大橋院長の為になるブログ

2020.11.25更新

コロナが来る―手を緩めればインフルエンザが来る:

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第3波への緊張が高まっている。第1波・第2波と異なるのは、寒さと乾燥という感染症の季節であること、そして季節性インフルエンザの流行シーズンと真っ向から重なること。特殊なこのシーズンを、われわれはどう乗り切ったらよいのか。【時流◆ツインデミックに備える】第2弾は、世界保健機関(WHO)重症インフルエンザ治療ガイドライン委員を務める菅谷憲夫氏(神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センター、同院小児科参事)に話を聞く。(取材・まとめ:m3.com編集部・軸丸靖子/2020年10月7日の取材を基に、直近の情勢を踏まえて加筆・構成、全3回連載)

COVID-19予防の手を緩めればインフルエンザは流行する
――COVID-19の流行が再拡大する一方、インフルエンザの方は非常に少ない状況が続いています(第46週=11月9~15日現在で定点あたり0.00、患者報告数23)。「今冬は同時流行を前提に対策を行うべき」とはいうものの、現実問題として今シーズン、インフルエンザが流行する見通しはあるのでしょうか

 「インフルエンザが流行るかどうかは、COVID-19に対する予防行動次第」というのが私の考えです。

 「with コロナ」で過ごすこの冬は、夏前からインフルエンザの動向が注目されてきました。世界保健機関(WHO)の重症インフルエンザ治療ガイドライン委員である私は、今夏の時点で「南半球の温帯の国々における流行情勢を注視する必要がある」と言っていました。7~9月が南半球のインフルエンザ流行シーズンで、この時期の南半球の情勢は、半年後の北半球の温帯の国々における流行情勢に影響することがあるからです。

 私が特にそれを感じたのは、1997年7~9月のシドニー・インフルエンザの流行でした。このウイルスは、A香港型インフルエンザ(H3N2)の変異ウイルスでしたが、オーストラリアで多数の死亡者が出ました。早速、1997年12月~1998年2月の日本の流行でも、変異ウイルスが出現しました。

 結果としては、今年の7~9月にオーストラリアなどの南半球の国々でインフルエンザの流行はありませんでした。しかし、だからといって「北半球でも今シーズンはインフルエンザの流行はない」と考えてしまうのは早計です。

 今年の7~9月に南半球でインフルエンザが流行しなかったのは、各国のCOVID-19対策のためでしょう。オーストラリアやニュージーランド、南米といった南半球の温帯の国々では、COVID-19 の流行拡大阻止のため、出入国制限に加え国内での外出制限や大規模集会の禁止、飲食店の営業禁止といった政策を徹底して実施してきました。

 そこまでやったせいでしょうか、COVID-19だけでなく、インフルエンザやRSウイルスなどの呼吸器ウイルス、さらには感染性胃腸炎といった、全ての感染症の伝播が止まりました。国際的な人間の移動を制限し、地域内では住民の外出を制限し、“密”を生む集会を禁止にすれば、感染症はかなり抑え込める。だから、インフルエンザも流行しなかったのだと思われます。インフルエンザが専門の私には予想以上の結果ですが、事実、そうなのでしょう。

「マスク着用の効果はワクチン以上」
 翻って日本でのCOVID-19対策は、マスク着用・手洗いうがいの徹底という国民の自主的な予防行動を中心として行われてきました。

 最近、マスクの効果は欧米でも高く評価されています。米CDCのRedfield所長は2020年9月、上院委員会で、COVID-19のワクチン効果は70%程度だが、社会全体でマスクをすれば(universal masking)ワクチン以上の集団防衛効果があると証言しました。言い換えると、日本人はすでに国民全員で集団防衛効果を挙げているようなものです。 緊急事態宣言下にあっても、軍隊が出動するような強制的な行動制限が行われることはなく、国民の自発的で協力的な自粛行動によって、COVID-19を抑え込んできたのです。

 欧米型にせよ、日本型にせよ、COVID-19対策はすべて他の感染症の流行も抑えることにも寄与しました。結果として、北半球の温帯地域の国々ではインフルエンザ検査数が維持あるいは増加しているにもかかわらず、インフルエンザの報告数は例年同時期のレベルを下回ったままになっています。日本においても、グラフ(下図)のように、過去10年で最低レベルのまま推移しています。


国内でインフルエンザが出るのは12月後半以降?
――昨シーズンは沖縄で夏からインフルエンザが流行し、本土でも初秋に流行しましたが、今シーズンは沖縄での流行も起きていません。

 昨シーズンは例外的にインフルエンザが10月頃から流行しましたが、これは、ラグビーのワールドカップなどにより、インバウンドが多かった影響でした。今シーズンは出入国が制限されているので、国内でインフルエンザが出てくるのは12月半ば以降となると思います。

 出入国制限――border controlとも言いますが、これはインフルエンザを抑えるためには有効な手段です。沖縄では「夏でもインフルエンザが流行する」、最近では「一年中流行する」と言われてきましたが、今年は、沖縄でもほとんど発生しませんでした。残念ながら、今、日本政府はborder controlを緩める方向に動いていますが、これはCOVID-19だけではなく、インフルエンザ流行のきっかけになる可能性があります。

 COVID-19対策の手を緩めれば、当然、インフルエンザは流行してきます。「南半球で流行らなかったから北半球も大丈夫」とは言えません。油断はできないのです。

 世界各国はいま、インフルエンザの出現を警戒しています。WHOは8月に行った記者会見で、今シーズンはインフルエンザの予防接種を受けることが特に重要だと強調しました。「南半球ではインフルエンザはそれほど流行していないが、北半球でのインフルエンザ流行がどうなるかは慎重に見極める必要がある」と言っています。当然だと思います。WHOはさらに、インフルエンザ様症状が出た場合、COVID-19なのかインフルエンザなのかの判断は難しいことから、COVID-19とインフルエンザ両方の検査ができる体制を世界中で確立する必要があると強調していました。

 日本ではこの秋、Go To トラベルやGo To イートなどの経済振興策で、往来に人が戻りました。その中でCOVID-19の第3波と言える流行の再拡大が起こっています。この上にインフルエンザが流行したら、日本の医療は大混乱になります。インフルエンザは、流行すると国内だけで1シーズン1000万人ほどが罹患し、ピーク時には1日で20万~30万人が発症します。対するCOVID-19は、最大でも1日2500人台(11月19日現在)。インフルエンザの感染規模は、COVID-19とはケタ違いに大きいのです。

 医療者はこのことを肝に銘じ、改めて感染症予防を徹底しながら、今シーズン中に同時流行が発生することを前提として、慎重に備えておくべきでしょう。おおはし

投稿者: 大橋医院

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