2024.04.13更新

CAR-T細胞療法とは

がんの治療において免疫療法が一躍主要な治療選択肢の一つとなってきたところです。現在実臨床にて主に行われているのは免疫チェックポイント阻害薬であり、こちらはわかりやすく言うとがんに対する免疫系のブレーキを外すことで抗腫瘍免疫を高めることで治療に結びつけるというものです。しかし、この手法だけでは抗腫瘍免疫が十分でない疾患も多いのが現実です。

そのような場合に一つ考えられるのが、抗腫瘍免疫を発揮する免疫担当細胞を体外で増幅して体内に戻すというやり方です。単に体外で増幅するだけでは体内に戻しても効果が十分発揮されない場合がほとんどであるため、免疫担当細胞の機能をさらに高める為の一つの手段としてキメラ抗原受容体 (Chimeric antigen receptor、略してCARと呼ばれる)をT細胞に導入するという手法があります1。

          
キメラ (chimera) とは、同一個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が混じっていることと言われるように、CARはいくつかの遺伝子を人工的に組み合わせた受容体になります。一般的に言われるCARにおいては細胞外部分はがんに発現する抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体由来のシングル-チェーン変異部断片 (single-chain variable fragment、scFvと呼ばれる)、そして細胞内部分はT細胞の活性化シグナルを伝達するドメインが組み込まれています。

FDAにて承認済 CD19 CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法で最も研究が進んでいるのが、CD19 CAR-T細胞療法です。再発・難治性の急性リンパ芽球性白血病(acute lymphoblastic leukemia、ALL)においては治療選択肢が限られ、その予後は不良と言わざるを得ない状況でした。ALLの中でもB細胞性のALL(B-ALL)においてはCD19という表面抗原がほぼ全例で発現しています。その抗原を標的としたCD19 CAR-T細胞療法の開発が進んでいます。これまでにいくつかの臨床試験にて再発・難治性のB-ALLにおいて驚くべき有効性が報告されています2。まだまだ長期的な成績は臨床研究での評価が行われている段階ではありますが3、これまでの非常に高い有用性からFDAでも早期に承認に至ったようです。

CAR-T細胞療法の問題点

CAR-T細胞療法は非常に高い有効性を示しますが、問題点もあります。

<特徴的な合併症>

まず、cytokine release syndrome(CRSと略される)が挙げられます。CAR-T細胞が一気に活性化しサイトカインを放出すると高熱、低血圧、酸素化低下などを起こします。それに対しては抗IL-6受容体抗体やステロイド投与などが行われます。

その他にはCD19陽性細胞全てが除去されるような形になるので正常の抗体産生が抑制されてしまうということもあります。

<コスト>

もう1点重要な問題点としてはコストの問題が挙げられます。1回の治療が数千万円ということでアメリカ以外の国でどのように承認されるのかが関心を持たれています。

CAR-T細胞療法の今後の展望

現時点で実用化がされているのはCD19 CAR-Tのみですが、その他の疾患・抗原に対するCAR-T細胞療法の開発が進んでおり、例えば多発性骨髄腫などに対するCAR-T細胞療法も有用性が報告されていたりします4。

また、CAR-Tの改良も盛んであり、細胞内ドメインに関しても当初はCD3ζ-チェーンから得たものが用いられていましたが、さらに活性化シグナルを改良する為に第二世代CARではCD28や4-1BBなどが組み込まれています。各々をさらに複数組み合わせたような第三世代の開発も行われています。このような構造を有するCARをT細胞に導入することで、抗原を発現するがんをCARが認識した際に非常に強いT細胞の活性化・増幅が起こり、がんを排除するということになります。

その一方で高コストを改善すべく遺伝子導入の手法の開発なども進んでいます。CAR-T細胞療法は効果の面で非常に期待される治療法ですが、コストの面が改善されなければ数多くの疾患に対するCAR-Tが全て保険適応となることは困難とも予想され、低コスト化が進むことが望まれるところです。

 

投稿者: 大橋医院