大橋院長の為になるブログ

2021.12.23更新

1 コンサルテーションが必要な一過性意識消失発作
① 心原性失神
② てんかん発作
③ 急性出血
④ その他;くも膜下出血・大動脈解離・肺動脈血栓塞栓症・中毒……
 適切なコンサルテーションを行うには、まず上記を見逃さないことが重要です。特に①の心原性失神は生命予後にかかわるため、可能性が少しでもあればその時点で循環器内科コンサルテーションが必要となります。つまり、心原性失神を見逃さないことが初期対応では最も重要になります。

2 失神と一過性意識消失発作
 失神は「一過性の意識消失の結果、姿勢の保持ができなくなり、かつ自然に、また完全に意識の回復がみられること」1)と定義されます(図1)。


 一過性意識消失発作が「すみやかに、自然に、完全に回復する」失神なのかどうかを見極めることは、鑑別疾患を絞る意味で重要です。ただし「すみやかに」を定義する具体的な時間の記載はありません。

 一般に救急外来受診時に意識障害を認めるものは、失神とはいいません。

3 失神の分類
 失神は原因により以下の4つに分類されます2)。

① 反射性失神(血管迷走神経反射・状況失神…) 21%
② 心原性失神 10%
③ 起立性低血圧 9%
④ その他、原因不明 37%
 また、鑑別疾患は図2のようなものがあげられます。


 くり返しになりますが、心原性失神は生命予後にかかわるため、この4つのなかでも心原性失神を見逃さないことが救急外来での初期対応では最も重要になります。

4 心原性失神
 それでは例題の症例をコンサルテーションする際に必要となる病歴聴取・身体所見・検査所見について、失神の診療で絶対見逃してはならない心原性失神を中心に学びましょう。

1) 心原性失神を疑う病歴聴取のポイント
1失神時の状況
労作・運動中の失神
仰臥位での失神
失神時/失神前の動悸・胸痛・呼吸困難
先行する症状のない失神
2心疾患の既往・危険因子
糖尿病・高血圧・脂質異常症・喫煙・心電図異常…

3内服薬
抗不整脈薬・強心薬・ジギタリス・利尿薬……

4突然死の家族歴
心原性失神は、60歳以上の男性に多く認められます。これらの項目について、ご本人はもとよりご家族・目撃者・救急隊員からできるだけ詳細な病歴聴取を行います。失神発作時だけではなく、失神前の状況・症状、失神後の症状も重要です。このほか、最初の失神発作のエピソードから4年以内かつ頻度が2回以下の場合も、心原性失神を疑います。

2) 心原性失神を疑う身体診察のポイント
1バイタルサインの異常
徐脈/頻脈
持続性低血圧
低酸素血症
2心不全徴候
頸静脈怒張
III音・心雑音聴取
心拡大(鎖骨中線より外側に心尖拍動触知)
肺うっ血、ラ音聴取、胸水貯留
腹水・下腿浮腫
 救急外来受診時に意識レベルが少しでもはっきりしない場合は、失神よりもむしろ意識障害と考えます。外傷・特に頭部外傷の有無も失神の診療では重要です。逆に外傷から失神の存在が明らかになる場合もあります。失神後も原因(不整脈、立位や坐位…)が持続すると、意識障害が遷延し痙攣発作を起こすこともあります。

3) 心原性失神を疑う検査のポイント
1心電図・ホルター心電図
心室頻拍/心室細動
QT延長・QT短縮
早期再分極・Brugada型・不整脈原性右室心筋症
洞不全症候群
房室ブロック
心房細動
心室内伝導障害
ペースメーカー不全
2心エコー
心筋梗塞
大動脈弁狭窄症
肥大型心筋症
右室負荷
3血液検査
BNP
トロポニン
 心電図は来院時には正常化していることが多いため、心拍数・PQ時間・J波・ST変化・QT時間等軽微な変化にも注意しましょう。失神の原因診断では、10%で心電図が有用だったと報告があります6)。

 失神で頭部外傷や神経学的所見もない場合、原則頭部CTは必要ありません!

4) 心原性失神の鑑別にかかわる臨床予測ツール
 心原性失神の鑑別のため、臨床予測ルールも用いられています(EGSYSスコア、表)。


 3点以上で心原性失神が疑われますが、感度95%・特異度61%とこのスコア単独で診断できるものではありません。有名なSan Francisco Syncope Ruleでも有用性が否定されています5)。とはいえ、判断材料の1つにはなると思います。

 救急外来を受診される失神患者さんは多く、稀ではありますがくも膜下出血や肺動脈血栓塞栓症・大動脈解離等の致死的な疾患も含まれます。

 やはり詳細な病歴聴取と身体診察、心電図・心エコー所見の正しい解釈が重要です。基本を大切にしようということですね!

投稿者: 大橋医院

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