大橋院長の為になるブログ

2020.11.28更新

「経済は再生できるが、人の命は再生できない」

 札幌市のある病院幹部は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴う“医療崩壊”に対し、強い危機感を呈する。同病院は2月以降、COVID-19患者の受け入れを続け、救急医療も担う地域の基幹病院の一つだ。北海道が11月26日に「集中対策期間」の延長を決めた翌27日、m3.comのオンラインによる取材に対し、現状を語った。

 COVID-19対応病床を増やしても、「本来なら入院扱いとすべき患者が自宅もしくは宿泊療養になったり、救急患者の受け入れも断らざるを得ない状況」だという。「新型コロナ対応と、社会経済対策のバランスを取ることが必要であり、これを考えるのは政治の役割。我々医療者としては、病床の逼迫状況などの正確な情報を行政には発信してもらいたいと考えるが、今の厳しい状況が全然伝わっていない。コロナ患者の入院先を探すのにどのくらい時間がかかっているのか、日々何人が入院しているのか、あるいは自宅・宿泊療養先から何人が救急搬送されているのか――。さまざまな情報を正しく行政が発信しなければ、我々の危機感は伝わらない」(病院幹部)。

 「今は完全に劣性になっている」
 COVID-19の全国的な感染拡大が続くが、中でも医療提供体制の逼迫が懸念されるのが北海道。道は独自の5段階の「警戒ステージ」を、11月7日に「2」から「3」に引き上げ、11月27日までの3週間を集中対策期間とした。しかし、11月26日の道の感染症対策本部会議で12月11日まで2週間延長し、接待を伴う飲食店に休業を要請するなど、対策の強化も決定した。

 最も感染者が多い札幌市は11月24日、政府の4段階の感染状況の「ステージ3」に相当するとされ、札幌市を目的地とする「GoToトラベル」キャンペーン対象から除外された。政府は11月27日、札幌市を出発地とする場合についても「自粛」を求めた。

 感染症対策本部会議に札幌市保健所が出した11月25日までの札幌市内の陽性者数の推移を見ると、11月中旬からは増加スピードはやや緩やかになっているものの、いまだ予断を許さない状況が続く。

 「2、3月は、新型コロナ対応が初めての経験だったので大変だったが、今思えば患者数は全然少なかった。次の波のピークは4月20日頃から5月の連休明けの辺り。7月下旬から8月下旬にかけても流行があったが、結局、それを抑え切れず、今に至っており、完全に “劣性”になっている」。札幌市内で救急医療に従事するある医師は、危機感を募らせる。現在の感染の波が最も厳しいというのだ。「いつCOVID-19陽性患者が来るかも分からない」という2月以降続く緊張感、それに伴う心身の疲労感も厳しさに輪をかける。


(2020年11月26日北海道新型コロナウイルス感染症対策本部会議資料)
 現場感覚と違う「病床使用率」
 “医療崩壊”の一つの指標となるのが「病床の逼迫度合い」だ。

 厚生労働省は、国内の感染実績を踏まえたCOVID-19患者推計の手法を提示、都道府県はそれを基に「確保想定病床」などの推計を行っている。厚労省が公表している「病床使用率」は、「確保想定病床」を分母にして、「病床使用率」を算定する。しかし、あくまで「想定」であり、その時点で現実に確保している病床を分母にしないと現実とは乖離が生じる(直近のデータは、厚労省のホームページを参照)。この点について、日本医師会の中川俊男会長は11月25日の定例記者会見で、「現場感覚と著しいずれがある」と問題視していた(『「新たな対策なければ全国的に感染拡大」、中川日医会長が警鐘』を参照)。

 COVID-19患者を受け入れている病院は、通常の医療を続けつつ、COVID-19対応にあたる。感染が急増した場合でも、COVID-19用ベッドの確保が追い付かないのは、▽予定手術を延期したり、他院に患者を転院させるのに時間を要する、▽COVID-19対応エリアとそれ以外のエリアの担当看護師を明確に分けたり、重症化しやすい高齢者には看護・介護度が高い人も少なくないため、人手がかかる、▽新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金による空床補償も十分ではなく、COVID-19患者を受け入れた場合の診療報酬も人手がかかる割には十分ではないといった経営的な問題がある――などのさまざまな理由が考えられる。

 さらに仮に院内感染が発生すると、感染者だけでなく、濃厚接触者等も休ませることになるので、COVID-19用ベッドを用意できても、診るスタッフが確保できないという悪循環に陥ってしまう。

 厚労省の相次ぐ事務連絡も現実には機能しにくく
 厚労省は病床の逼迫を懸念して、11月13日に「新型コロナウイルス感染症に係る感染症法上の入院措置の対象者について」、11月22日に「11 月以降の感染状況を踏まえた病床・宿泊療養施設確保計画に基づく病床・宿泊療養施設の確保及び入院措置の対象について(要請)」、11月25日には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院の取扱いについて(再周知)」など、11月に入り事務連絡を矢継ぎ早に出している。

 要約すれば、▽医師が入院の必要がないと判断した無症状病原体保有者や軽症者について、宿泊療養(適切な場合は自宅療養)を求める、▽確保計画に基づいて、病床・宿泊療養施設を確保する、▽発熱等の症状が出てから7~10 日程度経つと、仮に PCR 検査で陽性であった場合でも、感染性は極めて低くなることが分かっている――などを周知する内容だ。

 しかし、これらの事務連絡も、現実を踏まえたものとは言い難い。

 前述の救急医は「入院基準がどんどん厳しくなっている。今は入院させたくても、入院させることができない状況。結果的に自宅、あるいは宿泊療養施設から救急搬送される患者が増えてしまう」と語る。病床・宿泊療養施設の確保についても、現実には容易ではないのは前述の通り。さらに退院基準についても、例えば入院前の高齢者施設等に戻そうと考えても、必ずPCR検査陰性を求められるのが現状だという。結果的に退院もままならず、「医療行為をほとんどしていないが、経過を診なければいけない人がどんどんたまっていく」ことも病床が逼迫する要因となる。

 感染拡大で救急搬送にも支障
 COVID-19感染拡大は、救急医療にも影響を及ぼし、救急搬送困難事例も生じている。積極的に受け入れている病院でも、断わらざるを得ない場合もあるようだ。発熱がある救急患者はPPE装備で対応するため手間がかかる上、仮に抗原検査等で陽性だった場合、施設設備の消毒など次の救急患者を受け入れる準備に時間を要することなどが理由だ。一方で、発熱患者の受け入れを敬遠している病院もあり、「どうしても診ざるを得ない救急患者を受け入れたところ、陽性だった」といった事態も生じている。

 「辛いが医療者としては断れない」
 先の救急医は、「中川日医会長が、25日の会見で『コロナに慣れないでください。緩まないでください。コロナを甘く見ないでください』と言ったのは、その通りだと思う」と述べ、一般市民に注意喚起をするとともに、医療者が安心でき、かつ医療機関の経営が保障される体制づくりを切に望む。

 「『先生のところで受けてくれませんか』と突き付けられると、辛いが医療者としては断れない。いつ陽性患者が来るかも分からないという2月以降続く緊張感、それに伴う心身の疲労感も著しい。コロナにまつわる風評被害もある。もはや『お願い』ベースでは対応できない」おおはし

投稿者: 大橋医院

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