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2021.05.22更新

β遮断薬は駆出能の低下した心不全に有効:

臨床診療時のβ遮断薬の開始、維持および増量において、腎障害は障壁と考えられることが多い
 BB-meta-HF試験では、中等度から重度の腎不全患者を含むHFrEFおよび洞調律患者における死亡率の低減にβ遮断薬が有効であることが明らかになった
 有害事象による中止率は、β遮断薬とプラセボのいずれの群でも同様だった

 英国バーミンガム大学心血管内科の臨床科学者Dipak Kotecha氏により、BB-meta-HF試験1-3の結果が今年の欧州心臓病学会議(ESC Congress)で発表された。腎障害は駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者で多く見られ、転帰不良と関連しているが、本試験は、HFrEF 患者18,637例のデータをプーリングした11件の二重盲検ランダム化比較試験の統合解析により、腎障害患者におけるβ遮断剤の使用について堅固な見識をもたらすことを目的とした。

 β遮断薬は、心不全および左室駆出率(LVEF)の低下を伴う患者の罹病率および死亡率を低下させることが知られている1。「真の問題は、臨床管理の基礎としているランダム化試験の大半が、腎障害のある患者を除外していることです」とKotecha氏は説明した。この逆説的ともいえるアプローチは、こうした症例の治療に関する情報が不十分であることから、医師は腎障害患者におけるβ遮断薬の扱い、維持、漸増、用量について不確かで、患者は相対的なベネフィットを知らないことを意味する。

 BB-meta-HF試験は、この問題に対処するため、ベースライン時のeGFR欠損またはLVEF欠損あるいはLVEF50%以上の患者のみが除外され、様々なレベルの腎機能が認められる合計17,433例を対象として行われた。ベースライン時、11%の患者で腎機能が保たれており、27%で中等度の腎機能障害(eGFR 45~59)、14%で中等度から重度の腎機能障害(eGFR 30~44)が認められた。死亡率の一次分析を洞調律(13,861例)と心房細動(2,879例)に分け、各サブグループ内でβ遮断薬を投与された群とプラセボを投与された群との全死亡率を比較した。
当然、腎機能の低下にともない死亡率は急激に増加し、eGFR 35の患者ではeGFR 60の患者と比較して死亡率が2倍だった。全体として、eGFRが10mL/分低下するごとに死亡のハザードが12%増加した(95%CI:10-15%;p<0.001)。腎疾患に関係する他の因子も死亡リスクを増加させ、貧血は最も重度の腎不全(eGFR<30)の患者を除いて、腎障害の全ての段階でリスクを増加させたが、蛋白尿は腎機能が保たれた患者(eGFR ≧90)で最大の影響を与えた。
洞調律の患者では、β遮断薬はプラセボと比較して全死亡率の調整ハザード比を低下させ、腎機能に対する弱い相互作用(p=0.021)を示した。eGFRによる死亡率アウトカムの検討において、Kotecha氏は2つの重要な点を強調した。第一に、腎機能レベルごとに死亡率に「劇的な差」があり、第二に、中等度および中等度から重度の腎不全患者ではプラセボと比較してβ遮断薬により有意に死亡率が低下した(それぞれ調整済みp=0.001およびp<0.001)。「1例の死亡を予防するための治療必要数は、中等度重症でも腎機能が保たれている患者でも、すべての併存疾患にかかわらず同じでした」とKotecha氏は付け加えた。重要なことに、β遮断薬は、ベースライン時すでに腎機能が低下していた患者においても、腎機能を経時的に悪化させなかった。

 心房細動の患者では、ベースライン時の腎障害の割合が洞調律の患者よりも高く、eGFR<60の患者の割合は48.9%対42.9%、eGFR中央値は60mL/分対64mL/分であった。これは、追跡期間平均1.3年における死亡率が高いことと一貫していた(21%対洞調律16%)。このサブグループでは、β遮断薬は全死亡率に有意な影響を及ぼさなかった(p=0.18)。

 最後に、Kotecha氏は、ESCの出席者に「これらの薬物は、中止に至る有害事象についてプラセボと変化や差がないことを患者に伝えることが重要です」と強調した。「これらが二重盲検ランダム化比較試験であることを思い出してください。」

 中等度から重度の腎障害患者では、プラセボ群の20.9%に対し、β遮断薬群の19.4%が有害事象のために試験を中止し、この2群間の類似性は、腎障害の程度によらず一貫していた。重要なことに、患者の大多数は、eGFRに関係なく臨床的に妥当な用量のβ遮断薬で治療可能であり、中等度から重度、中等度および腎障害のない患者のそれぞれ76.3%、77.9%および83.8%が、ターゲット用量の50%以上を投与された。

 この結果は、腎障害を伴うHFrEFおよび洞調律の患者におけるβ遮断薬の使用に関して重要な臨床的意義を有する。β遮断薬は、併存疾患にかかわらず死亡率の低減に有効であり、腎機能が保たれている患者と比較して同等の絶対的ベネフィットを示した。さらに、β遮断薬は腎機能を悪化させず、中止の増加ももたらさなかった。「つまり、腎障害によって処方をやめたり、HFrEFに対するβ遮断薬の用量選択を狭めたりすべきではありません。」おおはし

投稿者: 大橋医院

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