ヘリコバクターピロリ感染と糖尿病:
Helicobacter pylori(H. pylori)と糖尿病の関連については一貫した結論が得られていない。中国Meinian Institute of HealthのBo Wang氏は、この論点に関するこれまでの研究は横断研究が多く、前向きに検討をしたものがほとんどないことに着目して、健康診断受診集団を対象とした前向き研究を実施した。その結果、H. pylori感染と糖尿病発症には関連が認められなかったことを報告した。
H. pylori感染と糖尿病発症の関連について検討することを目的として、前向きコホート研究が実施された。健康診断を受診した18歳以上が対象となり、除外基準は80歳以上、ベースラインで糖尿病を有している者、あるいは、H. pylori感染、糖尿病、高血圧、BMI、トリグリセリド(TG)、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)、喫煙歴、糖尿病の家族歴についての情報が得られない者とした。
H. pylori感染は13C尿素を用いた呼気検査により判定し、糖尿病発症は空腹時血糖値7.0 mmol/L以上あるいは自己報告により判定した。H. pylori感染と糖尿病発症の関連についてはCox比例ハザードを用いて推定し、ハザード比の調整には潜在的交絡因子を用いた。
解析対象は2つの集団で構成された。北京市で健康診断を受けた2009~2018年(30ヵ月間)の長期フォローアップ集団には16,937人、中国全域にて健康診断を受けた2017~2018年(12ヵ月間)の短期フォローアップ集団には63,208人が含まれていた。ベースラインでH. pylori感染が認められた割合は、長期フォローアップ集団では35.5%(6,474人)、短期フォローアップ集団では39.5%(24,964人)であった。フォローアップ期間に糖尿病を発症した割合はそれぞれの集団で2.27%(1,437人)と2.40%(439人)であった。
H. pylori感染による糖尿病発症のハザード比は、長期フォローアップ集団では0.83(95%CI: 0.68, 1.01)であり、短期フォローアップ集団では0.99(95%CI: 0.89, 1.10)であった。ハザード比の調整には、長期フォローアップ集団では年齢、性別、糖尿病の家族歴、高血圧の有無、喫煙歴、教育歴、BMI、TG、HDL-C、LDL-Cなどを用い、短期フォローアップ集団では収集できる変数に限りがあったため、年齢、性別、高血圧の有無、BMI、TG、HDL-C、LDL-Cを用いた。
また、解析に用いたほとんどの変数サブグループは統計学的に有意なハザード比を示さなかったが、長期フォローアップ集団においては、糖尿病家族歴ありのハザード比は0.66(95%CI:0.45,0.97)、高血圧既往なしは0.75(95%CI:0.59,0.96)となった。
これらの結果から、Wangs氏は大規模な健康診断受診集団を前向きにフォローアップし、交絡因子による調整を行っても、H. pylori感染と糖尿病発症には関連が認められなかったと結論した。