2026.05.19更新

今週は、2024年に米国で承認されたEVOQUEと呼ばれる、初の経カテーテル三尖弁置換術(TTVR:Transcatheter Tricuspid Valve Replacement、日本未承認)用デバイスの術後30日時点のリアルワールドデータ(RWD)解析を紹介する。米国胸部外科学会と米国心臓病学会が主導する経カテーテル弁治療レジストリ(STS/ACC TVT Registry)を用いた研究である。

TR「ほぼ消失」98.4%と「気になる点」
 1034例の手技のうち、弁の留置(インプラント)に成功したのは98.4%であり、術直後に軽度以下までの三尖弁逆流(TR)減少が得られた割合も98.4%であった。30日時点での全死亡率は3.1%、出血は7.9%、ペースメーカーなどの新たな心臓植込み型電子デバイス(CIED)の挿入率は、ベースライン時のCIED未留置患者において15.9%であった。また、ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類や、カンザスシティ心筋症質問票(KCCQ)スコアといった健康状態指標の有意な改善が認められた。

 なお、米国におけるEVOQUE承認の根拠とされたランダム化比較試験(TRISCEND II)ではQOLの改善にとどまったという結果であった(N Engl J Med. 2025; 392: 115-126.)。筆者は当時、死亡率については特に注意して見ていなかったが、確かに同試験でもEVOQUE群における30日死亡率は3.5%(対照の薬物療法のみの群ではゼロ)であり、1年での死亡率はそれぞれ8.5%対10.9%で、有意な差はない結果が示されていた。

 あくまで私見だが、やはり、カテーテル治療という低侵襲な手技を行う上で、30日死亡率が3%台というのは比較的高いように感じた。弁の逸脱や塞栓(migration/embolization)は0.7%であった。穿刺部(アクセスサイト)の出血もあるが1.4%にとどまっており、それ以外の部位での出血が多いようだ。なお、著者らは同デバイス埋込により、TRがほぼ完全に制御できていること(TEERでは50-60%の改善率とされている)、高齢かつ複数の併存症を有する患者においてTRによる症状や健康状態が改善する臨床的意義は大きい、さらにRCTと同等の全死亡率や早期の安全性は容認できるレベルである――などと述べている。TCTMDでも本試験の特集が組まれており、TTVRの位置付けはこれから決まっていくといった雰囲気だ(2026年4月15日付ニュース「Real-world Evoque Data Reassure, but It’s Still Early Days With TTVR」)。

既に10例近く経験、TTVRの「手応え」
 実際、まだ10例未満ではあるが、筆者もこのデバイスの手技に関わった。確かにインプラントすると三尖弁逆流がほぼなくなり、弁逆流の制御能はかなり高いように感じた。インプラントする際には、経食道心エコー(TEE)や心腔内エコー(ICE:Intracardiac echocardiography)を用いて、きちんとデバイスが固定されるのを確認する必要があり、そこに企業の技術担当者によるサポートも入るため、塞栓などの合併症はあまり起きなさそうに思えた。問題はデバイスそのものよりも、その後の合併症である。術後1週間ほどして恒久的ペースメーカーが必要になった患者もいるし、特に死亡の原因の一つには、もともとの右室不全や肺高血圧などが関与しているのではないかと思われる。かなりの量の三尖弁逆流があるところに急に「蓋をしてしまった」形になり、右室の負荷が急増して、右室がみるみるうちに動かなくなり、強心剤が必要となるケースも経験する。なお、一時的ペースメーカーを入れなければならないときに、通常と違って人工弁のフレームなどが存在するため、ワイヤー操作などにかなり苦労した経験もある。同デバイスの承認条件にもある通り、「至適薬物療法(OMT)を受けたものの、症候性の重症三尖弁逆流症のため、ハートチームにより三尖弁置換術が適切と判断された患者さんの状態の改善に適応される」ことが重要だろう。

公募可能のレジストリ研究、厳しい現実
 余談だが、弁膜症関連のデータはSTS/TVTレジストリで一元管理されており、これらのデータを用いた研究のプロポーザルは公募で、誰でも応募することはできる(通るかどうかは別だが)。今回紹介した論文はEVOQUEを製造販売するEdwards社から資金提供を受けており、筆者の所属するBIDMC(Beth Israel Deaconess Medical Center)のSmith centerが解析を担当したようで、公募とは別のルートもあるようだ。

 こういった王道の臨床研究はやはり競争が厳しく、Smith centerのデータを用いて長期成績をいち早く出そうと、今回の論文の著者の一人であるRobert Yehに尋ねたところ、「ちょうどこのJAMA論文が出たところで、長期データも現在こちらで解析を進めているところである」という話であった。やはり、こうした大規模なリサーチは企業の資金援助がないと実現が難しいと痛感した次第である。

投稿者: 大橋医院