大橋院長の為になるブログ

2022.01.27更新

コロナ下での診察の落とし穴
全身をくまなく診るという基本が大切
――例えば、発熱の原因が蜂窩織炎だった場合、皮膚の所見があれば、診断はしやすいと思いますが、コロナ下ではそういった疾患も見落とす場合があると聞きます。

 蜂窩織炎は全身のどこにでもでき、皮膚と皮膚の下の組織が感染して赤くなって腫れます。例えば、蚊に刺されて、そこから炎症が広がっていくこともあります。抗がん剤などで免疫が低下している方だと、皮下組織で細菌が増殖して蜂窩織炎になりやすくなります。蜂窩織炎のように、熱源が皮膚など見えやすい場所にあれば発熱の診断はすごくしやすいです。

 本来は、発熱があれば、その他にもいろいろな症状や所見があるかもしれませんから、一つ一つ見落としてはいけない疾患を頭に思い浮かべながら、全身をくまなく診察すべきです。甲状腺を触って異常がないか確かめたり、菌血症で結膜出血はないかを確かめたりと、頭頸部から胸背部、腹部、四肢、皮膚まで診察します。

 しかし、COVID-19の感染が心配される状況下では、どうしてもパーティション越しなどで、患者さんと距離をおいて検査、診察をするようになります。すると、全身をしっかりと診ることがしにくいので、蜂窩織炎などの分かりやすい熱源でも見落としてしまいがちになってしまいます。全身をくまなく診察するのが難しい状況だからこそ、コロナ下では「見落としがないか」を常に念頭に置きながら診察することが、ポイントの一つだと言えるでしょう。

――発熱以外の身体所見が鑑別のポイントになる疾患には、他にどのようなものがありますか。

 偽痛風も熱が出ます。痛風のように骨の周辺の組織、関節などが痛くなる疾患です。痛風との違いは、尿酸値が上がるか上がらないかで、痛風とよく似ていますが、痛風とは違って、ピロリン酸カルシウムという物質の結晶が沈着して痛みが生じます。

 この場合、関節が腫れて赤くなり、痛みの症状も伴いますので、熱以外に関節の痛みがどこかにあれば、偽痛風も疑います。慢性的な関節痛とは異なり、熱が出るとともに、関節が痛くなっていくことがポイントになります。

夏場には熱中症による発熱も
――夏には、熱中症も発熱疾患として多いと思いますが、COVID-19と見分けるポイントはありますか。

 夏場には、「自分はコロナもしくは熱中症かもしれない」と心配して来院される方が多くいました。炎天下で海に行ったり、スポーツ観戦をしたりした後に、熱が出たというケースです。熱中症かもしれませんし、あるいは、人混みの中で新型コロナウイルスに感染したのかもしれません。どちらの場合でも、熱が出たり、体がだるくなったりしますので、熱中症とCOVID-19を身体所見のみで見分けるのは難しいですね。

 熱中症では、COVID-19の上気道炎の症状、咽頭痛や咳はありません。熱中症で脱水状態になっていると尿が出ないので、ちゃんと尿が出ているかどうかや、前日に取った水分の量などを聞きます。あとは診察で舌が乾いていないか、皮膚が脱水の所見になっていないかなども見ていきます。

 冷房を嫌う高齢者では、室内での熱中症も起こり得ます。高齢者は「喉が渇いた」という感覚を感じにくいという特徴があり、水分を丸一日、ほぼ飲まないこともありますので注意が必要です。

さまざまな発熱疾患
薬剤による発熱も多い
――薬の副作用による「薬剤熱」も多いそうですね。

 薬剤熱は、実際には投薬をやめてみないと分からないでしょう。発熱の原因が本当に分からないとき、いろいろと検査をしても全く異常がないときは、薬をやめてみることを考えます。そして実際に熱が下がったら、薬剤熱だったということになります。

――どのような薬が薬剤熱を起こしやすいのでしょうか。

 一般的には、抗痙攣薬や、痛風・高尿酸血症治療薬のアロプリノールは薬剤熱を起こすことで有名です。他には、抗生剤、抗真菌薬、利尿薬、インターフェロン、抗うつ薬で熱が出る方もいます。血液検査をしてみて、好酸球の分画が多いと、アレルギー的な要素からの薬剤熱の可能性があるので、薬をやめてみることもあります。

――薬剤熱の特徴には、比較的徐脈、比較的元気、比較的CRP低値の“比較三原則”があるそうですね。

 比較的徐脈というのは、熱の割に脈が高くないことを言います。例えば、普通38℃の熱が出ていたら、脈は110-120程度に上がりますが、脈拍が70ぐらいしかない場合、比較的徐脈ということになります。

――精神神経用薬による副作用(悪性症候群)でも高熱が出る場合があるそうですね。

 抗精神病薬やパーキンソン病の治療薬をよく使う精神科や神経内科などで見られます。私の外来では経験がなく、一般的なプライマリ・ケアではあまり見る機会はないかと思います。ただし、パーキンソン病の治療薬を飲んでいる方の場合は、気にしておく必要があります。

結核にも注意が必要
――プライマリ・ケアでよく出合う発熱疾患には、他にどのようなものがありますか。

 尿路感染症もよくありますね。膀胱炎では熱は出ませんが、細菌感染症が腎臓に及び、腎盂腎炎になると熱が出ます。実は先日、「熱が2日ぐらいあって、すごくだるい。背中を少し叩くと痛い」という患者さんが来院されました。本人はコロナだと思って来られたのですが、尿検査をしたら炎症所見が強く、腎盂腎炎の診断でした。抗菌薬の内服で改善しました。

――尿路感染症を疑ったのはなぜでしょうか。

 その方はまず、上気道症状がありませんでした。また、発熱に加えて頻尿の症状があり、排尿後に軽い痛みと残尿感がありました。また背中に叩打痛がありました。そこで尿検査と血液検査をして、炎症の値が高かったので、腎盂腎炎と診断したのです。

――他に注意すべき発熱疾患は何かありますか。

 胆嚢炎、胆管炎も熱が出ます。胆嚢と胆管は右の上のおなか、右の季肋部にありますから、胆嚢炎、胆管炎では、そこがすごく痛くなるというのが特徴です。熱も出ますが、強い痛みがありますから分かりやすいでしょう。

 他には、高熱が出る甲状腺の疾患に、亜急性甲状腺炎があります。これは甲状腺機能亢進症と誤診しやすいので注意が必要です。甲状腺ホルモンの値が高いときに発熱があると、亜急性甲状腺炎の可能性があるので気を付ける必要があります。

 まれですが、結核も注意が必要です。いまだに日本は結核の中蔓延国です。当院でも先日、結核患者の接触者ということで、検査目的で来院された方がいました。結核も発熱、体のだるさ、リンパ節の腫れなどの症状があります。

 他に発熱疾患として見逃しやすいものには、副鼻腔炎、悪性リンパ腫、リウマチ性多発筋痛症、悪性腫瘍、血管炎、膠原病などもあります。熱が続くような場合は、発熱疾患の鑑別の中に入れるとよいでしょう。

――発熱疾患と言っても本当にさまざまなものがあり、鑑別は難しいのですね。

 コロナ下でも、「目の前の患者さんはコロナ以外の疾患かもしれない」と考えて、経過や病歴をしっかり聞き、他の発熱疾患を否定するための身体所見を一つ一つしっかり取っていくことが、非常に大切なことだと言えるでしょう。

投稿者: 大橋医院

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