大橋院長の為になるブログ

2021.12.23更新

1 コンサルテーションが必要な一過性意識消失発作
① 心原性失神
② てんかん発作
③ 急性出血
④ その他;くも膜下出血・大動脈解離・肺動脈血栓塞栓症・中毒……
 適切なコンサルテーションを行うには、まず上記を見逃さないことが重要です。特に①の心原性失神は生命予後にかかわるため、可能性が少しでもあればその時点で循環器内科コンサルテーションが必要となります。つまり、心原性失神を見逃さないことが初期対応では最も重要になります。

2 失神と一過性意識消失発作
 失神は「一過性の意識消失の結果、姿勢の保持ができなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること」1)と定義されます(図1)。


 一過性意識消失発作が「すみやかに、自然に、完全に回復する」失神なのかどうかを見極めることは、鑑別疾患を絞る意味で重要です。ただし「すみやかに」を定義する具体的な時間の記載はありません。

 一般に救急外来受診時に意識障害を認めるものは、失神とはいいません。

3 失神の分類
 失神は原因により以下の4つに分類されます2)。

① 反射性失神(血管迷走神経反射・状況失神…) 21%
② 心原性失神 10%
③ 起立性低血圧 9%
④ その他、原因不明 37%
 また、鑑別疾患は図2のようなものがあげられます。


 くり返しになりますが、心原性失神は生命予後にかかわるため、この4つのなかでも心原性失神を見逃さないことが救急外来での初期対応では最も重要になります。

4 心原性失神
 それでは例題の症例をコンサルテーションする際に必要となる病歴聴取・身体所見・検査所見について、失神の診療で絶対見逃してはならない心原性失神を中心に学びましょう。

1) 心原性失神を疑う病歴聴取のポイント
1失神時の状況
労作・運動中の失神
仰臥位での失神
失神時/失神前の動悸・胸痛・呼吸困難
先行する症状のない失神
2心疾患の既往・危険因子
糖尿病・高血圧・脂質異常症・喫煙・心電図異常…

3内服薬
抗不整脈薬・強心薬・ジギタリス・利尿薬……

4突然死の家族歴
心原性失神は、60歳以上の男性に多く認められます。これらの項目について、ご本人はもとよりご家族・目撃者・救急隊員からできるだけ詳細な病歴聴取を行います。失神発作時だけではなく、失神前の状況・症状、失神後の症状も重要です。このほか、最初の失神発作のエピソードから4年以内かつ頻度が2回以下の場合も、心原性失神を疑います。

2) 心原性失神を疑う身体診察のポイント
1バイタルサインの異常
徐脈/頻脈
持続性低血圧
低酸素血症
2心不全徴候
頸静脈怒張
III音・心雑音聴取
心拡大(鎖骨中線より外側に心尖拍動触知)
肺うっ血、ラ音聴取、胸水貯留
腹水・下腿浮腫
 救急外来受診時に意識レベルが少しでもはっきりしない場合は、失神よりもむしろ意識障害と考えます。外傷・特に頭部外傷の有無も失神の診療では重要です。逆に外傷から失神の存在が明らかになる場合もあります。失神後も原因(不整脈、立位や坐位…)が持続すると、意識障害が遷延し痙攣発作を起こすこともあります。

3) 心原性失神を疑う検査のポイント
1心電図・ホルター心電図
心室頻拍/心室細動
QT延長・QT短縮
早期再分極・Brugada型・不整脈原性右室心筋症
洞不全症候群
房室ブロック
心房細動
心室内伝導障害
ペースメーカー不全
2心エコー
心筋梗塞
大動脈弁狭窄症
肥大型心筋症
右室負荷
3血液検査
BNP
トロポニン
 心電図は来院時には正常化していることが多いため、心拍数・PQ時間・J波・ST変化・QT時間等軽微な変化にも注意しましょう。失神の原因診断では、10%で心電図が有用だったと報告があります6)。

 失神で頭部外傷や神経学的所見もない場合、原則頭部CTは必要ありません!

4) 心原性失神の鑑別にかかわる臨床予測ツール
 心原性失神の鑑別のため、臨床予測ルールも用いられています(EGSYSスコア、表)。


 3点以上で心原性失神が疑われますが、感度95%・特異度61%とこのスコア単独で診断できるものではありません。有名なSan Francisco Syncope Ruleでも有用性が否定されています5)。とはいえ、判断材料の1つにはなると思います。

 救急外来を受診される失神患者さんは多く、稀ではありますがくも膜下出血や肺動脈血栓塞栓症・大動脈解離等の致死的な疾患も含まれます。

 やはり詳細な病歴聴取と身体診察、心電図・心エコー所見の正しい解釈が重要です。基本を大切にしようということですね!

投稿者: 大橋医院

2021.12.22更新

米リジェネロンは、新型コロナウイルス感染症に対する抗体療法「ロナプリーブ」がオミクロン株への有効性がないことを確認したと発表した。同株などに対応した新たな抗体療法を開発する。一方、英グラクソ・スミスクライン(GSK)や英アストラゼネカ(AZ)のコロナ抗体療法は、非臨床試験の段階だがオミクロン株にも有効な可能性が分かってきた。

 リジェネロンは16日の声明で、ロナプリーブはデルタ株には有効だが、「オミクロン株に対しては活性がない」ことを発表。同株などの変異株に対応した新たな抗体療法を複数開発しており、来年1~3月中に臨床試験を始める。

 GSKの抗体療法「ゼビュディ」、AZの同「AZD7442」は、疑似ウイルスや動物などを使った非臨床段階の実験だが、オミクロン株に対して有効な可能性を確認している。AZD7442は、米食品医薬品局(FDA)が行った非臨床試験で、主な変異株すべてに対して中和活性が維持されることを確認した。

 

投稿者: 大橋医院

2021.12.21更新

日本で"value trial"(コストとバリューを重視した臨床研究)を推進するためのプロジェクトを設立。そのウェブサイト⇒SATOMI臨床研究プロジェクト
 前回の最後に、経口薬の最大の問題点はadherenceであると、今回の内容を「予告」しておきましたが、その前に、これも前回ご紹介した、というよりご紹介しかかった、慢性骨髄性白血病(CML)に対するBCR-ABL蛋白(第9染色体と第22染色体が相互転座した異常染色体:フィラデルフィア染色体形成によるbcr-abl融合遺伝子により生成)のチロシンキナーゼ活性阻害剤(tyrosine kinase inhibitor、TKI)に関する「低用量試験」をまず提示します。

 BCR-ABLに対するTKIとして最初に開発されたimatinibによってCMLの予後は劇的に改善したのですが、「第一世代」imatinibのあとに出てきた「第二世代」TKIはさらに強力にBCR-ABLを抑制します。その一つ、dasatinibは、in vitroではimatinibの325倍の効果があるそうで、imatinibと比較した臨床試験(DASISION試験)でもimatinibより高い効果が証明されました。

 さて、dasatinibの用量に関しては、100mg/dと140mg/dが比較されており、効果は同等で100mgの方が毒性は低いということが分かっていました。加えて、上記のDASISION試験で、(毒性に際しての減量規定によって)用量を100mgよりもさらに落とした集団でも有効性は保持されるようだというデータが出されました。この知見に鑑み、University of Texas/MS Anderson Cancer Centerにて、dasatinib 50mg/dつまり「通常量」の半量での第二相試験が行われました。試験はMD Andersonなどの研究費で行われ、製薬企業は関与していないようです。

 結果は早期結果・長期結果の二報が出ていますが、いずれも非常に良好で、2年時点のoverall survival・event-free survivalはいずれも100%、また12カ月時点でのcomplete cytogenetic response (CCyR) rateとMajor molecular response (MMR) rateはそれぞれ94%と81%でした。これがどのくらい良いのかというと、DASISION試験では12カ月時点のCCyR rateがdasatinib 100mg群で83%・imatinib群で72%、同じくMMR rateがdasatinib 100mg群で46%・imatinib群で28%ですから、これらをいずれも上回っています。

 

投稿者: 大橋医院

2021.12.20更新

「7月4日に生まれて」というトム・クルーズの映画を鑑賞した。1776年7月4日はアメリカ合衆国の独立記念日である。その日にトム・クルーズ演ずる主役は誕生した。

彼が17歳になった時、ベトナム戦争は悪化の一途をたどっていた。どの高校卒業生にも、軍人将校は戦争への参加の必要を強調した。共産主義がドミノ現象のごとく、ふくらみ、

ロシアはともかく中華人民共和国、北朝鮮、キューバ、東ヨーロッパ諸国に広がった。このままでいくと,USAが主張する自由主義、民主主義が危ないことになった。もともと、1776年、イギリス帝国主義を嫌い、自由を求めてメイフラワー号に乗って、フィラデルフィアで独立宣言をして、最初は13州であったが、南へ西へと、開拓して成長したのがUSAであった。第一次世界大戦は、本来、イギリスとフランスとドイツの戦争であったが、ドイツの戦艦の無差別攻撃により、アメリカの客船が沈められ、この戦争に加わった。本来、戦争は嫌いな自由主義のアメリカ国民であったが、第2次世界大戦も、日本の真珠湾攻撃、ソビエトのナチスをスターリングランドで撃破し、一気に東ヨーロッパを支配下におき、このままではソビエトの共産主義が強くなるばかりであった。やむを得ずに日本との戦い、ナチズム、ソビエトの権力抑制に、ノルマンジーの要塞を突破した、第2次世界大戦の勝利国になった。しかし、共産主義のドミノ現象と言って、共産国は広まるばかりであった。ソビエトをはじめ、中国、北朝鮮、北ベトナム、キューバ、東ヨーロッパ、、、、。ここから米ソ冷戦時代が始まる。そして朝鮮半島で、北朝鮮は韓国をつぶしそうになった。その時アメリカは韓国に軍隊を送り、勇敢にも北朝鮮を北緯37度線まで追いやり休戦になるのが大変であり、多くのアメリカ人の犠牲者を作り出した。その数年後、私が中学2年生、3年生、高校1年生になるころまで激悪な戦争が続行し、ついにアメリカは、敗戦し、ホーチンミン率いる北朝鮮にベトナム全土を明け渡した。この戦争の痛手は大きかった。全く無駄な戦争だと言うアメリカ国民の意見が多く、死亡した若者も多かったし、身も心も傷ついて、身体障害者となって故郷へ帰ったのである。そこで彼らは地元国民から、ご苦労さんどころか、”ベトナム帰り”とさげすまれたのである。トム・クルーズは下半身麻痺になり、車いす生活者となり帰国した。国から軍人年金と多くの勲章はもらったが、動かぬ下半身は、結婚も、子供を作ることもあきらめざるを得なかった。(実際トム・クルーズはこの映画撮影中、車いす生活をしたそうである。)またケネディー大統領が暗殺され、共産主義が大嫌いなニクソン大統領による、赤狩り(共産主義を支持する者を無理に見つけ,投獄か国が追放する。チャップリンも追放された。)

ベトナム帰りのトム・クルーズふんする若ものは、戦争反対と共産主義者呼ばわれされた。身も心も、祖国のためにベトナム戦争に参加したのに、国民からも家族からも、冷たい目で見られ、最後は施設で夢も無くして暮らし始める。ヒッピーとか反戦運動はますます高まった。しかし、今の世界、2021年12月20日現在でも、世界で紛争はおさまらず、人間はおろかである。地球から人類さえいなければこんな美しい惑星はないのである。(完)

投稿者: 大橋医院

2021.12.19更新

 過体重・肥満の成人に対する体重減少薬の便益と有害性を無作為化比較試験の系統的レビューとネットワークメタ解析で検討。文献検索で確認した1万4605件のうち143件(参加者計4万9810例)を解析対象とした。

 生活習慣の改善のみと比較して、レボカルニチンを除くすべての薬剤に体重減少効果が見られた。確実性が高ないし中のエビデンスから、phentermine–topiramateが最も体重減少効果が高く(5%以上の体重減少のオッズ比8.02、95%CI 5.24-12.27、体重変化率の平均差-7.97、95%CI-9.28--6.66)、次いでGLP-1受容体作動薬の効果が高いことが示された(同6.33、95%CI 5.00-8.00、-5.76、95%CI-6.30- -5.21)。naltrexone-bupropion(オッズ比2.69)、phentermine–topiramate(同2.40)、GLP-1受容体作動薬(同2.17)、orlistat(同1.72)により薬剤の使用中止に至る有害事象が増加した。

投稿者: 大橋医院

2021.12.17更新

イスラエルで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するmRNAワクチンBNT162b2(ファイザー社/ビオンテック社)の3回接種(追加接種)の便益を後ろ向き症例対照研究で検討。BNT162b2ワクチンを2回または3回接種し、SARS-CoV-2検査陰性だったMaccabi Healthcare Servicesの会員30万6710例(40歳以上、女性55%)を対象とした。

 その結果、調査期間中に実施した50万232回のPCR検査のうち、22万7380回が2回接種者、27万2852回が3回接種者に対するもので、それぞれ1万4989件(6.6%)、4941件(1.8%)が陽性だった。2回接種者と比べると、3回目接種28-65日後の推定陽性オッズ比は0.14(95%CI 0.13-0.15)で、SARS-CoV-2陽性のオッズが86%低下した。

投稿者: 大橋医院

2021.12.15更新

 米国心臓協会(American Heart Association:AHA)の年次学会Scientific Sessionが、2021年11月13日から3日間にわたって開催された(以下AHA21)。当初は対面での現地開催も計画されていたようだが、最終的にはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響のため、2020年に続きオンラインでの開催となった。本稿では、AHA21の中から筆者が注目した演題を取り上げ、全体としての印象と合わせて紹介する。

症状に特化した新たな冠動脈疾患の診断ガイドライン、要点は6つ
Chest Pain Guidelines(CS.ME.495)
 AHA21の中で筆者が最も注目したセッションである。AHA21に先行する形で10月下旬にGuideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain1)がオンラインで開示された。これまで米国における冠動脈疾患の診断ガイドラインは2012年に発表された『Guideline for the Diagnosis and Management of Patients with Stable Ischemic Heart Disease』2)であった。これまでに幾つかのマイナーチェンジはあったものの、実に9年ぶりに大きく刷新されることとなった。

 内容の全てを紹介することは紙幅の関係で難しいが、要点は以下の通りである。

1) 冠動脈疾患のみならず胸痛という症状に主眼が置かれている
2) 非典型的(atypical)胸痛という表現に警鐘を鳴らす
3) リスク層別化において低リスクの場合には検査が推奨されない
4) 新たな検査前確率の提唱
5) 新たな非侵襲的検査および侵襲的検査の推奨
6) 非閉塞性冠動脈疾患を含めた新たな冠動脈疾患の定義
 演題では、ガイドライン策定に関わった医師らが、ガイドラインの要点を解説し、今後の展望や視聴者からの質問に答えていた。新たなガイドラインの内容を理解するに当たり充実した内容であった。

ISCHEMIA試験後の安定冠動脈疾患の治療はどうなる?
Managing Stable Cad in a Post-Ischemia World(AC.ME.487)
 2019年のAHAでISCHEMIA試験3)が発表されて以後、侵襲的冠動脈血行再建術について、対象となる患者、実施すべきタイミングなど多くの議論が巻き起こることとなった。この演題では、Stone医師など各領域の専門家らが現時点における安定冠動脈疾患の治療方針について活発な議論を展開した。印象的であったのは、血管内超音波をはじめとする冠動脈イメージングが、冠動脈血行再建術の対象者やその実施時期の最適化に有効ではないか、という論調であった。

 前述した診断ガイドラインの改訂に続き、血行再建のガイドライン改訂が間近であることも言及されていた。冠動脈疾患の管理が「症状があり心筋虚血があれば血行再建」という単純なものから「リスク層別化と共有意思決定(shared-decision making)を経た最適な治療選択」に移り変わるということを印象付けた。

無症状大動脈弁狭窄症への早期介入、僧帽弁手術+三尖弁形成術の根拠
Late Breaking Science Session 1: Valve, Veins and New Viewpoints in Cardiothoracic Surgery(LBS.01)
 AHA21などの大規模な国際学会の醍醐味の一つがLate Breaking Sessionである。大規模な国際共同前向き試験が発表され、同時に一流誌に掲載されることも多い学会の花形である。ここからは2つの研究を取り上げたい。

 まずは、心機能の保たれた低リスクの無症状大動脈弁狭窄症を対象として外科的大動脈弁置換術の安全性と有効性を検証したAvatar試験である。欧州の7施設から患者157例を早期介入群とガイドラインに準じる治療群の2群に割り付けたランダム化比較試験である。結果としては、早期介入群の方が従来群よりも、総死亡を含めた複合評価項目の発生が有意に少ないことが示された。この試験は、無症状大動脈弁狭窄症に対する早期外科的介入の有効性を示した初めてのランダム化比較試験であり、意義深い。今後、類似のエビデンスが発表されれば、少なからず臨床ガイドラインに影響を及ぼすことが予想される。なお、本試験の詳細はCirculation誌に公表されている4)。

 次に、僧帽弁手術に加えて三尖弁形成術を実施することの影響を検証した試験である。34施設から僧帽弁手術を予定されている中等度以上の三尖弁逆流もしくは三尖弁弁輪径拡大(40mm以上)の患者401例を僧帽弁手術単独群と僧帽弁手術および三尖弁形成術実施群の2群に割り付けたランダム化比較試験である。主要評価項目とした総死亡を含めた術後2年間の複合イベントの発生率は、三尖弁形成術を加えた方が僧帽弁手術単独より低かったが、その多くは三尖弁逆流の増悪が抑制されたことに起因し、総死亡率単独では有意な差が認められなかった。また、三尖弁形成術群では、恒久的心臓ペースメーカの植え込みが有意に増加する結果であった。僧帽弁手術と同時に三尖弁形成術を施行することは日常臨床でしばしば経験することであるが、これまで確固たるエビデンスが存在していなかったことは驚きであった。三尖弁に対する治療介入として、外科的手術に加えて経カテーテル的三尖弁形成術および置換術が注目されている。今後三尖弁領域の治療が発展する上では、このようなエビデンスの蓄積が不可欠である。なお、試験の詳細はNew England Journal of Medicine誌に公表されている5)。

非糖尿病を含む急性心不全患者でもSGLT2阻害薬の効果確認
Late Breaking Science Session 5: Building on the Foundations of Treatment: Advances in Heart Failure Therapy(LBS.05)
 最後に、心不全関連の演題を取り上げる。Late Breaking Sessionの中で発表されたEMPULSE試験である。この試験は、初発の急性心不全または慢性心不全の急性増悪で入院した患者を対象にSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの安全性と有効性を検証したランダム化比較試験である。日本を含むアジア、北米、欧州の施設から患者530例を登録し、入院後24時間から5日以内に、エンパグリフロジン投与群とプラセボ群の2群に割り付けた。主要評価項目は、入院後90日時点の総死亡を含む複合イベントの発生率であり、個別イベントごとに両群の発生率を比較するwin ratioという指標が用いられた。

 その結果、総死亡率、心不全イベント発現率など、いずれでもエンパグリフロジン群の方が良好な結果であったことが示された。ポイントとしては、対象患者が糖尿病の有無や左室駆出率を問わず設定されたことであり、特に非糖尿病を含む急性心不全患者でSGLT2阻害薬の効果を検証した初めてのランダム化比較試験となった。これまで慢性心不全に対するエビデンスが多く発表されてきたSGLT2阻害薬であるが、急性心不全に対する効果も明らかになりつつある。心不全診療におけるSGLT2阻害薬の最終的な位置付けはどこになるのだろうか。まだまだ注目すべき薬剤である。

最後に
 AHA21の全体を通しての総評だが、個人的に9月から渡米したこともあり、初めて時差に悩まされずに参加できた学会であった。昨今では欧州心臓病学会の規模が大きくなり、またCOVID-19のパンデミック以後はなかなか参加できていないという読者の先生方も多いのではないだろうか。しかし、本稿でわずかながら紹介したように、ガイドラインの改定や近年のエビデンスを踏まえての展望、新たな臨床試験の発表など、パンデミックの中にあっても世界の循環器領域が力強く前進していることが実感できる学会であった。「それでも世界は前進し続ける」その内容が本稿によって少しでも読者の皆様に届くことを願って筆を置かせていただく。

(了)

投稿者: 大橋医院

2021.12.14更新

厚生労働省と岐阜県は11日、スリランカに滞在歴があり、今月4日に成田空港から入国した同県在住の40歳代男性が新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」に感染したと発表した。男性は国内13例目で、国内4例目のオミクロン株感染者の濃厚接触者。男性は入国後一度自宅に戻っており、検疫以外でオミクロン株感染者が確認されたのは初めて。

 厚労省などによると、男性は空港検疫では陰性で、知人男性が運転する車で自宅に戻り、待機していた。7日に発熱などの症状が出たといい、8日に同じ航空機の乗客からオミクロン株感染者が出たことから濃厚接触者と認定され、入院していた。9日の検査でコロナ陽性と確認された。

 男性は一人暮らしで、自宅に戻る際にどこにも立ち寄っておらず、入院までの間、国の健康観察や所在確認にも応じていた。厚労省の担当者は「水際対策の中で感染を把握しており、市中感染にはつながっていない」との認識を示した。

投稿者: 大橋医院

2021.12.13更新

 米国の公共ラジオ「NPR」のファンなら、編集者でジャーナリストでもあるPetra Mayerさんのことを知らない人はいない。彼女は、SFやロマンス小説、漫画、そして猫の熱狂的な愛好家であり、自分自身で「私はそれらのオタクだ」と公言していた。機知に富む陽気なトークで人々を楽しませていたが、今年11月に亡くなった。46歳だった。

 彼女の突然の死について、詳しい情報はあまり公表されていない。しかし両親によると死因は肺塞栓症とのことだ。医学の専門家は、「この悲しい出来事は、人々が肺塞栓症をより深く理解しなければいけないことを示している」と述べている。

 米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部のKarlyn Martin氏は、「残念ながら肺塞栓症は、若くて健康な人か年配の人か、あるいは疾患のある人か否かにかかわらず、人生のあらゆる段階で人々を襲う可能性がある」と解説する。肺塞栓症による死亡は、心血管死の中で3番目に多い。しかし人々はその症状をあまり知らない。同氏は、「胸痛発作が起きた時、多くの人は『心筋梗塞かもしれない』と考えて直ちに受療行動を取る。しかし、『肺塞栓症かもしれない。すぐに病院に行こう』と考える人はいない。肺塞栓症と診断された患者が受診前に、数日~数週間も様子を見ていたということもまれでない」と話す。

 米国心臓協会(AHA)の統計によると、最新の死亡者数確定データである2018年の1年間で、肺塞栓症により3万6,000人以上が亡くなった。さらに、現段階で理由は不明ながら、2020年にはより増加している傾向が見られるという。

 肺塞栓症は、肺とは異なる部位、多くの場合は足の静脈内にできた血栓が、血流に乗って肺の動脈に移動してそこにとどまり、肺への血流を遮断してしまう病気だ。肺の働きが低下するだけでなく、心臓にも負担がかかりその機能が低下する危険がある。

 血栓関連疾患の啓発活動を推進している米国の団体「National Blood Clot Alliance」の理事で、米ハドソン公衆衛生大学の学部長でもあるGary Raskob氏によると、肺塞栓症を起こした血栓のサイズが大きい場合にも、自覚症状が現れないことがあるという。また米疾病対策センター(CDC)は、肺塞栓症を発症していたことが死亡後に判明するケースも少なくない実態を示すデータを公表している。

 肺塞栓症の危険因子として、大手術を受けたり急性疾患で数日間入院した場合などが知られており、女性では経口避妊薬の使用、および妊娠も該当する。AHAの統計では、妊婦の死亡原因の約9%が肺塞栓症だ。さらに、がんや高齢であることも危険因子に挙げられる。しかし若年者でも無視できず、Martin氏が2020年に報告した研究では、2008~2018年にかけて25~64歳の肺塞栓症による死亡者数は、年率平均2.1%で増加していた。

 またこの疾患の発症には遺伝的な関与が強い可能性もあり、Raskob氏は、「近親者に肺塞栓症になった人がいる場合、もし自分自身が入院することになったら、肺塞栓症のリスクはどの程度なのか、どのような予防的措置を取るのかを、医師に尋ねた方が良い」とアドバイスしている。一方で、危険因子が何もないのにもかかわらず肺塞栓症を発症する人もまれでない。そのため同氏は、「発症時の症状を知っておくことが重要だ」と述べる。

 足の静脈に血栓ができている可能性を表す症状として、片方の足の腫れ、痛み、発赤、熱感が挙げられる。血栓が肺に移動した場合は、胸痛や息切れを引き起こす可能性がある。また、あまり多くはないが、心臓の鼓動を感じたり、咳をした時にピンクまたは赤色の痰が出たり、背中の上部に痛みを感じたりすることがある。「このような症状が現れた時には、すぐに医師の診察を受けるべきだ。致命的なリスクを否定できない状態であるのに、様子を見るといった危険を冒すべきでない」とRaskob氏は語る。

 一方、Martin氏は肺塞栓症の予防対策として、「長時間の車移動や飛行機の搭乗中には、体をこまめに動かすと良い。8~10時間同じ姿勢で座り続けていると、血栓ができる確率が高くなる」とアドバイスする。同氏によると、Mayerさんを襲ったような全く予期できない肺塞栓症による突然死は、それほど多いものではないとしながらも、「彼女は結果として、人々のこの病気に対する認識を高め、何らかの症状を無視してはいけないことを教えてくれた」と述べている。そして、「肺塞栓症であってもわれわれが迅速に診断を下すことができれば、多くの場合、適切な治療によって回復する」とまとめている。

投稿者: 大橋医院

2021.12.10更新

「1日1万歩」という目標は、健康にとって価値のあるものだ。しかし、実はこの「1万」という数字は、もともと医師や専門家が提唱したものではなく、1960年代半ばに日本で発売された「万歩計」という商品名に由来している。漢字の「万」は、人が歩く姿に似ていると言えなくもない。「1万というのは、切りの良い数字だし、マーケティングメッセージとしても効果的だ。しかし、科学的な裏付けはあまりない」と、米マサチューセッツ州立大学アマースト校助教授のAmanda Paluch氏は言う。

 そこでPaluch氏らは、歩数と心血管疾患との関連について調べた研究のメタアナリシスを実施した。その結果、健康にとって特別な意味を持つ歩数というものはないものの、歩数は多いほど健康に良いという説は裏付けられたという。この研究は米国心臓協会年次集会(AHA 2021、11月13~15日、オンライン開催)で報告された。

 この研究では、計1万6,906人(平均年齢62歳、女性51%)を対象に、心疾患、心不全、または脳卒中について、中央値で6.3年にわたって追跡した7件の研究結果が分析された。1日に歩く歩数に基づいて被験者を4群(各群の歩数の中央値は、1,951歩、3,823歩、5,685歩、9,487歩)に分けて解析を行うと、歩数が増えるほど心血管疾患のリスクが低減することが明らかになった。最も歩数の多い群の心血管疾患の発生数は、最も歩数が少ない群の半分以下であり(243例対491例)、ハザード比は0.60と計算された。

 Paluch氏は、「この結果から言えることは、1万歩などの数字にこだわらずに、“もっと体を動かせ”ということだ。心血管の健康にとっては、少しでも歩数を増やすことに意味がある」と述べている。

 今回の研究には関与していない、米エモリー大学准教授のFelipe Lobelo氏は、「よく歩くことは健康に良いとされていたが、歩くことと心血管疾患リスクの関係について具体的な結果が出たことで、さらに強い裏付けが得られた」と述べている。また、「過去の研究の多くは自己申告による運動量に基づいていた。自己評価では、運動量を過大評価する可能性が高い」とし、今回のメタアナリシスは、活動量が歩数計により正確に測定されている点でも意味があると強調する。

 Paluch氏は、「今後は運動の強度による影響を評価するほか、メンタルヘルスやがんなど、心血管以外の健康にもたらす歩行のベネフィットについても検討したい」と述べている。

 米国政府によるガイドラインでは、成人に対しては、週150分以上の中等度の有酸素運動が推奨されている。「心血管疾患の健康に関しては、1日1万歩まで歩かなくても、5,000~6,000歩でベネフィットが得られるだろう。これは週150分という運動時間にも一致する」とLobelo氏は言う。

 Paluch氏は、「1万歩という数字に尻込みしてしまう人は多いだろうが、少しずつ歩数を増やす方法を考えれば良い。例えば、店から離れた場所に駐車する、エレベーターではなく階段を使うなどして、日常生活に歩くことを取り入れていくと良いだろう」と助言している。

 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。

投稿者: 大橋医院

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