魚タンパク質の摂取は腸の機能にどう影響する?
関西大学は2月18日、魚由来タンパク質の摂取が加齢に伴う短期記憶の低下を予防する効果についての研究成果を発表した。この研究は、同大化学生命工学部の細見亮太教授、福永健治教授および関西医科大学医学部衛生・公衆衛生学講座の村上由希講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
これまでの大規模なコホート研究で日本食や地中海食を中心とした食生活が、認知症の発症リスクを下げることがわかってきた。特に日本食の中でも、魚をたくさん食べる人ほど認知症になりにくいことが明らかになっている。魚が認知症予防に良いのは、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)といった「オメガ3系脂肪酸」という成分によるものと考えられてきた。この成分には血液をサラサラにしたり、血管の健康を守る効果があったりすることはよく知られている。脳機能に対する有益な効果も報告されているが、魚を摂取した際にみられる脳機能への効果がDHA・EPAだけで説明できるかはまだ明らかではない。
そこで研究グループは、魚に含まれる脂肪酸だけでなく、主要栄養素のひとつである「タンパク質」にも注目。これまでの動物実験では、脂肪酸よりもタンパク質摂取による短期記憶低下の予防効果が高いことを明らかにしてきたが、魚タンパク質の摂取がどのように脳機能維持に関わっているのかは明らかになっていなかった。
一方で、近年の研究から加齢に伴って腸内環境が悪化することで腸バリア機能が低下し、体全体に起こる炎症が老化に関係していることが注目されている。また体の炎症が脳にも炎症を引き起こし、認知機能の低下につながる可能性があることがわかってきている。このことから、魚タンパク質の摂取が腸の機能にどのような影響を与えるのかを明らかにすることで、脳機能維持の仕組みがわかると考えた。
老化が早く進むマウスで、魚タンパク質摂取による短期記憶・腸内環境など調査
今回の研究では、老化が早く進むマウス(SAMP8)と正常老化を示すマウス(SAMR1)にスケトウダラ由来のタンパク質(APP)を含んだ餌を5か月間給餌し、Y字型迷路試験によって短期記憶を評価した。また腸内環境を調べるために、糞便中に含まれる腸内細菌叢の解析を行った。さらに脳における炎症を調べるために、記憶に重要な海馬における炎症関連細胞の組織染色を行った。
APP摂取SAMP8マウスは短期記憶を維持・腸内細菌叢が変化
Y字型迷路試験の結果、APPを食べたSAMP8マウスでは対照食を食べたSAMP8マウスに比べて、短期記憶が維持されていることがわかった。APPを摂取したSAMP8マウスで腸内細菌叢が変化し、対照食を摂取した群では中枢神経の炎症を促進することが報告されているErysipelotrichaceae科が有意であったが、SAMP8+APP群では酪酸産生菌であるLachnospiraceae科が有意になっていた。また、肝臓でのリポ多糖結合タンパク質(LBP)の遺伝子発現量が有意に低下していた。
APP摂取により、ミクログリアやアストロサイトの陽性反応が低下
さらに脳での免疫組織染色を行った結果、脳で炎症に反応して活性化するミクログリアやアストロサイトの陽性反応がAPP摂取によってSAMP8マウスで有意に下がっていた。
脳腸相関効果が関係の可能性
以上より、老化促進マウスSAMP8において、魚タンパク質摂取は短期記憶の低下を予防した。この仕組みには、「腸と脳の関連(脳腸相関)」による効果が関係していることが示された。具体的には腸内環境を整え、脳における炎症を抑制することで、神経細胞の構造損傷を軽減し、老化に伴う短期記憶低下を予防している可能性を示した。
加齢による認知機能の低下を防ぐ仕組みの一端を明らかに
今回の研究は、魚を食べることの健康効果について科学的根拠を示すものである。また、日本人にとって重要なタンパク質源のひとつである魚の摂取が腸内細菌のバランスを整え、腸管バリア機能を高めることで、加齢による認知機能の低下を防ぐ仕組みの一端を明らかにした、と研究グループは述べている。


