2026.05.29更新

 肥満と明確に区別された疾患である肥満症について、横手氏は「肥満症の考え方はまだまだ周知されておらず、専門家や内科医にしか知られていない。肥満症の診断の意義に加え、適切に治療することの重要性を社会により認知してもらうことが重要だ」と話す。

 横手氏が言う肥満症の考えとは、「BMIが25以上で健康障害が生じている場合は、単なる肥満ではなく、肥満症という疾患である。肥満だったら、誰彼構わず痩せればよいわけではない」ということだ。

 実際に、日本肥満学会では肥満と肥満症について、それぞれ以下のような定義を提唱している1)。

肥満:脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI=体重[kg]/身長[m]2)≧25のもの
肥満症:肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患
見逃してはいけない肥満症の患者像①:治療介入の必要性が極めて高い高度肥満症
 では、具体的にどんな患者を肥満症と診断する必要があるのか。横手氏は、まず治療介入の必要性が極めて高い患者像として、「BMIが35以上の高度肥満であり、心不全や、肺胞低換気症候群のような呼吸障害といった重篤な健康障害を合併した方」を挙げる。

 さらに、「このような患者さんは命に関わるような健康障害があり、その治療は対症療法しかない。しかし、肥満症として診断・治療を行い、体重を5~10%以上下げることで、危険な健康障害や生命予後の改善が望める」と診断の必要性を訴える。

治療介入の必要性が極めて高い高度肥満症の患者像の一例
40歳代女性
BMI 35
心不全を合併している
見逃してはいけない肥満症の患者像②:日常診療に潜む治療の必要性が高い肥満症
 また、日常診療に潜む治療の必要性が高い肥満症の患者像として、「2型糖尿病や、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症など生活習慣病で通院中、あるいは健康診断で複数の異常を指摘されている、BMIが30前後の方」を挙げる。

 横手氏は「こうした患者さんの診療では、合併する個々の健康障害に目が行ってしまい、根本にある肥満症を見落としているケースが、これまでの日本の考え方では多いと思う」と指摘する。また、こうした患者を診断する意義について、「それぞれの疾患で薬を服用している患者さんが、肥満症治療により体重を減らすことで、薬を減量できる可能性があることや、新たな健康障害の発生リスクを減らすことができる点で診断する意義が大きい」と話す。表面化している健康障害の根本にある肥満症にアプローチすることは、患者にとって大きなメリットになり得る。

日常診療に潜む治療の必要性が高い肥満症の患者像の一例
50歳代男性
BMI:28
脂質異常症と高尿酸血症で通院中
欧米との比較から見る日本における肥満症診断の重要性
 日本は米国と比べると、肥満に該当する人の割合は圧倒的に少ない。実際に、成人におけるBMIが25以上の人の割合は、米国では8割近くに上る一方2)、日本では2~3割程度だ3)。そのうえ、肥満の判定基準となるBMIは、欧米では30であるが、日本では25と閾値が低く設定されている。これに対して、横手氏は「日本は肥満が少ないから、気にする必要はないということではない。実際に日本と米国における2型糖尿病の割合はあまり変わらない※1。つまり日本人は米国人ほど太っていなくても、糖尿病になりやすいと考えられる」と警鐘を鳴らす。

※1 糖尿病に占める2型糖尿病の割合は90%以上とされ、2024年時点の人口に占める糖尿病のある方の割合は日本で12.0%、米国で15.7%と報告されている4)

歴史的経緯から見る 日本人がより軽度の肥満から健康障害を生じる原因
 横手氏は、日本人がより軽度の肥満から健康障害を生じる原因について、内臓脂肪の蓄積のしやすさを指摘し、その歴史的背景の関与の可能性に触れる。

 人類は長い飢餓の歴史を生き延びてきた。元々は狩猟採集生活を送っていたため、エネルギーを効率よく皮下脂肪として蓄える仕組みが備わっていた。一方、東アジアでは農耕が発達し、食料を倉庫に収めて計画的に食する生活習慣が主となり、余分なエネルギーを身体に貯めなくても済み、環境適応や遺伝子変異の違いを生じた可能性がある。その結果、過剰なエネルギーを内臓脂肪として蓄積しやすい傾向になったと考えられている。

肥満症の診断基準
 日本肥満学会では、肥満症の診断基準について、次のように定めている5)。

 肥満と判定されたもの(BMI≧25)のうち、以下のいずれかの条件を満たす場合に肥満症と診断する。

肥満に起因ないし関連し、減量を要する(減量により改善する、または進展が抑制される)健康障害(表)を有するもの
健康障害を伴いやすい高リスク肥満(ウエスト周囲長によるスクリーニングで内臓脂肪蓄積を疑われ、腹部CT検査によって確定診断された内臓脂肪型肥満)
表. 肥満に起因ないし関連する健康障害1)

診断後に待ち構える肥満症治療薬の大きな課題
 肥満症診療ガイドラインでは、薬物療法について、非薬物療法(食事療法、運動療法、行動療法)で有効な減量が得られない場合に検討するとしており、その適応については「高度肥満で合併症(肥満症の診断に必要な健康障害)を1つ以上、または肥満症で内臓脂肪面積≧100 cm2かつ合併症を2つ以上有する症例」としている6)。

 一方で、肥満症治療薬であるセマグルチド(商品名ウゴービ)やチルゼパチド(同ゼップバウンド)の効能または効果は以下のように設定され、「高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し」という部分が肥満症診療ガイドラインと異なる。

肥満症

 ただし、高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。

・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する

・BMIが35kg/m2以上

 こうした差異が肥満症診療にもたらす影響について、横手氏は「肥満症治療薬の適応が学会の提唱する肥満症から狭められている」と指摘する。

 加えて、肥満症治療薬の最適使用推進ガイドラインについて、「投薬期間が制限されて、慢性疾患である肥満症に十分な対応ができないなど、治療を必要とする患者さんが適切な治療を受け難い現状もある」と危機感を示す。

肥満症診療を必要な患者に届けるために
 横手氏は、肥満症診療の今後について、次のように語る。

 「日本独自の肥満と肥満症を明確に区別する考え方は、海外でも認知されつつある。特に東アジア人を中心に、この考え方をさらに広げて、患者さんの健康寿命の延伸に結び付けていくことが大切だと考える。肥満症を治療できる施設が限られている日本では、各地域において病診連携や、病病連携をより密接に行い、自施設では治療できなくても、専門施設との連携で、患者さんを地域で診ていく枠組みも必要だと思う。また、肥満は社会環境や遺伝的素因などさまざまな要因の影響を受けるもので、決して自己責任ではない。こうした正しい理解が肥満症の考え方とともに社会に広がり、患者さんに適切な治療が届くようにすることも非常に重要といえる」

次回予告

投稿者: 大橋医院