大橋院長の為になるブログ

2021.01.30更新

心臓アミロイドーシス:

アミロイドーシスという病気があります。アミロイド蛋白が全身の臓器に沈着してしまう病気です。アミロイドが心臓に溜まった場合、心アミロイドーシスと呼びます。 心アミロイドーシスには、その構成蛋白によりAL、AA、ATTR (wild type TTR)などの分類があります。一般的に予後が悪いのはALアミロイドーシスで、確定診断後から6ヶ月と言われます。ATTRアミロイドーシスも心合併症を引き起こすことが多く、特徴として高齢者に多く心不全発症から予後は約5年と言われます。ATTRアミロイドーシスは、80歳以上の亡くなった患者の剖検では20-30%の患者でアミロイド沈着が見られると報告されており、症状を来さずに亡くなる方も多い疾患ではあります。今回は、このATTRアミロイドーシスについて、最近いくつかの重要な研究がCirculation誌に掲載されましたので説明します。

一つ目は、ATTRアミロイドーシス患者を前向きに追跡し、その予後や合併症を分析した報告です。対象は、121人のアミロイドーシス患者、診断時の平均年齢は75歳、男性が98%でした。生検による診断からの平均生存期間は47ヶ月、78%の死因が心臓でした。5年生存率は36%。運動能力の低下と心房細動が多くの患者で見られました。多変量解析では、BNP高値、尿酸高値、左室駆出率低値、左室壁厚増加((中隔厚+後壁厚)/左室拡張末期径)が、予後規定因子でした。また、同様に予後について MRIを使って前向きに研究した報告があります。その研究では、phase-sensitive inversion recovery(PSIR) という手法を使うことで、従来の方法よりも、貫壁性の遅延造影像を見逃さずにしっかりと評価できたとしています。そして多変量解析でも、この遅延造影像はNT−proBNPやstroke volume indexとともに独立した予後規定因子となりました。

さらにアミロイドーシスの診断には、心臓組織の生検が必要と言われていますが、ATTRアミロイドーシスは、テクネシウムで標識された骨シンチグラフィーを行うことで生検せずに診断が可能という報告もあります。この報告では1217人の心アミロイドーシスが疑われた患者を調べています。骨シンチ時の心筋での放射性トレーサーの取り込みはATTRアミロイドーシスの患者で感度99%特異度86%と良好で、偽陽性はもっぱらALアミロイドーシスによる取り込みが原因でした。心エコーまたは心MRIで心アミロイドーシスに矛盾しない所見のある心不全で、99mTc-DPD, 99mTc- PYP, or 99mTc-HMDPのGrade 2または3の心筋取り込みがあり、血液や尿でM蛋白がない場合、ATTR心アミロイドーシスと十分診断できるとしています。

まとめますと今回の研究で、ATTRアミロイドーシスの予後は今まで考えられていたよりも悪い傾向にあり、診断には生検を行わなくても、骨シンチグラフィーが有用で、PSIRによる遅延造影像により、予後予測の可能性を示唆する報告でした。

これら一つ一つの研究により、今まで詳しくわかっていなかった高齢者に多く存在するATTRアミロイドーシスに対する知見が深まっていきます。 おおはし

投稿者: 大橋医院

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