2024.04.18更新

論文概要
体積や表面積の増加は予測因子となりうるが、現時点で形態学的変化は予測因子になりえない
 本試験は、脳動脈瘤の前破裂期および周破裂期における脳動脈瘤の3次元的変化を解析した、後方視的研究である。

 オランダのUniversity Medical Center Utrechtのデータベースから、未破裂頭蓋内動脈瘤の画像フォローアップ中に動脈瘤が破裂した患者をすべて後方視的に検索した。組み入れ基準は、脳動脈瘤診断時の年齢が18歳以上、CT Angiography、TOF-MRAまたは3D回転血管撮影のいずれかの画像による、ベースライン時・破裂前・破裂後の画像が入手可能な患者とした。2D計測では最大径を、3D計測ではコンパクトさ1と2(著者らが考案した計算式による指標の2種)、球形度、伸長度、扁平度を比較した。

 追跡調査中に脳動脈瘤が破裂した未治療の未破裂動脈瘤患者27人のうち、16人の患者・16個の脳動脈瘤が解析対象となった。それぞれの画像は2004年から2007年の間に取得されたものである。

 前破裂期(1200日、IQR:736-1340日)に、最大径(推定平均変化量:0.44;95%CI:0.24-0.65)、体積(推定平均変化量:0.34;95%CI:0.12-0.56)、表面積(推定平均変化量:0.33;95%CI:0.11-0.54)の3つのパラメーターが増加したが、他のパラメーターはいずれもこの期間で変化しなかった。

 周破裂期(407日、IQR:148-719日)においても、最大径(推定平均変化量:0.28;95%CI:0.07-0.48)、体積(推定平均変化量:0.18;95%CI:0.04-0.40)、表面積(推定平均変化量:0.23;95%CI:0.02-0.44)の増加が認められた。さらにこの期間では、コンパクトさ1(推定平均変化量:0.84;95%CI:1.44-0.23)、コンパクトさ2(推定平均変化量:0.83;95%CI:1.44-0.23)、球形度(推定平均変化量:0.84;95%CI:1.44-0.23)、伸長度(推定平均変化量:0.82;95%CI:1.34-0.30)、扁平度(推定平均変化量:0.60;95%CI:1.14-0.07)の各パラメーターの変化も観察された。

 つまり、破裂に至った未破裂動脈瘤は、前破裂期-周破裂期を通じて最大径、体積、表面積が増加し、周破裂期にはこれらに加えて、形態のコンパクトさ・球形性を失って、動脈瘤が細長くなることが示唆された。

 この研究のlimitationとしては、サンプルサイズが小さいこと、異なる画像モダリティを比較したことが計測結果に影響を与えた可能性があること、破裂前後の期間の中央値は1年以上であり、ほとんどの形態学的変化が破裂中(周破裂期の短期間)に起こったのか、破裂前に起こっていたのかが不明であることなどが挙げられる。

 従来いわれてきた2D計測での最大径に加えて、3D計測での体積と表面積も前破裂期に増加することが明らかになった。一方、ほとんどの形態学的パラメーターは周破裂期に変化するが、前破裂期では変化しなかったことから、この2つの期間における形態学的変化は異なる過程とみなすべきである。このことは、破裂後の形態学的変化を破裂予測の代用として用いるべきではないことを示唆している。

私の視点
脳動脈瘤の形態学的変化は本当に予測因子となり得ないか
 今までの研究は、破裂前後すなわち本研究における周破裂期の脳動脈瘤のパラメーターを比較したものでした1,2)。本研究は、前破裂期と周破裂期で比較している点、3D計測に基づいたパラメーターを検討した点に新規性があります。破裂に至った脳動脈瘤は、前破裂期、周破裂期ともに最大径、体積、表面積が増大し、加えて周破裂期には形態がコンパクトさを失い、不整に伸長して変化することが明らかになりました。脳動脈瘤の体積と表面積の増大は、動脈瘤破裂の新たな破裂予測因子である一方、形態の不整化(形の不規則化、伸長化、扁平化)は周破裂期にのみ観察されたことから、破裂の形態学的予測因子に用いるべきではないと結論づけられています。

 考察では、周破裂期にみられる脳動脈瘤の不整化は、動脈瘤破裂という病態(血腫等の影響)そのものの結果を反映している可能性が高いと述べられています。この点に対して、多くの脳神経外科臨床医は疑問を抱かれるのではないでしょうか? 実臨床では、ブレブや娘瘤が存在することは、破裂リスクが高いものとして治療介入を考慮する因子の一つと考えています3)。limitationにもあるように今回の研究の周破裂期は中央値が400日と長期間であり、その間に形態変化した可能性は排除できません。より短い間隔でフォローアップを行い、より詳細に変化を観察することが実態の解明に繋がるかもしれませんが、現実的ではありません。

日常臨床への生かし方
3D画像解析も脳動脈瘤破裂予測の一助となる可能性がある
 脳動脈瘤の破裂予測スコアには、PHASES scoreやUCAS JAPANなどがあり、これらのスコアリングには最大径という2D計測結果が含まれています。簡便に体積や表面積などの3D計測結果を計算することができれば、既存のスコアリングに加えて脳動脈瘤破裂リスクをより詳細に判定できる可能性が広がります。本研究の結果から、形態学的変化が破裂予測因子となり得るかに関してはまだ明確に結論づけることはできません。しかし、3D画像解析が可能になってきている今、これまで主観的であった部分も含めて、より客観的な指標を模索しながら日常診療に役立てていきたいと思います。

 本研究は、自分で訳した日本語を読んでいても、形態の評価方法など難解な部分が多々ありました。AI時代の到来で、3D画像解析から画像診断までAIが計算を行い、未破裂動脈瘤の破裂リスクを自動的に換算してくれる日が来ることを夢見ております。

投稿者: 大橋医院

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