大橋院長の為になるブログ

2023.05.31更新

1. 「特発性間質性肺炎」とはどのような病気ですか
「呼吸」とは、吸った空気(吸気)が気道(気管や気管支など)を通過し、肺の奥にある「 肺胞 」と呼ばれる部屋に運ばれ、肺胞の薄い壁の中(間質)を流れる毛細血管内の赤血球に酸素を与えると同時に二酸化炭素を取り出すガス交換が行われ(図1左)、また呼気として吐き出される運動です。間質性肺炎は、さまざまな原因からこの薄い肺胞壁に 炎症 や損傷がおこり、壁が厚く硬くなり( 線維化 )、ガス交換がうまくできなくなる病気です(図1右)。また、肺の最小単位である小葉を囲んでいる小葉間隔壁や肺を包む胸膜が厚く 線維化 して肺が膨らむことができなくなります。線維化が進んで肺が硬く縮むと、蜂巣肺といわれるような穴( 嚢胞 )ができ、胸部CTで確認できます(図2)。特徴的な症状としては、安静時には感じない呼吸困難感が、坂道や階段、平地歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じるようになります( 労作時呼吸困難 )。季節に関係なく痰を伴わない空咳(乾性 咳嗽 )で悩まされることもあります。長年かけて次第に進行してくるので自覚症状が出るころには病状が進行していることもあります。また、風邪様症状の後、急激に呼吸困難が出現し病院に救急受診することもあり、「急性増悪」と呼ばれています。
間質性肺炎の原因には、関節リウマチや皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上での粉塵(ほこり)やカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院で処方される薬剤・漢方薬・サプリメントなどの健康食品(薬剤性肺炎)、特殊な感染症など様々あることが知られていますが、原因を特定できない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」といいます。
特発性間質性肺炎は主要な特発性間質性肺炎・まれな特発性間質性肺炎(2つ)・分類不能型特発性間質性肺炎の3つに分類されます。主要な特発性間質性肺炎は病態の異なる6つの病型からなりますが、頻度からすると「特発性肺線維症」が最も多く、「特発性非特異性間質性肺炎」、「特発性器質化肺炎」を含めた3つの疾患のいずれかに診断されることがほとんどです。その診断は、既往歴・職業歴・家族歴・喫煙歴などを含む詳細な問診、肺機能検査、血液検査からなる臨床情報、高分解能コンピューター断層画像(HRCT)やいままでの検診時の胸部X線画像の変化からなる画像情報、そして外科的な肺生検からえられる病理組織情報から総合的に行います。

図1 正常肺と間質性肺炎の肺

図2 肺組織の比較

 

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
労作時 の息切れなどの自覚症状をともなって医療機関を受診される患者さんは10万人あたり10~20人といわれていますが、診断されるにいたっていない早期病変の患者さんはその10倍以上はいる可能性が指摘されています。わが国における特発性肺線維症の発症率と 有病率 については、「厚生労働科学研究難治性疾患研究事業びまん性肺疾患に関する調査研究班」により報告されています。2003年から2007年における北海道での全例調査では、IPFの発症率は10万人対2.23人、有病率は10万人対10.0人でした。国内で病型が確認できた特発性間質性肺炎症例のうち、特発性肺線維症の患者さんが62%と最も多く、特発性非特異性間質性肺炎15%、特発性器質化肺炎12%ほどです。ただし症状が軽いために認定基準の重症度を満たさない多くの患者さんをいれるとこの比率も変わってくることが予想されます。また、近年の諸外国での 疫学調査 では特発性間質性肺炎の患者数の増加が示されています。

3. この病気はどのような人に多いのですか
特発性間質性肺炎のうちもっとも治療が難しい特発性肺線維症は、50才以上の男性に多く、間質性肺炎は一般に喫煙が関与している可能性を指摘されていますが、特発性肺線維症の患者さんのほとんどが喫煙者です。喫煙が必ずしも肺線維症だけを来たすわけではないことから、喫煙は特発性肺線維症の「危険因子」であると考えられています。やはり喫煙者に多い「肺気腫」という、肺が壊れて拡がっていく病変と、肺線維症が合併した「気腫合併肺線維症」という病態が、喫煙歴があって息切れを自覚する患者さんに多く認められて問題になっています。特発性肺線維症の「危険因子」として他には、加齢や逆流性食道炎なども挙げられています。明確な粉じん暴露による間質性肺炎は特発性間質性肺炎から除外されますが、原因として明らかではない場合には「危険因子」ととらえられます。

4. この病気の原因はわかっているのですか
特発性間質性肺炎の原因はわかっていませんが、複数の原因遺伝子群と環境因子が影響している可能性が考えられています。実際に原因候補遺伝子はいくつか報告されておりますが、かならずしもそれらで全て間質性肺炎の原因を説明しきれないことも知られています。また、特発性肺線維症の原因は、近年では未知の原因による肺胞上皮細胞の繰り返す損傷とその修復・治癒過程の異常が主たる病因・病態と考えられています。

5. この病気は遺伝するのですか
特発性間質性肺炎とそっくりな病態で家族発生があることが知られています。しかし家族発生が明らかな場合には 家族性 肺線維症として区別します。肺胞を拡げる作用があるサーファクタント蛋白の遺伝子変異の家系に見られる肺線維症の発症年齢は若い傾向がありますが、小児から50歳以降まで病態の程度に応じて様々です。また、上述したように、環境因子に反応しやすい体質は遺伝する可能性もあるので、ご家族に患者さんがいらっしゃったら、喫煙を含めた危険因子は可能な限り避けることが薦められます。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
間質性肺炎が存在していても病初期には多くは無症状です。乾性咳嗽と呼ばれる痰を伴わない空咳で受診する患者さんもいます。日常生活での労作時呼吸困難感などを自覚するときには病気はある程度進行している可能性があるため、はやめに専門施設に紹介してもらうことが重要です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
特発性肺線維症の場合、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が使用されます。特発性肺線維症は進行性の経過をとりますが、治療薬による治癒が困難なために、進行抑制が現実的な目標となります。いくつかの臨床試験で進行(肺活量の経年低下)を半分に抑える結果が示され、国内外の特発性肺線維症のガイドラインにおいて抗線維化薬の使用が提案(条件付きで推奨)されました。また、抗線維化薬は進行抑制だけでなく急性増悪の抑制効果も示されており、特発性肺線維症の生存期間を延長することが期待されています。ごく軽症で息切れなどの自覚症状がない場合は、喫煙者であればすぐ禁煙し、病態進行の程度を数ヶ月観察することもあります。病態の進行程度(臨床経過)を主治医が理解するためには、それまでの数年間にわたる検診や医療機関で撮影された胸部X線なども重要な情報となります。胸部画像や肺機能、6分間の歩行試験などの検査結果を総合的に判断し、病気の進行を認めるようであれば治療薬を開始します。抗線維化薬には、食欲不振や胃不快感、光線過敏症、下痢などの副作用があるため、内服については主治医の先生とよく相談されることを薦めます。

特発性肺線維症以外の特発性間質性肺炎の場合、ステロイドや免疫抑制薬などが使用されます。軽症や進行に乏しい場合には経過観察することもあります。

また、若いながら呼吸機能の改善が期待できない場合には、一定の厳しい基準を満たすことを確認されたうえで、肺移植の適応も検討されます。

病気が進行し呼吸で酸素を十分取り組めない場合には、 在宅酸素療法 といって日常生活で酸素を吸入する治療法が行われ、必要であれば 呼吸リハビリテーション も行われます。さらに肺病変の影響で心臓の負担が増加している場合( 肺高血圧 )にはその治療もあわせて行います。

8.この病気はどういう経過をたどるのですか
特発性肺線維症の経過は個々の患者さんにより様々であるといわれています。一般的には慢性経過で肺の線維化が進行する疾患で、平均生存期間は、欧米の報告では診断確定から28-52ヶ月、わが国の報告では初診時から61-69ヶ月と報告されていますが、患者さんごとにその差は大きく、経過の予測は困難です。また、風邪の様な症状のあと数日内に急激に呼吸困難となる急性増悪が経過を悪化させることがあります。そのほかの非特異性間質性肺炎や器質化肺炎は一般に治療に良く反応しますが、中には軽快と増悪を繰り返し、徐々に悪化していく場合もあります。また、発症当初は特発性間質性肺炎と診断されても、しばらくしてから膠原病などの原因疾患が明らかになり、原因疾患に対する治療法で間質性肺炎が軽快することもあります。

喫煙歴のある間質性肺炎の患者さん、特に肺気腫を合併した肺線維症の患者さんには肺がんができやすいことが知られていますので、間質性肺炎の病状が安定していても定期的な検査を受けることをお勧めします。

9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
日常生活では、禁煙とともに、過労・睡眠不足など体に対する負担を減らすような生活を行うよう心がけてください。過食・体重増加は呼吸困難が増強する可能性があり、適正体重を保つことも重要です。一方、間質性肺炎が進行すると体重が減少し、経過が不良となることからバランスのとれた食事により体重を維持してください。
また、感染予防はきわめて重要で、間質性肺炎の急性増悪は上気道感染(風邪のような症状)がきっかけとなることも多いので、冬季においては外出時のマスク着用や手洗い・うがいの励行、感染症対策としての予防接種などが重要です。

10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
特発性肺線維症(IPF)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性間質性肺炎(AIP)、特発性器質化肺炎(COP)、剥離性間質性肺炎(DIP)、呼吸細気管支炎関連間質性肺炎(RB-ILD)、リンパ球性間質性肺炎(LIP)

 

投稿者: 大橋医院

SEARCH

ARCHIVE

CATEGORY