血友病A
血友病AのPoint
日本の患者数:5,000人弱(男子出生5,000人~1万人に1人)
発症年齢:生まれつき
性別:多くは男性でみられるが、女性でもみられる場合がある
主な症状:重症は皮下、関節、消化管などの出血、中等~軽症は抜歯や手術時の止血不全など
原因遺伝子:F8遺伝子
治療:第VIII因子製剤による補充療法など
――― 疾患の特徴
出血すると、まず血小板が傷ついた血管の部分に集まり、血小板のかたまりをつくります。さらに、TF(組織因子)をきっかけに、血液中の凝固因子が次々と反応する「凝固反応」が起こります。その結果、フィブリンというタンパク質がつくられ、血小板のかたまりを網目状に補強することで、しっかりと止血されます。
凝固因子にはI~XIIIまでの番号が付けられていますが、第VI因子は現在欠番で、第IV因子はカルシウムイオンを指します。これらが連鎖的に働くことで、血液を固める仕組みが成り立っています。
止血された後は、傷ついた血管の修復が進み、不要になった血栓は徐々に取り除かれていきます。
血液凝固因子のうち「第VIII(8)因子」の活性が生まれつき全くない、もしくは十分な活性が得られないため、非常に血が止まりにくい遺伝性疾患が、血友病Aです。検査の結果、第VIII因子活性が1%未満の人は重症、1~5%は中等症、それ以上(40%未満)は軽症に分類されます。重症の人は、1歳前後(乳児期後半)から、手足やおしりなどに皮下出血がたびたび見られ、幼児期以降は関節内の出血や、筋肉内の出血が多く見られるようになります。膝や肘などの大きな関節に、何度も繰り返し出血を起こすと、関節が変形したり動かしづらくなったりし、血友病性関節症になります。口の中や消化管の出血、血尿も見られ、頭蓋骨の内側や腹腔内出血など、命に関わる出血も起こり得ます。一方、中等症や軽症の人では、自然に出血することはほとんどありませんが、抜歯、手術、けがで血が止まりにくいなどにより発覚したり、血友病の検査で偶然に見つかったりすることが多いとされています。
第VIII因子と同じように、他の凝固因子の遺伝子でも、先天性凝固障害症がありますが、血友病Aは先天性凝固障害症の中で最も多い病気です。この病気になる頻度は、男子出生5,000人~1万人に1人で、国の調査によると、患者さんの数は5,000人弱とのことです。
血友病Aは、小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。
――― 原因遺伝子
原因遺伝子として「F8遺伝子」が同定されています。F8遺伝子は、血液凝固第VIII因子の設計図となる遺伝子で、この遺伝子に変異があると血友病Aになります。
血友病Aは、X連鎖潜性(劣性)遺伝の形式をとります。原因となるF8遺伝子はX染色体上にあります。男性はX染色体を1本しかもたないため、そのF8遺伝子に病気の原因となる変化があると血友病Aを発症します。一方、女性は通常X染色体を2本もつため、片方のF8遺伝子に変化がある場合は「保因者」となります。保因者では第VIII因子の活性に個人差があり、出血症状がみられることもあります。
血友病Aの男性の娘は、父親からF8遺伝子に変化のあるX染色体を必ず受け継ぐため、原則として保因者となります。一方、息子は父親からY染色体を受け継ぐため、父親から血友病Aを受け継ぐことはありません。また、保因者の女性から生まれる子どもは、性別にかかわらず2分の1の確率でF8遺伝子に変化のあるX染色体を受け継ぎます。息子が受け継いだ場合は血友病Aを発症し、娘が受け継いだ場合は保因者となります。娘でも、第VIII因子の活性が低く、出血症状がみられる場合があります。
重症度に関連する、第VIII因子の活性の違いは、F8遺伝子のどの部分にどのような変異が入っているのかによります。血友病AになるF8遺伝子変異の種類は、欠失や点変異、挿入、逆位などさまざまですが、「イントロン22の逆位」は、重症型の約40%にみられます。また、親が血友病Aの遺伝子変異を持っていないのに、子どもから新たに変異を持つようになる「孤発例」も約30%に見られます。
――― 診断方法
さまざまな検査を受け、医師がその結果を総合的に判断して、診断をします。具体的には、出血時間や血小板数、凝固因子の働きを測る「プロトロンビン時間(PT)」などを調べて、出血傾向の原因を探る「止血スクリーニング検査」を行い、血友病Aが疑われた場合には、確定診断のために、第VIII因子の活性を検査で調べます。血友病Aでは、この活性が40%未満です。他にも、似たような病気(フォン・ヴィレブランド病や、第VIII因子阻害物質による後天性血友病など)との鑑別をするための検査が行われたりします。
――― 治療法
第VIII因子製剤による補充療法
血友病Aでは、第VIII因子製剤による補充療法などが行われます。補充療法に使われる凝固因子製剤には、大きく分けて「血漿由来製剤」と「遺伝子組換え製剤」があります。血漿由来製剤は、献血で集められた血液の血漿をもとに製造されます。一方、遺伝子組換え製剤は、凝固因子の遺伝子を組み込んだ培養細胞に凝固因子を作らせ、それを精製して製造されます。
補充療法を受ける間隔や期間は、その人の症状に合わせて決められます。補充療法は、出血があるときだけでなく、運動会などけがの恐れがある行事の前に注射する、予備的補充療法や、将来血友病性関節症になるのを予防するために、一定間隔で注射をする定期補充療法なども行われています。特に定期補充療法では、患者さん本人または家族に医療者が指導をしたうえで、自宅で自己注射できる「家庭療法」も普及しています。
非凝固因子製剤による治療
第VIII因子を補充せずに出血を予防する治療薬も使われています。エミシズマブ(製品名:ヘムライブラ)は、第VIII因子と似た働きをする(第VIII因子の機能を代替する)抗体製剤です。皮下注射によって定期的に投与されます。
このほか、血液凝固を抑える働きをもつ「組織因子経路阻害因子(TFPI)」を標的とする抗体製剤として、コンシズマブ(製品名:アレモ)やマルスタシマブ(製品名:ヒムペブジ)も使われています。
軽症・中等症に対するデスモプレシン
血友病Aの軽症もしくは中等症の患者さんには、デスモプレシンという薬の静脈注射が行われる場合があります。デスモプレシンは第VIII因子の活性を上昇させることが知られており、出血時や抜歯などでの止血管理の有用性が確立されています。
インヒビターが作られた場合の治療
第VIII因子製剤による補充療法を繰り返すことで、一部の患者さんでは第VIII因子を免疫系が異物と認識し、これに対する抗体(インヒビター)が作られてしまうことがあります。ひとたびインヒビターが作られると、凝固因子製剤だけで止血管理が困難になることがあります。
インヒビターの治療には、中和療法(インヒビターの活性を抑え、さらに止血できるレベルの大量の第VIII因子製剤を注射する)、バイパス止血療法(第VIII因子を介さないで止血できるような薬を用いる)などが行われます。また、免疫寛容導入療法(第VIII因子製剤を繰り返し投与することで、インヒビターをなくすことを目指す治療)が行われることもあります。
また、2026年8月には、マルスタシマブ(製品名:ヒムペブジ)が、インヒビターを保有する血友病Aの患者さんにも使用できるようになりました。
新しい治療の研究・開発
血友病Aでは、より効果が長く続く治療や、より少ない回数の投与で出血を予防できる治療など、新しい治療法の研究・開発が進められています。現在、第VIII因子の働きを補う新しい抗体製剤などについて、臨床試験が行われています。
また、第VIII因子の遺伝子を体内に届け、第VIII因子を自分の体で作れるようにする「遺伝子治療」についても、研究が続けられています。
参考サイト
小児慢性特定疾病情報センター 血友病A
GRJ 血友病A
医薬品医療機器総合機構(PMDA)
Rangarajan S et al. N Engl J Med 2017; 377:2519-2530.
提供:遺伝性疾患プラス


