大橋院長の為になるブログ

2021.10.11更新

喫煙歴のない人の肺がんをゲノム解析した結果、がんの大部分は体内での自然な過程で生じた変異の蓄積によって生じることが明らかになった。この研究は、米国立がん研究所(NCI)の研究者を中心とした国際チームが実施したものであり、喫煙経験のない人に発生する肺がんは、3つに分類されるが初めて明らかとなった。

 この結果によって、喫煙歴のない人の肺がんの発生機序が解き明かされ、正確な治療法の開発へつながると思われる。研究結果は、2021年9月6日付のNature Genetics誌に掲載された。

 「喫煙未経験者の肺がんには、分子的特徴や進化過程の異なる幾つかのタイプがあることが分かってきました。将来的には、この分類に応じてそれぞれのタイプのがんが治療できるようになるかもしれません」と、研究を主導した疫学専門のMaria Teresa Landi氏(NCIがん疫学・遺伝学部統合腫瘍疫学部門)は述べる。

 肺がんは、世界中でがん関連死亡の原因の第1位になっている。毎年、世界で200万人以上の人が肺がんと診断されている。肺がんを発症する人のほとんどに喫煙歴があるが、肺がん発症者の10-20%には喫煙歴がない。喫煙未経験者の肺がんは女性に多く、喫煙者の肺がんよりも若年齢で発症する。

 たばこの受動喫煙、ラドン、大気汚染、アスベストなどの環境的危険因子や肺疾患の既往歴が喫煙未経験者の肺がんの原因になることがあるものの、そのような肺がんの大部分は原因不明と考えられている。

 今回の大規模な疫学研究では、喫煙未経験の患者232例を対象とし、全ゲノム配列解析を用いて腫瘍組織のゲノム変化を特定して正常組織と比較した。患者は主に欧州系で、非小細胞肺がんの診断を受けていた。189例が肺がんの中で最も多い腺がん、36例がカルチノイド、7例がその他の腫瘍であり、全例がまだがん治療を受けていなかった。

 研究者らは、変異シグネチャー特定のため腫瘍のゲノムを詳しく調査した。この変異シグネチャー(変異の特徴)とは、体内の自然現象による損傷(DNA修復不良や酸化ストレスなど)や発がん物質への曝露など、特定の変異プロセスに関連する変異パターンを指す。変異シグネチャーは、変異の蓄積に至るまでの腫瘍の活動記録簿のような役目を持ち、がんの発生原因を知る手掛かりとなる。現在、既知の変異シグネチャーの一覧が存在しているが、中には原因不明のシグネチャーもある。今回の研究では、喫煙未経験者の腫瘍ゲノムの大部分に内因性の過程で起こる損傷(体内で起こる自然な過程)による損傷)による変異シグネチャーがあることが明らかになった。

 研究は喫煙未経験者に限定されていたため、予想どおり、たばこの煙を直接吸い込むことに関連があると先行研究で示された変異シグネチャーは見つからなかった。受動喫煙にさらされたことのある患者62例からも、この変異シグネチャーは見つからなかった。しかし、Landi氏は、今回はサンプル数が少なく、曝露の度合いにばらつきがあることを注意点に挙げている。

 「喫煙経験のない人の肺がん発症について受動喫煙の影響を本格的に調査するには、さらに多くのサンプル数と受動喫煙に関する詳細な情報が必要です」とLandi氏。

 ゲノム解析の結果、喫煙未経験者の肺がんには3つの新たなタイプが存在することも判明した。研究者らは、この分類別に、腫瘍内の「雑音」のレベル(つまりゲノム変化の数)に応じて音楽用語を充てた。

 最も多く見られる「ピアノ(弱い)」タイプは、最も変異が少なく、新たな細胞の生成に関与する前駆細胞の活性化に関連があると考えられた。このタイプの腫瘍は何年にもかけて非常にゆっくり増殖するが、さまざまなドライバー変異を持つ可能性があり治療が困難である。

 「メゾフォルテ(やや強い)」タイプでは、特定の染色体の変化と、肺がんで変化しやすい成長因子受容体EGFRの遺伝子に変異が見られ、腫瘍の増殖が速いことが分かった。

 「フォルテ(強い)」タイプでは、喫煙者の肺がんによく見れる全ゲノム倍化が見られた。このタイプの腫瘍も増殖が速い。

 「予防や治療の方法が異なる可能性のあるサブタイプを識別できるようになってきました」とLandi氏は言う。例えば、増殖の遅いピアノタイプでは、腫瘍を早期発見できる機会が得られるかもしれない。一方、メゾフォルテやフォルテのサブタイプは、主要なドライバー変異はわずかしかなく、1回の生検で特定でき、標的治療が有効である可能性が示唆されているという。

 研究の今後の方向性として、民族的背景や居住地に違いのある人々を対象として、肺がんの危険因子への曝露歴も詳しく調べていく。

 「私たちは、腫瘍がどのように進化していくのかを理解し始めたばかりです」とLandi氏。「今回の解析で、喫煙未経験者の肺がんには不均一性、つまり多様性があることが分かりました」。

 NCIがん疫学・遺伝学部部長のStephen J. Chanock氏は「腫瘍のゲノムの特徴を探偵のように調査していけば、複数のがん種で新たな発見への道が開かれることが期待できます」と語る。おおはし

投稿者: 大橋医院

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