大橋院長の為になるブログ

2020.10.06更新

食事の多様性が認知を予防:

多様性に富んだ食習慣の人ほど、加齢による脳の海馬の萎縮が抑制されることが明らかになった。国立長寿医療研究センターの大塚礼氏らによる日本人対象の縦断研究の結果であり、詳細は「European Journal of Clinical Nutrition」9月2日オンライン版に掲載された。

 大塚氏らは以前、多様性の豊かな食習慣が認知機能テスト(Mini-Mental State Examination)のスコア低下を抑制することを報告している。今回の研究では、より客観的に、MRI検査によって計測した海馬と灰白質の容積を指標とした検討を行った。海馬や灰白質は加齢に伴い萎縮していくが、アルツハイマー病などの認知症では早期から萎縮することが知られている。

 検討対象は、国立長寿医療研究センターが行っている、地域住民を対象とした老化に関する長期縦断疫学研究の参加者のうち、2008年7月~2012年7月に実施した2時点の調査に参加した、認知症の既往者などを除く40~89歳の1,683人(男性50.6%)。2時点の調査でMRI検査を施行し海馬と灰白質の容積を計測。またベースライン時点では、3日間にわたって食事内容を記録してもらい、それを基に食事多様性スコア(Quantitative Index for Dietary Diversity)を算出した。

 食事多様性スコアは、摂取した食品を13のグループに分けて評価した。このスコアが高いほどより多彩な食品を摂取していることを表す。ベースライン時の食事多様性スコアを性別の五分位に分けると、スコアの高い群ほど高齢で身体活動量が少なく、高血圧や糖尿病、脂質異常症の割合が高かった。また、穀類の摂取量は少ない一方、他の12のグループの食品摂取量が多かった。

 ベースラインから2年後に再度MRI検査を行い、海馬と灰白質の容積を計測すると、海馬は平均(±標準偏差)1.00(±2.27)%減少し、灰白質は0.78±1.83%減少していた。

 海馬や灰白質の萎縮に影響を及ぼす可能性のある因子(年齢、性別、教育歴、喫煙・飲酒・身体活動状況、脳卒中・脂質異常症・糖尿病・高血圧・心疾患の既往。モデル1)で調整の上、食事多様性スコアの五分位群で比較すると、海馬(傾向性P=0.004)、灰白質(傾向性P=0.018)ともに、スコアの高い群ほど容積の減少が少ないという有意な関係が認められた。調整因子にベースライン時の海馬または灰白質の容積を追加した解析(モデル2)でも、海馬(傾向性P=0.003)、灰白質(傾向性P=0.028)ともに、やはり同様の有意な関連が維持されていた。

 2年間での海馬容積の変化率(モデル1の因子で調整)で比較すると、第1五分位群(食事多様性が最も少ない群)が1.31±0.12%の減少、以下、第2五分位群が1.07±0.12%、第3五分位群が0.98±0.12%、第4五分位群が0.81±0.12%の減少を示し、最も食事多様性に富む第5五分位群は0.85%±0.12%の減少にとどまっていて、食事多様性スコアが高いほど萎縮が抑制されていた(傾向性P=0.003)。また灰白質も、同様の関係が認められた(傾向性P=0.017)。

 この結果について著者らは、「食事の多様性の高さが海馬や灰白質の萎縮と負の関連があることが示された。海馬の平均的な萎縮は2年間で1.00%であるのに対して、食事の多様性の違いによって萎縮度の差が最大0.5%に及ぶという顕著な違いが認められた。よって、さまざまな食品を食べることは、海馬の萎縮を防ぐ新しい効果的な栄養戦略になり得る」と研究の成果を強調している。おおはし

投稿者: 大橋医院

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