<私は囚人ではない>  大橋信昭
私は妻に、24時間、監視されている。自電車で外出するには、
シャッターを挙げねばならぬ。するとガラガラと金属音が出る。
すぐに妻が、2階から「あなた!どこへいくの!」私「自転車で散歩だよ」妻「車で危ないからダメ!」全く無視して、出かける。
散歩といっても、コンビニで小豆バーのアイスを買いに行くのである。私はこれが大好物である。若い女性は、病気にならないから、診療所内ではお目にかかれないが、外の世界では鑑賞できる。マスクをしている美女がいるが、「マスクを外してもらえませんか?」などは心の中でしまっておかねばならない。外は気分が良い。太陽の強烈な光、爽やかな風が心地よい。帰りが遅くなると、また彼女から癇癪玉が投げられるから、院長室に引きこもる。YouTubeで、
Mozart,ベートーベンなどのクラシックを、倍賞美津子の童謡もバックミュージックとして心よい。書斎は本だらけである。私は本に囲まれてミュージックを背景に本を読み漁るのが天国である。
若い頃は、活かした女性とお知り合いになり、恋の二つや、三つ咲かないものかと、家にはじっとしておれなかったが72歳のお爺さんとなれば、若い女性は私を皺くちゃの爺としか認識しない。悲しいものである。黒光りして、戦艦大和の大砲のごとく太く、カチカチであった私の息子も、今は細く小さく短く、ふにゃふにゃでミミズの方がたくましい。しかし、本は楽しい。歴史、政治、小説、詩集、どこの世界、いつの時代でも飛んでいける。そして、そこで考察して随筆にするのだ。年寄扱いは悲しい!満員電車に乗ると席を譲ってもらえるが心は複雑である。私は毎日、起床後、すぐに」ラジオ体操第一、第2、スクワット、エルゴメーター100回をやり鍛えている。心は20歳代と変わらない。美しい貴婦人と恋愛がしたい。狭い大橋医院のビルでは、妻と出来るだけ接触しないように心掛けている。逢うと、必ずなぜか叱られ、現実世界に引き戻される。ファンタジーの世界で楽しんでいたい。最近の若い女性は、背が高く、姿勢もよく極めて美しい。それに比べ私は、猫背で、腰も曲がり、慢性の腰痛もちで、小便が近い割には,排尿に時間がかかる。前立腺肥大である。年を取ればケーリ―グラントのように渋い老人を目指していたがうまくいかないものである。スマホで若い女性のセミヌードを鑑賞する。とても扱える物体ではない。時々、お逢いしませんかという絶世の美女のメールが来るが、お金を取られ、哀れな女性のエクスタシーはほど遠く、悲しい老人の証となる。(完)
2025.10.31更新
私は囚人ではない 大橋信昭
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