2024.10.15更新

小さくて無症状の場合は経過観察
筋腫が小さくて無症状の場合、治療はせず、経過観察をすることがほとんどです。筋腫の状態や場所に応じて定期的に検診を行い、筋腫が大きくなったり、症状が現われたりしてきた場合は治療を行います。子宮筋腫は、閉経を迎えるとエストロゲン減少の影響を受けて必ず小さくなるため、閉経が近い年齢であれば、経過観察を行いながら閉経を待つことになります。

薬での治療で症状を一時的に緩和できる
治療法には手術と薬があります。ただし、子宮筋腫の根本的な治療薬は今のところなく、薬で子宮筋腫を治療する場合は、子宮筋腫を小さくする偽閉経療法、もしくは過多月経や月経痛などの症状を軽くする対症療法をとります。

子宮筋腫の治療法①:偽閉経療法
 GnRHアゴニストという薬によってエストロゲンを抑制し、子宮筋腫を小さくする方法。しかしこの治療では女性ホルモンの分泌が少なくなるため、更年期のような症状が出たり、骨量が低下したりするリスクもある。そのため、この治療法の多くは手術の前に一時的に用いられたり、閉経が近い年齢の人への一時的治療として行われたりしている。最近では、これまでの注射や点鼻薬以外に内服薬も出ている。
子宮筋腫の治療法②:対症療法
 直接、筋腫に働きかける治療を行うのではなく、貧血や生理痛、下腹部痛といった付随する症状を和らげることで、間接的に治療を行う方法。緩和したい症状に応じて、それを抑える薬を使用する。

低用量ピルで月経量を減らすと症状と付き合いやすくなる。プロゲステロンを含有するピルを使うことで、筋腫が大きくならず、症状も緩和されることがある。
根治するには手術を行う
子宮筋腫を根治させるには手術を行います。妊娠を希望するかどうかによって、どちらの方法を選択するかが異なります。

子宮筋腫の手術①:筋腫のみを除去する手術(筋腫核出術)
 子宮を温存し、筋腫のみを除去する手術方法。筋腫の場所にもよるが、最近では腹腔鏡や子宮鏡を用いて手術を行い、開腹せずに筋腫を取り除くことが多い。また子宮筋腫は妊娠中に大きくなるが出産後には縮小する。妊娠・出産を望む場合は筋腫が妊娠や出産の妨げにならないよう先に手術をすることがあるが、その際、出産は帝王切開になるので、必要なければ取らずに妊娠を先行させる。
子宮筋腫の手術②:子宮全摘術
 子宮そのものを摘出し、子宮筋腫を根治させる方法。卵巣やその他、付随する組織は温存したままだが、子宮全体を摘出するので再発の心配はない。悪性の疑いがある場合や強い生理痛、過多月経などの症状がある場合で、今後の妊娠を希望しない患者に対して行われる。

投稿者: 大橋医院

2024.10.15更新

<にきび>ツムラ清上防風湯、ツムラ排膿散及湯、

<湿疹>ツムラ当帰飲子

<肥満症、浮腫、皮膚病、浮腫、多汗症、月経不順>ツムラ防己黄耆湯、

投稿者: 大橋医院

2024.10.13更新

 ヘリコバクター・ピロリ(H.ピロリ)菌感染率は、日本ではかなり低下してきていますが、世界全体に目を向けるとまだまだ高いようで、多くの論文が見られます。その中で、H.ピロリを除菌治療すると大腸がんが減るという論文が目に留まりました。

 H.ピロリ菌感染が慢性胃炎を引き起こし、さらに胃がんの原因にもなっていることは有名ですし、それ以外にも特発性血小板減少症などの胃外疾患の原因にもなっていることも、比較的知られていると思います。ただ、大腸がんの原因であるというのは、筆者もこれまであまり目にすることがありませんでした。また胃とは離れた大腸という臓器において、どのような機序でH.ピロリ菌感染が発がんと関わっているのかという点についても興味をひかれ、この論文に注目しました。

私の見解
 本論文は、約81万人という膨大な数の退役軍人を対象とした後ろ向き研究です。H.ピロリ陽性者と陰性者、また、H. ピロリ陽性者で治療を受けた症例と受けていない症例を比較し、新規大腸がん症例、致命的経過をとった症例が、H.ピロリ陽性者および非治療者で多いことを示しています。したがって、H.ピロリ菌感染が、大腸がんの発がんやそれによる死亡に関与していることが示されました。

 疫学調査とはいえ、十分な数による検討ですので、その結果の信頼性は高いと思われます。その機序などがどこまで分かっているのかに興味がそそられたため、調べてみたところ、「Effects of Helicobacter pylori infection on intestinal microbiota, immunity and colorectal cancer risk」(Front Cell Infect Microbiol 2024: 14: 1339750)というレビュー論文が見つかりました。

 このレビュー論文では、これまで多くの疫学調査からH.ピロリ菌感染によって大腸がんのリスクが約1.8倍となることがまず指摘されています。さらにその機序として、H.ピロリ菌は胃内の免疫系を活性化し、その後クロストークによって小腸から大腸の免疫系に影響を与え、それによって腸内細菌叢も変化させることで大腸がんの発生に関与している可能性を示唆しています。正確な機序はまだ分かっていないため、さらなる検討が必要なようですが、現在増えつつある大腸がんに対する対策の一つになり得る有用な知見だと思います。

 ただし現在、日本では胃がんは減少しつつあり、その要因の一つは除菌治療によるH.ピロリ菌感染率の低下だと考えられます。これに対し大腸がんは増加傾向ですので、この増加の主な原因はそれ以外にあることになりますが、H.ピロリが大腸がんの一因であることは間違いなさそうです。

日常臨床への生かし方
 H.ピロリ菌の除菌治療は、慢性胃炎、さらには胃がんの予防という効果がありますが、現在増加傾向にある大腸がんの予防効果も期待できると考えられます。

投稿者: 大橋医院

2024.10.12更新

ロングコロナについて知る
ポストコロナ(Post – COVID 19 Condition)またはロングコロナ(Long COVID) は、COVID-19の感染者が感染後4週間から12週間以上経過しても見られる状態や症状です。 これらの症状は多岐にわたり、個々の患者で異なることが多いです。特に肺に感染が見られ、持続性の病気を持つ患者に多く見られます。また、女性に多く見られ、呼吸機能が低下し、肺が硬くなりうるため、正常な酸素交換ができず、普段よりも容易に息切れし、十分に呼吸できなくなり、その他の異常が個人により異なる形で現れる可能性があります。

よく見られるロングコロナの症状
ポストコロナ(Post – COVID 19 Condition)またはロングコロナ(Long COVID)でよく見られる症状には、以下のようなものがあります:

慢性的な疲労感
容易に疲れたり、筋力が低下する
呼吸困難、息切れ
頭痛
集中力の低下
記憶障害
咳、胸の痛み
筋肉痛、関節痛
下痢
嗅覚喪失、味覚喪失
うつ症状、ストレス、不安感
COVID-19から回復した時のロングコロナ

ロングコロナの治療
COVID-19から回復後に自分の体の異常に注意を払うことが重要です。なぜなら、医師は症状に基づいてポストコロナ(Post – COVID 19 Condition)またはロングコロナ(Long COVID)を治療するからです。 したがって、症状がある場合は迅速に医師に相談することが治療を適時に行うのに役立ちます。また、医師の指導に従って定期的に体をチェックすることで、異常を早期に発見し、適切に自己管理することができます。

ロングコロナからくる合併症
ポストコロナ(Post – COVID 19 Condition)またはロングコロナ(Long COVID)から起こりうる長期的な合併症には以下のようなものがあります:

心筋炎 (Myocarditis)
ブレインフォグ (Brain Fog)
自律神経失調症 (Dysautonomia)
ギラン・バレー症候群 Guillain – Barre Syndrome
線維筋痛症 (Fibromyalgia)
不眠症 (Insomnia)
過度な運動は避ける
COVID-19から回復した人は、過度な運動を避け、過度に疲れるほどの運動をすることは推奨されません。 軽い運動に切り替えることをお勧めします。たとえば、普段走っていた人は歩くようにするなど、肺が過度に負担されず、体が徐々に回復し、強くなるように調整することが大切です。


現在、ポストコロナ(Post – COVID 19 Condition)またはロングコロナ(Long COVID)の原因は明確ではありませんが、COVID-19から回復した人の体と心に異常を引き起こす可能性があります。そのため、自分の体を注意深く観察し、定期的に評価し、正しく体を回復させることが重要です。生活に支障をきたす症状があれば、直ちに医師に相談し、放置せずに迅速に治療を受けることが勧められます。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.11更新

<マイコプラズマ肺炎>
概要
マイコプラズマ肺炎とは“マイコプラズマ”と呼ばれる細菌の一種に感染することによって引き起こされる肺炎のことです。小児や若い世代に比較的よく見られる肺炎であり、発症者の約8割は14歳以下であるとされています。
マイコプラズマ肺炎は大人の場合でも比較的、若年者に多く、高熱以外の重篤な症状は現れにくく、発症したとしても全身の状態はそこまで悪くないことも少なくありません。しかし、中には呼吸不全を伴うような細気管支炎を引き起こして入院治療が必要になったり、などの合併症を引き起こしたりするケースもあります。
原因
マイコプラズマ肺炎は、細菌の一種である“マイコプラズマ”に感染することによって引き起こされる病気です。
マイコプラズマは、飛沫感染と接触感染によって感染者から周囲の人に感染が広がっていきます。飛沫感染とは、病原体が含まれた感染者の咳やくしゃみのしぶき(飛沫)を吸い込んでしまうことによって感染する経路のことです。
一方、接触感染とは、病原体が付着した物に触れ、その手で鼻や口を触ることによって体内に病原体を取り入れてしまう感染経路とされています。いずれも周囲に感染者がいると感染するリスクが高くなり、特に小児の集団生活の場で感染が広まることが少なくないとされています。
マイコプラズマ肺炎は冬に感染者がやや増えるものの、1年を通して発症する可能性があるため注意が必要です。
症状
マイコプラズマ肺炎は、原因となるマイコプラズマに感染して2~3週間の潜伏期間を経た後に発熱、だるさ、頭痛など一般的な“風邪症状”が現れるのが特徴です。
肺炎の特徴的な症状である咳などの呼吸器症状は発症後3~5日ほど経ってから現れることが多いとされています。また、発熱などの全身症状は通常数日で改善しますが、咳のみが1か月ほど続くのも特徴の1つです。
そのほかにも胸の痛み、喉の痛み、声のかすれ、下痢・嘔吐、皮疹など多岐にわたる症状を引き起こすことも知られています。
そして、重症化した場合は細気管支炎を併発し、ゼイゼイとした苦しそうな呼吸が見られることも少なくありません。また、中耳炎、髄膜炎、肝炎、、関節炎などさまざまな合併症を引き起こすケースもあり、特に成人が発症すると小児よりも重症化しやすいとされています。
検査・診断
マイコプラズマ肺炎が疑われるときは次のような検査が行われます。
血液検査
体内で生じている炎症、高熱による脱水の有無などを調べるために血液検査を行うのが一般的です。また、検査は診断時に一度だけでなく、病状の変化や治療効果を評価する目的で繰り返し行われます。
画像検査
肺炎の状態や広がりを確認するため、X線検査やCT検査が行われます。CT検査のほうがより詳細に肺に生じた炎症の状態を描出することができますが、乳幼児は体動を制御することが困難なためCT検査は行わず、短時間で簡便に実施できるX線検査のみを行うケースもあります。
マイコプラズマの感染を確認する検査
マイコプラズマ肺炎は血液検査や画像検査のみで確定診断を行うことはできません。確定診断を下すには、マイコプラズマに感染したことを確認する検査が必要です。
感染の有無を確認する検査方法は多々ありますが、もっともオーソドックスなのは鼻や喉から採取した粘液、痰を培養してマイコプラズマの有無を調べる方法です。しかし、この方法は結果が分かるまでに時間がかかり、特殊な培地が必要であるため、実用的な検査とはいえません。
そのため、マイコプラズマに対する抗体(病原体を攻撃するたんぱく質)の数値やマイコプラズマの遺伝子の有無を調べる検査などが行われます。また、近年では鼻や喉の粘液にマイコプラズマが含まれているか迅速に評価できる“診断キット”も広く用いられるようになっています。
治療
マイコプラズマ肺炎の治療は、マイコプラズマを死滅させるための抗菌薬による薬物療法が行われます。
主にマクロライド系と呼ばれる種類の抗菌薬が用いられますが、2000年代にはマクロライド系の抗菌薬が効かないマイコプラズマが多く出現するようになり、ほかの種類の抗菌薬が必要になることも少なくありません。
また、そのほかにも咳止めや解熱剤などそれぞれの症状を和らげるための薬物療法も並行して行われるのが一般的です。さらに、呼吸困難や脱水などの症状が強いときは、酸素投与や点滴が必要となるため入院治療をせざるを得なくなるケースも珍しくないとされています。細気管支炎の合併が認められた場合には早期からステロイド治療を併用することが肝要です。
予防
マイコプラズマ肺炎は飛沫感染と接触感染によって感染者からうつる病気です。
現在のところ有効なワクチンなどは開発されていないため、感染を高率に予防できる方法はありません。そのため、マイコプラズマ肺炎になるリスクを低減させるためには手洗い・消毒など一般的な感染対策を徹底し、周囲に感染者がいるときはマスクを着用することが大切です。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.10更新

糖尿病で肥満を合併して苦しんでいる、悩んでいる患者さんへお知らせします。

リベルサス錠があります。糖尿病薬としても優れております。

経口GLPT-1受容体拮抗薬といいます。

糖尿病は改善、スリム、ナイスボディーになります。

当院にご相談ください。

投稿者: 大橋医院

2024.10.10更新

肺炎は、細菌やウイルスなどの病原微生物が感染して、肺に炎症を起こす病気です。平成26年の厚生労働省の統計によると、わが国における肺炎による死亡数は、悪性新生物、心疾患に続く第3位となっています。このうち市中で起こる肺炎は、一般の社会生活を送っている人、すなわち健康な人あるいは軽度の病気を持っている人に起きる肺炎を指します。
 原因となる微生物は、肺炎球菌が最も多く、次いでインフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミドフィラとなっています。肺炎マイコプラズマによる肺炎は、一般に軽症で、若い人に多い傾向はありますが、入院治療を要するほど重症となったり、高齢な人に起きることもあります。
 せき、たん、息切れ、胸の痛み、発熱などの症状をみられます。疲れやすい、発汗、頭痛、吐き気、筋肉の痛み、さらには、お腹の痛みや下痢といった症状がみられることもあります。高齢な人では、肺炎を起しても、このような症状をはっきりと示さないことがあります。
 診察所見、胸部エックス線画像、血液検査で診断します。肺炎と診断した場合には、さらに原因微生物を調べる検査を追加します。鼻やのどの奥をこすりとったり、たんや尿を出してもらい、原因微生物を調べます。
 病原微生物に対する抗菌薬で治療します。軽症であれば、抗菌薬を飲んでもらい、外来への通院で治療します。年齢や呼吸状態などから重症と判断した場合には、入院してもらい、抗菌薬を注射します。普段から栄養の保持に心掛け、よく体を動かし、禁煙に努めることと、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種しておくことが、肺炎予防につながります。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.10更新

中国中南大学のJie Wei氏らは、英国のプライマリ・ケア・データベースを利用して、2型糖尿病と痛風がある患者を対象に、糖尿病治療薬が痛風の再燃に与える影響を調べるコホート研究を行い、SGLT2阻害薬で治療した患者群は、GLP-1受容体作動薬またはDPP4阻害薬で治療した患者群に比べ、痛風の再燃リスクや総死亡率が低かったと報告した。結果は2023年8月25日のJAMA Network Open誌電子版に掲載された。

 現在の痛風診療ガイドラインは、尿酸降下薬を長期間使用して、痛風の再燃予防を推奨している。しかし、高尿酸血症があっても尿酸降下薬を処方されていないなど、最適な治療が実施されているとはいえない状況が報告されている。また、尿酸降下薬を使用している患者のアドヒアランスが低いことも、痛風の再燃につながりやすい。

 2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は、糖尿病患者だけでなく、糖尿病ではない患者においても、主要な心血管有害イベントと総死亡リスクを減らすことが示されている。また、SGLT2阻害薬は血清尿酸値の低下にも関係することが分かっている。しかし、SGLT2阻害薬が、痛風の再燃や痛風患者の死亡リスクを減らすのに役立つかを調べた研究は報告されていなかった。そこで著者らは、痛風と2型糖尿病がある患者を対象に、SGLT2阻害薬と他の糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬またはDPP4阻害薬)を用いた治療が、痛風再燃と総死亡率に与える影響を比較するコホート研究を計画した。

 

投稿者: 大橋医院

2024.10.09更新

難しい終末期患者の管理
 外科医として中規模公立病院で働いています。これまで、多くのがん患者さんを診てきましたし、終末期の症例も多く経験しました。がんの終末期で困ることの一つと言えば、「末梢静脈路確保ができなくなること」でしょう。元気なときは両上肢にムキムキの皮下静脈があった人でも、がんの終末期になると皮下静脈がほとんど分からなくなってしまうケースが多々あります。

 私が医師になった1990年代末、末梢静脈路確保ができなくなった終末期患者さんには中心静脈を確保していました。しかし、せん妄でせっかく入れたカテーテルを抜かれてしまうこともありました。

 また、終末期の患者さんに「カットダウン法でカテーテルを入れた」ということもありました。何とかして静脈輸液のルートを確保しなければならないと思っていたからです。ほとんど経口摂取ができない患者さんには水分を補給しなければならないと思っていましたし、疼痛が強い方には鎮痛薬の持続投与もしなければなりませんでした。

 数年後、中心静脈ポートが一般的になりました。大腸がん化学療法で48時間持続投与するメニューに必要なため中心静脈ポートが広がったのですが、それに付随して終末期にも広がった、という印象でした。ただ、中心静脈ポート留置術は局所麻酔とはいえ手術であり、弱った患者さんに行うのは気の毒に感じました。

 中心静脈確保や中心静脈ポート留置術は、患者にとっても医師にとってもストレスです。手技そのものに苦痛が伴いますし、合併症も無視できません。

在宅医療にマッチした過去の手技
 そんな中、私の周囲では2010年前後に静かに復活した過去の手技があります。それは皮下輸液です。在宅医療を積極的に行っている先生に教わりました。合併症はなく、手技も簡便で苦痛も少ないこの方法は、病院よりも在宅医療での需要にマッチしたのでしょう。私も中心静脈確保のストレスに辟易していたので、早速病棟でも始め、その有用性に感激しました。

 とはいえ、「輸液と言えば静脈から」と習った世代にとっては抵抗があったことも事実です。他科の医師に皮下輸液を勧めたところ、

 「そんなんええの? ありえへんやろ」

 などと言われたこともありました。

 看護師からも「そんなことをして良いのか」という意見もありました。しかし、折しも皮下輸液が見直され、緩和医療ガイドラインにちょうど掲載された時期でもあり、急速に広まって行きました。

半世紀を経て復活した皮下輸液
 輸液が日本で行われ始めたのは、コレラの流行をみた幕末から明治期でした。いかに脱水を補正するかが問題だったのですが、やはり静脈から水分・電解質を補充することは技術的に難しく、1950年代までは広く皮下輸液が行われていたようです。

 静脈輸液は、滅菌した輸液製剤、滅菌した静脈針、輸液チューブが必要であり、さらにそれを流通させねばなりませんので、一部では行われたものの、一般に普及するには至らなかったのでしょう。

 その後は静脈輸液が一般化して、皮下輸液はまったくと言っていいほど用いられなくなり、ほぼ忘れられた手技となっていました。2010年頃、約半世紀を経ての手技の復活となったわけです。

 過去の医学をひもとくと、現在忘れられているものの実は有用な手技があるのかもしれません。また、私たちが現在行っている手技がいったん忘れられ、そして復活することがあるのかもしれません。

 今行っている方法を絶対視せず、常に医学は変わりゆくものであるという広い視点を持つことは大事だと思います。そして俗物の私は、過去の手技の有用性を見出して現代に復活させることができればカッコいいだろうな、ドヤ顔ができるだろうな、なんて思っているのです。

※参考文献
1)日本医史学雑誌 第 58 巻第 4 号(2012) 437-455 日本における食塩水皮下注入から 静脈内持続点滴注入法の定着までの歩み 岩原 良晴

投稿者: 大橋医院

2024.10.08更新

なぜ、大腸に限局して発現している分泌性の脂質分解酵素が肥満に影響を与えるのか?

 東京大学は9月25日、大腸に発現している脂質代謝酵素であるX型分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2-X)が、腸内細菌叢の調節を介して全身の代謝に影響を及ぼすことを世界に先駆けて解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の村上誠教授と佐藤弘泰助教、医薬基盤研究所(NIBIO)の國澤純副所長、慶應大学薬学部の有田誠教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Cell Reports」オンライン版に掲載されている。

 脂肪を多く含む食事(高脂肪食)を過剰に摂取すると肥満になるが、この時に腸内細菌叢の組成も大きく変化する。腸内細菌叢が悪玉菌優位に変わると大腸に慢性的な炎症が生じ、大腸上皮のバリア機能が乱れる結果、遠隔の臓器(例えば脂肪組織や肝臓)にも慢性炎症が広がり、肥満や2型糖尿病が悪化する原因となる。分泌性のリン脂質分解酵素の一つであるsPLA2-Xは大腸の上皮細胞に高発現しているが、それ以外の臓器にはほとんど発現していない。

 研究グループは、sPLA2-Xの遺伝子を破壊したマウス(sPLA2-X欠損マウス)に高脂肪食を与えると野生型マウスよりも太りやすいことを見出した。しかし、なぜ大腸に限局して発現している分泌性の脂質分解酵素が肥満に影響を与えるのかは不明だった。

sPLA2-Xがオメガ3脂肪酸を遊離して大腸の炎症を防ぎ肥満を抑制

 研究グループがsPLA2-X欠損マウスに高脂肪食を与えると、野生型マウスと比べて肥満が増悪。sPLA2-Xの主要発現部位である大腸では、炎症マーカーの発現が増加していた。sPLA2-Xが大腸の脂質代謝を調節していることを想定し、リピドミクスによってsPLA2-X欠損マウスの大腸の脂質を網羅的に分析したところ、オメガ3脂肪酸が野生型マウスと比べて減少していた。欠損マウスにオメガ3脂肪酸を多く含む餌を与えて飼育すると、太りやすい体質は解消した。

 このことから、sPLA2-Xは大腸のリン脂質を分解し、抗炎症性の脂質として知られるオメガ3脂肪酸を遊離することで大腸の炎症を防ぎ、肥満に対して防御的に働くことがわかった。

sPLA2-X欠損マウスが太りやすくなるメカニズムとプロセスを解明

 sPLA2-X欠損マウスの肥満増悪の表現型は、野生型マウスと欠損マウスを同じケージ内で飼育して腸内容物(糞便)を相互交換した場合や、抗生物質を与えて体内の微生物を一掃した場合には消失した。この結果は、腸内細菌叢の変容が欠損マウスの肥満の表現型の要因となっていることを示唆している。

 そこで、欠損マウスの腸内細菌叢を野生型マウスと比較したところ、クロストリジウム属の一部の細菌が欠損マウスで減少していた。クロストリジウム属の細菌は、食物繊維を代謝して短鎖脂肪酸を産生することが知られている。そのため、糞便および血液中の短鎖脂肪酸を測定したところ、欠損マウスでは野生型マウスと比べて短鎖脂肪酸が減少していた。短鎖脂肪酸には抗炎症作用や代謝改善作用があることから、短鎖脂肪酸を含む飲水を欠損マウスに与えたところ、肥満増悪の表現型は消失した。さらに、オメガ3脂肪酸を与えたマウスの糞便では短鎖脂肪酸が増加していた。

 これらのことから、sPLA2-X欠損マウスが太りやすい理由として「sPLA2-Xは大腸においてリン脂質からオメガ3脂肪酸を遊離する」「オメガ3脂肪酸の作用により、腸内細菌叢の中に善玉菌であるクロストリジウム属が増える」「その結果、クロストリジウム属が産生する短鎖脂肪酸の抗炎症・代謝改善作用により、肥満が抑えられる」というメカニズムが明らかになった。sPLA2-X欠損マウスはこのプロセスが破綻するため、太りやすい体質になる。

sPLA2-X欠損マウスが太りやすくなるメカニズムとプロセスを解明

 本研究は、大腸に発現している脂質代謝酵素sPLA2-Xが、腸内細菌叢の修飾を介して全身の代謝に二次的な影響を及ぼすことを示しており、腸内細菌叢の重要性を再確認するとともに、分泌性ホスホリパーゼA2の動作原理に関する新しい側面を明らかとしたものだ、と研究グループは述べている。

投稿者: 大橋医院

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