栄治は小学校卒であり、それが新平家物語を完璧に書ききっている。後半は源義経が主役になりがちであるが、24巻だが、源氏、平家、バランスよく登場人物が出ており、日本語があまりにも美しい。頼朝が平家に垂井のあたりでつかまり、都で首をはねられるところを清盛の母から無くしたわが息子と瓜二つであり、助命を乞うあたりはあまりにも文章が綺麗で、我が家を掃除中の妻に、「この文章はあまりにも美しい、君も読むように!」と言ったら、「あなた!私は今の現実が忙しいの、書斎に戻ってください!」と、全く相手にしてくれなかった。私のように古代から第2次世界大戦後まで思考が行ったり来たりしておるようでは妻としては失格であり、我が家が破滅してしまう。それにしても、小学校卒といえば山本周五郎であり、これも全作品あるが、直木賞を断り、家族とも離れ、マスコミを嫌い、死ぬまで作品作りに徹した人は変人か天才か紙一重である。藤沢周平も江戸時代の庶民の生活をまるで思い出すように書き込んでおり夢中になった。松本清張が古代史や昭和史発掘が全13巻あるが、5.15事件、2.26事件を彼の拗な考察には私はついに降参した。戦後の「日本の黒い霧」も、GHQの悪口がしっかり書いてあり、私もこの本をこれ以上ここに書くことは命が危ない。松本清張だからあの大胆な発想を文章化したのであろう。
 それにしても、わが書斎は今後、いかなる本の構成にしていかなくてはいけないのか?池波正太郎も全作品あるし、医学書は医師である以上半分は占拠すべきだ。黒沢明作品集の映画の脚本集、映画考察集も見ても異常な書斎になってしまった。今や、幽霊屋敷以上に気味が悪いと家族が寄り付かない。孫も生まれたのに、相変わらず、私の思想は、司馬遼太郎と共に近江路へ歩こうとしているのである。この前、長女の婿殿に、東野圭吾の作品「手紙」を読んで泣いていたら、彼は笑っていた。これから在宅医療で私たち医師は、地元に拘束されるから、読書の時は自由な世界を歩いてもいいはずだ。(完)


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投稿者: 大橋医院