2025.05.29更新

慢性甲状腺炎
同義語
橋本病
概要
慢性甲状腺炎とは、甲状腺に慢性的な炎症が引き起こされることによって徐々に甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンの分泌が低下していく病気のことです。
免疫機能の異常によって引き起こされると考えられており、自身の甲状腺を攻撃する“自己抗体”と呼ばれるタンパク質が生成されることで発症します。しかし、どのようなメカニズムでこのような免疫の異常が生じるのか、はっきりとは解明されていないのが現状です。
甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を活発にするはたらきがあるため、慢性甲状腺炎を発症して、甲状腺ホルモンの分泌が低下し不足すると、体重増加やむくみ、脱毛、皮膚の乾燥、抑うつ気分、眠気などさまざまな身体的・精神的症状を引き起こします。
また、この病気は比較的発症頻度が高い病気であり、特に30~40歳代女性に多く発症します。成人女性の10人に1人の割合とされており、治療は不足した甲状腺ホルモンを補う薬物療法が行われますが、発症者全てに必要となるわけではありません。補充が必要なほど甲状腺ホルモンが不足するのは発症者の4~5人に1人であるのも特徴の1つであり、発症に気付かないまま過ごしているケースも多いとされています。



原因
慢性甲状腺炎の原因は、免疫機能の異常と考えられています。本来、免疫は体内に入り込んだ細菌やウイルスを攻撃するはたらきを担いますが、慢性甲状腺炎では免疫の異常によって甲状腺の組織を攻撃するようになります。その結果、甲状腺に慢性的な炎症が生じ、徐々に組織が破壊されていくことで甲状腺ホルモンの分泌量が低下していくのです。
一方で、自身の甲状腺を攻撃するような免疫機能の異常が生じる明確な発症メカニズムについては解明されていません。遺伝が関わっているという説もあり、また、ストレス、妊娠・出産、ヨードの過剰摂取などをきっかけとして発症する場合もあります。
症状
慢性甲状腺炎を発症すると、甲状腺に慢性的な炎症が生じることによって甲状腺が腫大し、前頚部(ぜんけいぶ)の腫れが生じるようになります。そのため、首や喉の圧迫感や違和感がみられる場合もあります。
また、甲状腺ホルモンの不足が進行すると全身の新陳代謝が低下することによって、むくみ、寒がり、体重増加、皮膚の乾燥、脱毛、便秘、声のかすれ、生理不順などの身体症状、抑うつ気分、無気力、倦怠感(けんたいかん)、疲労感、もの忘れといった精神的な症状が現れます。
検査・診断
慢性甲状腺炎が疑われるときは、次のような検査が行われます。
血液検査
診断のためには“甲状腺ホルモン”や甲状腺を刺激してホルモン分泌を促す“甲状腺刺激ホルモン”の量を調べるために血液検査を行う必要があります。
また、慢性甲状腺炎では、抗マイクロゾーム抗体や抗サイログロブリン抗体と呼ばれる甲状腺を攻撃するタンパク質が産生されるケースが多いため、血液検査では血中にこれらの抗体がないか調べるのが一般的です。
そのほか、慢性甲状腺炎は高コレステロール血症や肝機能異常を伴うこともあるため、これらの検査項目を調べることもあります。
画像検査
甲状腺の腫れの程度を調べたり、甲状腺の中にがんなどの病気がないか調べたりするため、超音波やCTなどを用いた画像検査を行うことがあります。
治療
慢性甲状腺炎は、発症したとしても全ての患者に治療が必要になるわけではありません。治療が必要になるのは甲状腺ホルモンの不足による症状が現れた場合のみであり、発症者の4~5人に1人とされています。
治療は不足した甲状腺ホルモンを補うための薬物療法が行われますが、基本的には継続的な治療が必要です。
予防
慢性甲状腺炎の根本的な原因ははっきり解明されていないため、発症を予防する方法も現時点では確立していません。
しかし、慢性甲状腺炎はストレス、妊娠・出産などをきっかけに、甲状腺の腫れや甲状腺ホルモンの異常の症状が強くなって発見されるケースが多いことから、日常生活の中でもできるだけストレスをためないよう注意することが大切です。また、妊娠中や産後に甲状腺ホルモンの異常が疑われる症状が現れたときは、できるだけ早めに病院を受診するようにしましょう。

投稿者: 大橋医院

2025.05.24更新

副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)とは
仕事、家庭、経済、人間関係などのストレスや、偏った食生活や運動不足といったライフスタイルの乱れによって副腎の機能低下が続くと、ホルモンバランスが乱れ、慢性的な疲労、精神不安、食欲不振、下痢、アレルギー症状などの様々な症状を引き起こします。これが、副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)症候群と呼ばれている病態ですが、正式な病気と認知されているものではなく、通常行われている医療の中では治療の対象とはされておりません。アメリカにおいては、30年以上前から、このような病態があることが示され、種々の検査や治療法が導入されています。したがって、日本国内においては、この副腎疲労症候群について認知している医師が所属する医療機関のみで、検査や治療が行われていることをご理解いただくことが必要です。原則、検査や治療は自費となります。

副腎疲労症候群の症状
疲労感:ストレス時や夜に悪化、ひどくなると朝から動けない
精神不安定:落ち着きがない、興奮、上の空、気が散る、我慢が出来ない
消化器異常:食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
ストレス下で、機能性低血糖症に陥りやすい
欲求過多:塩分、砂糖、カフェイン、スパイス
頻拍、動悸、過呼吸(パニック発作)
起立性低血圧
顔面蒼白、悪寒、冷や汗
うつ、適応障害の診断
不眠症
PMS(月経前症候群)の悪化
花粉症などのアレルギー症状の悪化、耳の痒み
皮膚の炎症、脱毛
光に対する過敏症
性的関心の減退
副腎疲労の検査の流れ
副腎疲労の検査の流れ
治療方針
副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)症候群は、ホルモンバランスの状態によってステージが3つに分類されます。
ルネスクリニックでは、まずはどの段階にいるかを把握するために詳細な問診と血液検査を行います。必要に応じて、特殊検査を行い原因の斉一検査を行います。
治療の根幹はグルテンフリー(小麦製品の制限)、カゼインフリー(乳製品制限)などの食事療法、運動療法、睡眠の改善などの生活習慣の改善になりますが、状態により、サプリメントやホルモンを加えた治療を行います。
検査や治療は、原則自費となります。

副腎疲労のステージ
分類 ホルモン・バランス 症状
ステージ1
(通常適応) ストレスによって、コルチゾールとDHEAの両方が増加する 通常無症状
ステージ2
(早期代償不全) コルチゾールは上昇するが、DHEAは減少する ストレス感、不安発作、気分変動
ステージ3
(晩期代償不全) コルチゾールとDHEAの両方が低下する うつ、疲弊
精密な検査と分析を通して原因を突き止めたら、ステージに合わせた治療を行います。
特に、うつ症状を発症するステージ3では、多くの治療が求められますが、ルネスクリニックでは、睡眠薬や抗うつ剤をなるべく使用しない治療を心がけています。

副腎疲労症候群に対する基本的治療
治療内容
 行動様式と     
生活習慣の変容 グルテンフリー(GF)、カゼイングリー(CF)、低糖食
ストレス軽減、適切な睡眠、定期的な運動、リラックス手法(例:ヨガ、瞑想、断食、アロマセラピー、ビジュアライゼーション、気功など)
栄養補給 ビタミンC、ナイアシン(ビタミンB3)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンD、ビタミンE、マグネシウム、亜鉛、セレン、フォスファチジルセリン、アミノ酸など
消化機能改善・
抗酸化力アップ 消化酵素、プロバイオティクス、グルタミン、アロエベラ
ケルセチン、クルクミン、レスベラトロール、アスタキサンチンなど
ハーブ補給 ■ストレスへの適応力を高めるハーブ
エゾウコギ、朝鮮人参、アメリカ人参、アシュワガンダ、マツブサ属、ロディオラ属、バコパなど
■鎮静作用のあるハーブ
セイントジョーンズワート、バレリアン、タツナミソウ、トケイソウ、GABAなど
ホルモン補充療法 ウシもしくはブタ副腎抽出物
DHEA、重症の場合には、ハイドロコーチゾン
その他の治療 クロレラ、クレイ、NAC、グルタチオン、CBDオイル
副腎疲労は、全身の疲労感をはじめ、不眠やうつ病のような症状、アレルギー疾患、慢性慢性感染症など、様々な症状が見られる病気です。放っておくと糖尿病や高血圧などの生活習慣病にも繋がります。
しかし、日本ではあまり聞きなれないために、別の診断を下されるケースもあります。
下記は代表的な兆候です。3つ以上該当するようでしたら、副腎疲労(アドレナル・ファティーグ)症候群の可能性がありますので、ルネスクリニックまでご相談ください。

副腎疲労状態を疑う徴候
うつ病や適応障害と診断された
朝起きられない
立ちくらみがする
何をしても興味を持てない、楽しくない
月経前症候群(PMS)が強くなった
物忘れがひどくなった
些細なことでも我慢できない
花粉症、アレルギーがひどい
慢性的に疲労感を覚える。とにかく疲れやすい
毎日をなんとか過ごしている
副腎疲労症候群と関連する病態
リーキーガット(腸管壁浸漏)症候群
リーキーガット症候群(LGS)とは、腸管壁浸漏症候群と訳され、簡易的に「腸漏れ症候群」とも呼ばれています。
腸管壁における過度の浸透状態を示し、腸管壁に大きな穴が開いて、バクテリア、毒素、食物などが漏れ出す状態のことを言います。
医学的な言葉で定義すると、腸粘膜からの高分子化学化合物質、食物アレルゲン、また、萎縮性粘膜に関連する毒素の物質透過性が増加する状態です。
過敏性腸症候群(IBS)の原因として、LGSが関与している事が多いと考えられています。

リーキーガット症候群による症状
関節炎、リウマチ様症状
難治性の便秘
肥満
口臭や体臭が悪化
喘息などの呼吸器疾患
アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患
過敏性腸症候群などの腸の異常
原因の分からない腹痛、頭痛、発熱など
うつや統合失調症などの精神疾患
食物アレルギーや花粉症など耳鼻咽喉科系の不調
更年期障害、子宮筋腫などの婦人科系の症状
潜在性甲状腺機能低下症
潜在性甲状腺機能低下症(かくれ甲状腺機能低下症)とは、甲状腺ホルモン自体は、正常かやや低いレベルであるが、甲状腺ホルモンに対する反応性が低下することによって、甲状腺ホルモン不足による症状を呈する状態を言います。
過度のストレス(副腎疲労)、ビタミン不足(ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンE)、ミネラル(ヨード、亜鉛、セレン、鉄分)、アミノ酸(チロシン)不足、水銀などの重金属の蓄積、フッ素や臭素などのハロゲン化物の過剰曝露などによって引き起こされると考えられています。
35~60歳の女性の12.5%、60歳以上の女性の15%~20%、男性の10%程度にみられるとされています。

甲状腺ホルモンの種類とホルモン動態
甲状腺ホルモンの種類
潜在性甲状腺機能低下症におけるホルモン動態
潜在性甲状腺機能低下症では、サイロキシン(T4)の血中濃度の低下はみられませんが、活性型甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)が軽度減少し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が軽度上昇します。

潜在性甲状腺機能低下症による症状
倦怠感、易疲労感
記銘力の低下
低体温(36.3℃以下)、寒がり
皮膚の変化(乾燥・かゆみ)
爪の問題(薄い・もろい)
毛髪減少
体重増加、体重が減りにくい
便秘
高コレステロール血症
アレルギー(発症ないし悪化)
めまい
睡眠時無呼吸、呼吸困難
嚥下障害(飲み込みにくい)
月経異常、不妊

投稿者: 大橋医院

2025.05.21更新

ホーム > 診療内容 > 全身疾患と腎臓病(糖尿病性腎臓病など)
全身疾患と腎臓病(糖尿病性腎臓病など)
腎臓は様々な病気の影響を受けて障害が起こる臓器です。腎臓のみが悪くなる疾患も当然ありますが、全身を冒す疾患の一症状として腎障害が生じることが非常に多く、代表的なものとして、透析導入の原疾患の第一位である糖尿病、第二位である腎硬化症があります。また、リウマチ・膠原病、悪性腫瘍、心臓と織りなす悪循環などがあり、腎臓だけでなく全身を診る必要があります。

まず糖尿病に関連した腎障害ですが、従来の呼称である糖尿病性腎症に加え、糖尿病性腎臓病という、より広義の名称が広まってきています。典型的な糖尿病による腎障害である糖尿病性腎症は、微量な尿蛋白が出現し、それが増加した後に腎機能障害が進行、その進行速度は非常に早く、腎機能障害出現から数年で透析導入に至るという、非常に怖いものになります。腎機能障害が出始めてからだと治療に難渋する場合が多いため、尿蛋白が出ないように、あるいは出始めたとしても治療を強化して減らせるように、診療していきます。糖尿病性腎臓病は、糖尿病性腎症だけでなく、尿蛋白を認めない進行性腎障害で糖尿病の関与が疑われる場合も含みます。比較的新しい疾患概念であり、治療のエビデンスについては構築途中になります。

腎硬化症は、腎臓の血管の動脈硬化が原因となり腎障害が進行する疾患で、高血圧が大きく関与しています。尿検査異常はほとんどないか、軽度の尿蛋白に止まりますが、腎機能障害が徐々に進行します。高齢化に伴い透析導入の原因として増加傾向にあり、近年透析医学会の統計調査において、慢性糸球体腎炎を抜き原因の第二位となりました。早期からの血圧管理が重要になります。

リウマチ・膠原病から腎障害を来す疾患の中には、特に注意が必要なものがあります。急速進行性糸球体腎炎という、腎機能障害が急速に進行する腎炎を起こすものがあり、代表的な疾患として顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、全身性エリテマトーデスなどがあります。これらは発熱、倦怠感、関節痛その他全身の症状を伴う事が多く、尿検査で尿潜血・尿蛋白が陽性で、腎機能障害を認める場合は、早期の専門医受診が必要です。

悪性腫瘍に伴う腎障害では、腫瘍そのものが影響する場合と、治療薬が影響する場合があります。前者では、腫瘍の治療を行うと腎障害も改善することが多いですが、後者は改善する場合もあればそうでない場合もあり、腎障害が起こった場合に治療を継続するかどうか悩ましい場面も数多くあります。

心臓と腎臓の悪循環については、心腎連関という名称があります。心臓が悪くなることで腎臓が悪くなる、あるいは腎臓が悪くなることで心臓が悪くなる、そして悪くなり方が急激なのか徐々になのか、などで分類されます。薬の使い方が心臓と腎臓で違うこともあり、お互いのバランスをとるのが非常に難しい状態になります。

このように、腎障害がある場合は全身の状態にも気を配りつつ診療を行っています。

投稿者: 大橋医院