2026.03.06更新

認知症のリスク要因は、三つの段階からなるライフコースモデルにおいて以下のようになります。(1)青年期(教育不足)、(2)壮年期(難聴、高LDLコレステロール血症、うつ、頭部外傷、運動不足、喫煙、糖尿病、高血圧、肥満、過剰飲酒)、(3)老年期(社会的孤立、大気汚染、未矯正視力低下)。

 前述したLancet委員会の2017年、2020年、2024年の報告書におけるPAFの変遷と今回の日本の報告を、以下の表にまとめてみました。

 

表 潜在的に修正可能な認知症危険因子の人口寄与率(PAF)の世界的な変遷と日本の現況(筆者作成)

 

 

 認知症に関するLancet委員会報告書では、潜在的に修正可能な主要なリスク要因を標的とすることで、世界中の認知症症例の35%(2017年)、40%(2020年)、45%(2024年)を削減できると提言されています。これらの推定値は、統合された世界規模のデータと専門家のコンセンサスに基づいています。

 なお、2024年のLancet委員会報告書が出た時に、それまでは含まれていなかった高LDLコレステロール血症が、突然リスクとして挙げられ、さらにその寄与度が高いことに私は驚かされました。

2.日本での危険因子の特徴
 日本における主要な危険因子は、難聴(6.7%)と運動不足(6.0%)であることが明らかにされました。さらに高LDLコレステロール血症(4.5%)も3番目の寄与度となっています。これらのうち、難聴に対する補聴器に関しては国の補助が効果的な対策ではないかと思います。

 Lancet委員会報告書に比して、日本では運動不足の寄与度が高く、さらに糖尿病や高血圧も高くなっています。他方、青年期における教育不足の寄与度は非常に低く、壮年期以降の対策が重要になります。高LDLコレステロール血症の寄与度は、Lancet委員会報告書より低いものの絶対値は高く、対策が必要です。頭部外傷や社会的孤立も相対的に低い値です。

 論文では、これらのリスク要因の減少が認知症の有病率に与える影響をモデル化しています。全てのリスク要因を10%削減すると、約20万8000件の認知症を予防でき、20%削減すると約40万7000件の認知症を予防できる可能性があると推計しています。個人の行動変容や政策でこれらの危険因子を100%削減することは非現実的ですので、10%あるいは20%の削減という現実的な対応で20万人あるいは40万人の認知症発症を抑制できるとしているところが、とても巧みな推計だなと思います。

3.わが国でも認知症の将来推計が大幅低下
 低所得国では高所得国よりも寿命の伸び率が高いため、認知症患者の割合が増加しています。一方、一部の高所得国からの報告では年齢別の認知症発症率は過去20年間減少しており、予防可能であることが強調されています。なお、認知症発症率の減少は、主に社会経済的に恵まれた地域に住む人々に起こっていることが示唆されています。

 2024年にはわが国でも、2040年時点での65歳以上の認知症患者数は584万人で、約7人に1人の割合になるとの将来推計がなされました(認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究報告書)。調査手法が全く同じではありませんが、前回調査(2014年度厚生労働省研究事業)では2040年時点で802万人と予測されており、約218万人も減ったことになります。生活習慣の改善を含めた危険因子への対応がなされてきた結果であると考えられます。

日常臨床への生かし方
 Lancet委員会から2017年、2020年に引き続き発表された2024年の報告は、過去の論点整理を踏まえて、さらにしっかり議論してエビデンスを収集し、現時点での認知症の予防、介入、ケアについて総括されたものです。これにより、日常診療での健康管理に関して意識すべき項目が明らかになってきました。そして今回、同様の手法を用いて、わが国における修正可能な認知症危険因子の寄与度が明確になりました。2024年Lancet委員会報告書に、予防的アプローチは「早ければ早いほど良い(the earlier, the better)、長ければ長いほど良い(the longer, the better)」と記載されています。これを念頭に置いて、日本でも4割の方が認知症の予防が可能であることを目の前の患者さんに説明し、生活習慣の修正という行動変容を行っていただき、必要に応じて積極的な薬物療法を行うべきだと思っています。

 他にも修正できる可能性のあるリスク要因(例:睡眠不足、不健康な食事、感染症、その他の精神疾患)がありますが、これらのリスク要因は2024年のLancet委員会報告書では、「修正可能因子に含めるには十分なエビデンスがない」と結論付けられています。ただ、エビデンスがないからといって睡眠や食事をおろそかにするわけにはいかないと思います。私は、「脳卒中の予防が認知症の予防にもなりますよ」と話をして行動変容を促しています。

投稿者: 大橋医院