大橋院長の為になるブログ

2020.11.30更新

便に血が混じっていることに初めて気づいたとき、Doug Dallmann氏は30代前半であった。

 「でも、たまに起こるだけだったし、痛みもなかったのであまり気にせず、主治医に相談しませんでした」とDallmann氏は体験談に記した。

 数年後、出血の量や回数が増えてきたので、検査を受けることにした。原因は腸の小さな裂傷だが、治療できないと言われた。

 「大便に血が混ざることを受け入れて生活するしかないと思って、再び無視することにしました」と記した。

 しかしその後、Dallmann氏は骨盤に鋭い痛みを感じ始め、何か深刻な事態があることを知った。年に一度の健康診断で医師が腫瘍を見つけるのに時間はかからなかった。40歳ちょうどで、3期直腸がんの診断を受けた。

 Dallmann氏の体験は、全米の大腸がん増加傾向を反映するものであるというのは、残念なことである。1990年代以降、大腸がん(結腸がんと直腸がんを含む)の発症率は50歳未満の成人で2倍以上になった。これに加えて、若年での死亡も増加している。

 この急激な増加は特に不可解である。なぜなら、大腸がん発症率は、高齢者の間で、主に定期的な大腸内視鏡検査と喫煙率の低下によって急落しているからである。

 「大腸がんの原因や生物学、早期発症の予防法に関しては、多くのことが分かっていません。早期発症大腸がんの治療と生存(を改善する方法)に影響を及ぼすことになるので、その知識を深めることが重要なのです」とPhil Daschner氏(NCIがん生物学部門プログラム長)は述べた。

 9月には、学会、産業界および政府機関から有数の科学者400人以上が患者擁護団体とともにオンラインで集い、若年成人の大腸がんに関して意見や情報を交換した。NCIと米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)が設立したシンクタンクの目的は、若年性大腸がんに関する重要な問題に取り組む研究の優先課題の特定であった。

 参加者は、予防、治療、生存など早期発症大腸がんの様々な側面を議論し、最優先課題には、若年成人の大腸がんの危険因子や原因の特定が挙げられた。

世界中で発症率が増加
 「米国では今年、約18,000人の50歳未満の人々が大腸がんの診断を受けます」とRebecca Siegel公衆衛生学修士(米国がん協会)は述べた。しかし、大腸がんはまだ比較的まれで、その影響は若年成人の1%にすら及ばない。

 一部のグループでは、他よりも大腸がんの増加傾向が強い。例えば、全人種が若年齢で大腸がんを発症する可能性があるとはいえ、その急増は主にアラスカ先住民、北米先住民、白人に認められる。

 しかし、差が縮まっているとはいえ、黒人は白人と比較して、若年で大腸がんを発症する確率が高いことに変わりはない、とNathan Ellis博士(アリゾナ大学アリゾナがんセンター)は述べた。

 「米国だけが若年発症大腸がんの急増に直面しているわけではありません」とJeffrey K. Lee医師(カイザー・パーマネンテ北カリフォルニア)は指摘する。ほかにも、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、ヨーロッパやアジアの一部地域で同じ傾向が報告されている。このような地域の多くで、若年成人の症例数は1995年頃から増加傾向にあった。

若年成人の大腸がんの原因
 専門家らは、若年成人で大腸がんが急増している原因を知らないが、肥満、運動不足、喫煙など、高齢者の大腸がんリスクが増加する因子を幾つか知っている。

 「(危険因子の)幾つかは、若年発症例増加に伴い、過去45年間で高頻度に認められるようになりました」とDaschner氏(シンクタンクの設立計画を支援)は述べた。つまり、同じ因子が若年発症例増加の原因になっている可能性があるということである。

 一方で、まだ発見されていない若年成人の大腸がん特有の危険因子があると思われる、と言い添えた。

 「リンチ症候群や家族性腺腫性ポリポーシスなど、一部の遺伝的疾患によって若年齢での大腸がん発症リスクが増加しますが、若年発症大腸がんのうち遺伝的原因によるものは10-20%程度です」とKimmie Ng医師(ダナファーバーがん研究所)は説明する。

 「大腸がんの発症率が世代ごとに異なる場合、原因は生物学的なものというより環境的なものであることが示唆されます」とNg氏は言い添えた。他の多くの会議参加者も同意見であった。

食事・腸内細菌・炎症
 若年発症大腸がんの原因候補に関する議論の大部分は、食事、腸内細菌および炎症の3つの相互因子にまとまった。

 不健康な食事、特に加工肉や脂肪が多く、果物や野菜が少ない食事に若年発症大腸がんとの関連があるという科学的根拠が蓄積されてきている。

 このほか、複数の研究から、過体重や肥満が若年発症大腸がんを引き起こす可能性を高めることがわかっている。Nathan Berger医師(ケース総合がんセンター)は、電子カルテのデータを使用して、大腸がん若年成人患者の50%は過体重で、17%が肥満であることを突き止めた。

 不健康な食事は過去数十年で一層日常的なものになっていることが指摘された。このほか、過体重や肥満の小児や成人は増え続けている。

 さらに、米国人は座位時間が増加し、運動の時間が減少している。「研究から、テレビを視聴する時間が長くなるほど若年発症大腸がんリスクが高くなることがわかりました」とYin Cao理学博士/公衆衛生学修士(セントルイス・ワシントン大学)は述べた。しかし、その理由が運動時間の減少が過体重につながるからなのかはわかっていない。

 腸内細菌(腸内細菌叢)に焦点を当てる研究者もいる。ある種の細菌は大腸がんの増殖や転移に加担していると判断され、一部の細菌はある種のがん治療の効果に影響を及ぼす可能性がある。

 「非臨床試験で、通常ヒトの腸内に認められる数種類の細菌由来毒素が、マウスの腸内でがんを引き起こしました」とCynthia Sears医師(ジョンズ・ホプキンズ大学、感染症専門医)は解説した。

 驚くことではないと思うが、我々が食べたり、飲んだり、呼吸したりする食物や化学物質は腸内細菌に影響を及ぼす。食事、肥満、運動および一部の薬剤(抗菌薬など)はいずれも腸内細菌の数や種類を変える可能性があることが研究で示されている。

 不健康な食事と腸内細菌には別の側面でも関連があり、いずれも炎症(創傷、疾病、または刺激に対する人体の反応)を引き起こす可能性がある。あるマウスの研究では、高脂肪食が腸の炎症を誘発し、腸管腫瘍の増殖を促進した。

 「腸内細菌に関して言うと、一部の細菌毒素は炎症を激化させます」とSears氏は指摘した。研究から、一部の腸内細菌ががんの増殖を促す免疫細胞を補充し、かつ、がんに対抗する免疫細胞を抑制することも示されている。「炎症はDNAを変異させて、がん化を促す有害な化学物質を産生する可能性もあります」とNg氏は解説した。

 このほか、過敏性腸症候群、クローン病、糖尿病などの一部の慢性疾患は、腸内炎症を引き起こす可能性がある。大腸がん若年成人患者の半数にも、腸内炎症を引き起こす慢性疾患が認められる。

 「このような因子の影響は、人生の極めて早期、つまり小児期、乳児期、さらには胎児期にさえ始まる可能性があります」とCaitlin Murphy博士/公衆衛生学修士(テキサス大学南西医療センター)は指摘した。

環境中の化学物質
 若年発症大腸がんの原因候補として、環境的因子も調査されている。このような因子に、大気汚染や水質汚染などの事象、土壌や食品に含まれる化学物質、農薬の使用などがある。

 「米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)が主導する全米毒物学プログラムで、マウスやラットの腸管でがんを引き起こす18種類の化学物質が特定されています」とRick Woychik博士(NIEHS所長、全米毒物学プログラムも指揮)は述べた。この化学物質の一部はDNAを損傷し、結腸や直腸の細胞に有害な変異を引き起こすと考えられる。

 「他の化学物質はもっと間接的な影響を及ぼします」とBarbara Cohn博士/公衆衛生学修士(米国公衆衛生研究所)は指摘した。「例えば、一部の環境化学物質の混合物(内分泌撹乱物質や肥満物質とも呼ばれる)は、人体の代謝を撹乱し、肥満を引き起こすことがあります」と述べ、「この化学物質の一部は現在では使用が禁止されているとはいえ、それ以前の数十年にわたる使用によって、当時生まれた人の後年に影響を及ぼすことがあると思われます」と解説した。

 このほか、「腸内細菌叢は一部の環境化学物質による有害な影響を受けると考えられます」とWoychik氏は指摘した。

 「我々は同時に多くの化学物質に曝露していますが、その中にはさまざま機序で相互に作用するものもあります。ですから、子宮内曝露など、その人の生涯にわたるあらゆる環境曝露を考慮することが重要です」とWoychik氏は述べ、「この化学物質が遺伝子的、非遺伝子的特徴と相互に作用する機序も重要です」と付け加えた。

予防法と治療法を伝える
 若年発症大腸がんの原因と危険因子を明確にすることによって、予防や検診、治療の方法に関する情報の提供が可能になる、とDaschner氏は述べた。

 例えば、危険因子があり若年齢で大腸がんを発症するリスクが高い人に対して、医療従事者が生活様式を変えたり、頻繁に検査を受けたりするよう勧めることができるであろう。

 一部の医療機関で、大腸がん検診の推奨開始年齢が50歳から45歳に引き下げられているか引き下げの手続きが進んでいる。「45歳未満の人々に対して、危険因子を基にそれぞれの人に合わせて大腸がん検診を個別化する(精密検診)ことで、検診の効率と費用対効果が向上します」とLee氏は述べた。

 原因と危険因子に的を絞ることで、若年発症大腸がんの根底にある生物学を解明する一助にもなるであろう。具体的に言うと、若年層の大腸がんの増殖を促進する特異的分子を特定できる。これにより次々と、大腸がん検診や治療に向けての新たな着想が生まれる可能性がある。

 例えば、検査には、大腸がんやポリープ(がん化する可能性がある増殖性病変)が産生する特異的分子を検査するものがある。若年発症腫瘍の増殖の鍵となる分子が明らかになることで、若年成人向けの検査や診断検査を設計し、この主要分子を標的とする治療薬(分子標的薬)を開発できるようになる。

まずは、認知向上を
 「新型コロナウイルスの感染爆発によって、この長期計画のシンクタンクをオンラインで開催せざるを得なくなったとはいえ、それでも多くの様々な分野の専門知識がある人々が集まりました」とDaschner氏は述べた。

 「この会議が異なる分野の共同研究を促し、一層の進展をもたらすことを期待します」とDaschner氏は言い添えた。この分野の研究を引き続き推進すべく、NCIは若年発症がんの原因に関する研究への資金提供の機会を発表した。

 しかし今、会議参加者の多くが、さらに差し迫った段階があることに同意した。若年成人の大腸がんの早期に見られる徴候について認知度を高めることである。

 「若年層も医師も『大腸がんは老人の病気』という概念を捨て去る必要があります」と会議参加者数人が強調し、日常的に大便を見て変化に気づく必要がある、と指摘した。

 「今にして思えば、もっと症状に目を向けていればよかったと思います」と、青年時の病初に症状を無視し、何年も誤診されたDallmann氏は記す。だからこそ、Dallmann氏は自分の体験を伝え続けている。「それがきっかけで、家族や友人が検査を受け、数人にポリープが見つかりました」。

 「友人、仕事仲間、家族、がん患者支援団体、実際に出会うことがないオンラインのがんコミュニティーの人々から受けた数多くの素晴らしい支援に対する細やかな恩返しのように思えます。これからも恩返しを続けたいと思っています」とDallmann氏は述べた。おおはし

投稿者: 大橋医院

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