大橋院長の為になるブログ

2022.04.20更新

継続的に行われてきたDLBCLの治療開発
 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma: DLBCL)の化学療法の開発は、1976年にCHOP療法(3種の抗がん剤、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンに、副腎皮質ホルモンであるプレドニゾロンを組み合わせた治療)がMDアンダーソンがんセンターから報告されて以来、継続的に行われています。本稿では、DLBCLの病態と初発寛解導入治療について最新の知見に基づいて概説します。

DLBCLの病態
遺伝子変異パターンによる分類の研究も進む
 DLBCLは、成熟リンパ系腫瘍の中で最も頻度が高い病型です。全リンパ腫の約3分の1を占めます。発症年齢中央値は60歳代後半で、75歳以上の後期高齢者での発症も多く、約3割に上ります。臨床病期はAnn-Arbor分類(I-IV期)で決定されますが、限局期(I-II期)は3割程度で、進行期(III-IV期)が7割を占めます。

 DLBCLには14の病型が定義されています。その中で、DLBCL, not otherwise specified (NOS)がほとんどを占めます。縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫や血管内大細胞型B細胞リンパ腫などの特殊型は、“他の大細胞型B細胞リンパ腫(other large B cell lymphomas)”に分類されます(2016年WHO分類改訂第4版)。myc遺伝子とbcl2遺伝子の双方の再構成を持つ症例(double hit lymphoma)などは、予後が極めて不良で、高悪性度B細胞リンパ腫(high-grade B-cell lymphoma)として、DLBCLとは別疾患と分類されます。DLBCLの治療開発はDLBCL-NOSを主な対象として進められてきました。

 DLBCL-NOSは遺伝子発現に基づいた分子的サブタイプとして、胚中心型(GCB型:germinal center B-cell subtype)、活性化B細胞型(ABC型:activated B-cell subtype)と、cell of origin(細胞起源)によって分類されます。ABC型は、予後がGCB型と比較して不良であると報告されていますが、一部の分子標的薬ではABC型に特化した開発が進んでいるものもあります。また、遺伝子変異パターンにより、DLBCLを5つに分類(EZB、C4、BN2、N1、MCD)する研究も行われ、GCB型、ABC型との相関も検討されており、治療開発にも関わってくるようになってきました。

現在の標準療法
R-CHOP療法で6割超が治癒
 進行期aggressive lymphomaでは、標準治療としてCHOP療法(6、8コース)が確立されています。CHOP療法より治療強度を高めた治療法(第2、第3世代と呼ばれる治療法でm-BACOD、ProMACE-CytaBOM、MACOP-Bなど)も数多く開発されてきました。しかし、これら4つの治療法を比較した第3相臨床試験(1993年)1)の結果によると、有効性でCHOP療法に勝る治療レジメンはなく、有害事象が最も少ないCHOP療法が標準療法となりました。

 DLBCLはaggressive lymphomaの代表的な疾患です。DLBCLはCD20表面抗原が陽性で、抗CD20抗体であるリツキシマブ(rituximab: R)とCHOP療法を併用した治療の有用性が、2002年に第3相臨床試験で報告されました2)。全生存率も改善され、現時点での標準療法はR-CHOP療法です。R-CHOP療法により、6割を超える症例が治癒します。

R-CHOP療法後の治療開発
R-COP療法でも3-4割が再発
 R-CHOP療法は効果が優れており、治癒が期待される治療法ですが、3-4割の症例で再発を来します。初回寛解導入を改善し、DLBCLの治療成績を向上させることは重要であり、①化学療法の強化 ②分子標的療法の導入の2つのコンセプトで開発が進みました。以下で、それぞれについて概説します。

化学療法の強化―R-CHOP療法を上回る結果は出ていない
 R-CHOP療法は、3週間に1度(R-CHOP-21)の投与法です。これを2週間に1度(R-CHOP-14)にすることにより、相対用量強度(relative dose intensity:RDI)を高め、治療効果の改善を目的とした第3相臨床試験が英国とフランスでそれぞれ行われました。しかし、RDIが高いR-CHOP-14は、R-CHOP-21に無増悪生存で優ることは示されませんでした。

 R-CHOPレジメンの主要薬剤の96時間持続投与やVP-16の追加などにより、治療強度を高めたDA-EPOCH-Rレジメンも検討されました。DLBCLの初発症例に対する単群の第2相臨床試験では、高い有効率が示されました。しかしその後、DA-EPOCH-R療法とR-CHOP療法を比較する第3相臨床試験が行われましたが、無増悪生存では有意差が示されませんでした。また、DA-EPOCH-R療法では、有害事象が高い傾向が認められました。

 その他の第3相臨床試験では、リツキシマブの投与法(強化)も検討されましたが、標準のR-CHOP療法を上回ることは示されていません3)。

 上記の様にR-CHOP療法の治療効果を改善する目的で、化学療法の強化が検討されてきましたが、臨床的に優れた治療法の開発はされていません。

分子標的療法の導入―抗体薬物複合体の初期治療導入に期待
 近年、B細胞リンパ腫に有効と考えられる小分子薬剤が開発されてきました。また、抗体療法の一つである抗体薬物複合体(antibody drug conjugate: ADC)もDLBCLの初期治療に導入が検討されています。

①プロテアソーム阻害剤

 プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブは、NFκB経路の阻害薬として、多発性骨髄腫で広く用いられています。ボルテゾミブは、non GCB(ABC)型のDLBCLでの効果が期待されており、R-CHOPとの併用療法(VR-CHOP)がR-CHOP療法と第2相臨床試験で比較されました。しかしVR-CHOPは、無増悪生存を改善できませんでした。

②BTK阻害剤

 B細胞受容体から核へのシグナル伝達系の重要な酵素にブルトン型チロシンキナーゼ(Bruton tyrosine kinase:BTK)があります。BTK阻害剤は、慢性リンパ球性白血病、マントル細胞リンパ腫などで高い効果が報告されています。

 BTK阻害剤であるイブルチニブはnon GCB(ABC)型のDLBCLにおいても効果が期待できる試験結果があり、第3相臨床試験でイブルチニブ+R-CHOP療法と、R-CHOP療法の比較が行われました(PHOENIX試験)。しかし無増悪生存の改善効果は認められませんでした。ただし、若年者、遺伝子変異型のMCD型・N1型を対象としたサブ解析では、イブルチニブの上乗せ効果が示唆されています。

③免疫調整剤

 多発性骨髄腫のkey drugであるレナリドマイドは、悪性リンパ腫にも効果が期待できます。再発濾胞性リンパ腫には、リツキシマブとの併用で保険が適用されます。第2相臨床試験でR-CHOP療法との同時併用が検討され、ABC型DLBCLに対して、レナリドマイドの併用が効果を改善する可能性が示唆されました。

 また、レナリドマイド+R-CHOP対R-CHOPの比較第3相臨床試験が行われましたが、レナリドマイドの上乗せ効果は証明されませんでした(ROBUST試験)。高齢者を対象としたR-CHOP療法後のレナリドマイド維持療法の第3相臨床試験も行われましたが、レナリドマイド維持療法を行った群において無増悪生存は改善したものの、有害事象が多く、全生存率の低下が懸念されました。

④新規抗体治療薬

 ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性を向上させた抗CD20抗体薬のオビヌツズマブは、濾胞性リンパ腫の初発・再発で広く用いられています。DLBCLにおいてもオビヌツズマブ+CHOP療法が、R-CHOP療法と第3相臨床試験で比較されました(GOYA試験)。しかしオビヌツズマブによる治療効果の改善は認められませんでした。

 新規抗体薬の一つにポラツズマブ ベドチンがあります。ポラツズマブ ベドチンはADCであり、B細胞を認識するCD79b抗体に、微小管阻害剤であるMMAEが結合されています。R-CHOPとポラツズマブ ベドチン+R-CHP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシンおよびプレドニゾン)を比較する第3相臨床試験の結果が2021年12月に発表されました4)。主要エンドポイントである無増悪生存が、ポラツズマブ ベドチンの併用で改善したと報告されました。全生存は改善されませんでしたが、有害事象は両群で同等でした。今後、ポラツズマブ ベドチン+R-CHP療法の初発DLBCL治療における位置づけが注目されます。

今後の治療開発の展望
R-CHOP療法に代わる標準療法の出現に期待
 初発DLBCLに対しては、R-CHOP療法の効果と安全性のプロフィールが極めて良好であるため、R-CHOPを超える治療法の開発は困難を極めました。しかし、抗体薬を含む分子標的療法の開発が進み、初発症例を対象とした第3相臨床試験も複数行われています。特に抗体開発では、2重特異抗体、ADC、抗CD19抗体が注目されます。20年以上、標準療法であったR-CHOP療法に代わる標準療法が出現するのを期待したいところです。

投稿者: 大橋医院

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