大橋院長の為になるブログ

2022.01.21更新

新型コロナウイルス感染症の社会への影響
「産み控え」によって少子化が加速
――COVID-19による社会への影響のうち、最も懸念していることは何でしょうか。

 ネガティブな影響として、産婦人科医として一番気になっているのは「産み控え」です。メディア報道を見ていたら、「今は子どもを産むのは危ないな」と思うのがむしろ普通かもしれません。立ち会い分娩ができない、生まれても実家の母親に手伝ってもらえないなど、サポートも少ない中で、あえてお産をするというのは、普段と比べてさらに勇気が要ることです。「もう少しコロナが収まるまで様子を見よう」、「子供をもう一人と考えていたけどやめようかな」、そんな人たちが増えて、少子化がさらに加速しています。実際、母子手帳の交付数を見ると、コロナ禍において前年比で大きく減っています。

 当院でも、分娩数は最も多かった時期の3分の2くらいにまで減っています。2014年の年間3300件がピークでしたが、少子化に伴い漸減し、2021年から2000件を割り込んでいます。

 さらにいえば、コロナ禍では、出会いが少ないということもありますよね。もともと妊娠するには、誰かに出会わなければいけないわけですから。

 人口という視点はともかく、子どもを持ちたい人が、安心してお産や子育てができる環境作りは、行政任せにするだけではなく、家庭、職場、地域、官民、あらゆる立場から知恵を出し合うべきことだと思いますね。

――確かに少子化への影響は心配ですね。

 コロナ禍でのポジティブな影響としては、よくいわれているように、ウェブでの会議や学会などの普及の突破口となったことがあると思います。私は厚生労働省や日本医師会などの審議会や会議などの業務もたくさんあって、休みを取って抜けるのにこれまでは調整が必要でしたが、今は移動が不要でとてもありがたいです。

 ウェブ会議では「手を挙げる」というボタンを押せば、発言しやすいのもいいですね。重鎮の方々が居並ぶ中でも気後れせずに発言しやすくなります。多様な立場の人が意思決定に参加できる可能性を開いたと考えるべきで、会議の在り方がより良い方向に進むことを期待したいと思います。最近はリアルの会議に戻そうという動きもあって、ちょっと懸念しています。子育てや介護、遠隔地にいるなどの理由で学会に参加できなかった人たちが、都合のよいときにオンデマンドで勉強でき、離れていてもオンラインで討論に参加できる機会の確保は、ダイバーシティの観点からも欠かせないことで、多少コストがかかったとしても今後もなくすことなく、むしろ拡充していくべきだと思います。

コロナの影響のしわ寄せが研修医に
――COVID-19に関係するご自身の経験の中で、2021年で一番印象深かったことは何でしょうか。

 私は厚労省の社会保障審議会医療部会や医道審議会医師分科会などに臨床医の立場から委員として参画しております。医師の偏在や働き方改革の問題など医療提供体制や、臨床研修医をいかに地方に増やしていくかなど、そういった政策にも関わる内容です。

 コロナ禍では、研修先を選ぶために医学生が地方から東京に病院見学に来て、地元に戻ったら2週間隔離になるので登校できない、そもそも県境を越えての移動は禁止、などさまざまな制限がありました。身近なところでも息子の話で恐縮ですが、マッチングで地方の臨床研修病院を希望していましたが、東京の大学から地方に移動できないことになったため、病院見学も試験も研修前の打ち合わせも全てオンラインでした。幸い希望通りマッチングできましたが、採用する側も応募する側も直接訪問による面識がないだけに不安は大きいと思います。赴任の際も隔離期間があるため早めに現地入りしたり、研修前にPCR検査を受ける必要があったり、いろいろと大変だったようです。

 当院でも地域研修のため、都外に後期研修医を派遣しているのですが、いったん現地入りしたら、しばらくは東京に戻らないようにと言われた例もありました。コロナ禍の影響は決して均等ではなく、社会全体から見ても非正規労働者など弱い立場の人の生活に深刻な影響をもたらしたといわれています。医療界においてもそうした傾向はあり、特に医学生や研修医など若手に学習、研修、進路を含め、多大な影響が出ていると思います。影響を最小限にとどめるための丁寧なフォローが必要です。

 そういう不便を押してまで都会から地方に出向くのは、コロナ禍でさらにハードルが上がります。親元にとどまりたい、親も手元に置いておきたいという希望も、近年は少なくありません。医師の偏在の問題や、地方の研修医を増やすことは、そういうことまで考慮すると、とても難しいと思います。

 災害支援などもコロナ禍ではこれまでと異なり、遠方から支援に入りにくくなりました。医師偏在問題を考える上で、若手だけに負担が行かないような配慮が大切だと思います。変化する医療ニーズにどのように供給側が対応するのか、その仕組み作りの必要性が今回のコロナ禍でより鮮明になったと思います。

ICTを活用して妊産婦をサポート
――これからのwithコロナ時代、医療はどのように変わっていくと思われますか。

 コロナ禍では、患者さんの面会ができない、分娩の立ち会いができないといった、家族との関わりが絶たれてしまう問題が多くの病院で起こりました。おじいちゃん、おばあちゃんが赤ちゃんを見に来るといった、そういうほのぼのした風景が見られなくなり寂しいです。患者さんが少しでも家族とつながりがもてるようオンライン面会など、ICT(情報通信技術)を活用していくことが始まっており、ぜひ期待したいところです。

 当院では、コロナ禍においてオンラインで母親学級や両親学級も始めました。ベビーカーはこれが使いやすくお薦めだとか、ちょっとした心配ごとを語り合えるとか、そういう情報交換は実はすごく大切です。そういった機会がコロナ禍で失われるのはもったいなく、母親の孤立にもつながってしまいます。何らかの方法で孤立を少しでも防ぐようにしないと、妊産婦さんも安心して、妊娠、出産をしようという気持ちにはなりません。ICTを活用して妊産婦の相談に対応する取り組みなどもいろいろ始まっており、困っている人、悩んでいる人が1人でも救われることが期待されます。

投稿者: 大橋医院

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