2026.06.10更新

アルツハイマー病の記憶障害、嗅内皮質のドーパミン不足が原因
東北大ほか、研究成果は、「Nature Neuros」


悪玉物質の除去だけでは治らない、記憶障害を引き起こす神経細胞の謎

 東北大学は4月23日、アルツハイマー病マウスにおいて、記憶をつくりだす脳領域「嗅内皮質」におけるドーパミンの不足が記憶障害を引き起こしていることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科認知生理学分野の五十嵐啓国際卓越教授、中川達貴助教、およびカリフォルニア大学アーバイン校の国際共同研究チームによるもの。研究成果は、「Nature Neuroscience」に掲載されている。

 高齢化が進む日本においてアルツハイマー病罹患者の増加は大きな社会問題であり、治療法の開発が急務となっているが、確実な治療法はまだ見つかっていない。これまでの研究から、脳内の悪玉物質を取り除いても一度発症した記憶障害は治らないことが多く、その理由として神経細胞の失調や細胞死が一度起こると自己治癒しないためと考えられてきた。
そこで研究チームは発想を転換し、失調した神経細胞が脳のどこにあるのかを特定する研究を進めた。初期のアルツハイマー病では海馬の隣にある嗅内皮質がダメージを受けることが知られていたが、どの神経細胞が障害されるのかは長らく不明であった。

アルツハイマー病マウスの嗅内皮質ドーパミン量は健常群の5分の1以下に低下

 今回の研究では、アミロイドβが脳に蓄積しやすいアルツハイマー病マウス(APP-KIマウス)を用いて、匂いを覚えるテストによる実験を行った。健常なマウスは簡単に匂いを覚えることができるが、アルツハイマー病マウスは匂いを覚えることができない。

 解析の結果、マウスが匂いを嗅いでいるときの嗅内皮質におけるドーパミン量を測定したところ、健常なマウスと比べてアルツハイマー病マウスではドーパミン量が5分の1以下まで減少していることが明らかになった。また、電気生理学記録法によって嗅内皮質の神経活動を測定した結果、アルツハイマー病マウスでは神経細胞が覚えるべき匂いに正しく応答できなくなる異常が見られた。さらに、光遺伝学法を用いて嗅内皮質のドーパミンを増やす治療実験、および既存のドーパミン治療薬「レボドパ」を投与する実験を行ったところ、嗅内皮質の神経活動が正常な状態に近づき、マウスが再び匂いを記憶できるようになることを見いだした。

パーキンソン病治療薬「レボドパ」の転用など、新たな治療戦略の確立に期待

 これまでドーパミンは体の動きを司る線条体での役割(不足するとパーキンソン病を引き起こす)が主流とされ、記憶障害が主たる症状であるアルツハイマー病には関係がないと考えられていたため、レボドパはアルツハイマー病治療薬として認可されていなかった。

 同研究成果は、嗅内皮質のドーパミン不足がアルツハイマー病の記憶障害を引き起こす原因のひとつであり、これを増加させる治療を行えば記憶障害が改善する可能性を示したものである。現在はマウスを用いた結果であるが、アルツハイマー病患者の脳においてもドーパミンの働きが低下していることが示唆されている。「今後は、アルツハイマー病患者の嗅内皮質とドーパミンについてより詳細に研究を進めることで、ドーパミンを用いたアルツハイマー病の新たな治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

投稿者: 大橋医院