大橋院長の為になるブログ

2020.10.02更新

POEMS症候群:POEMS(Polyneuropathy, Organomegaly, Endocrinopathy, M-Protein, and Skin Changes Syndrome)症候群

1997年に、本症候群患者血清中の血管内皮増殖因子(VEGF)が異常高値となっていることが報告されて以来、VEGFが多彩な症状を惹起していることが推定されている。すなわち、本症候群は、形質細胞単クローン性増殖が基礎に存在し、多発ニューロパチーを必須として、多彩な症状を併存する症候群と定義し得る。

疫学としては、深瀬らの報告以来、我が国において多くの報告がある。発症に地域特異性はなく、全国に広く分布している。また、発症は20歳代から80歳代と広く分布している。平均発症年齢は男女ともに48歳であり、多発性骨髄腫に比較して約10歳若い。

本症候群の多彩な病像の根底にあるのが形質細胞の増殖であり、恐らく形質細胞から分泌されるVEGFが多彩な臨床症状を惹起していることが実証されつつある。VEGFは強力な血管透過性亢進および血管新生作用を有するため、浮腫、胸・腹水、皮膚血管腫、臓器腫大などの臨床症状を説明しやすい。しかし、全例に認められる末梢神経障害(多発ニューロパチー)の発症機序については必ずしも明らかではない。血管透過性亢進により血液神経関門が破綻し、通常神経組織が接することのない血清蛋白が神経実質に移行することや神経血管内皮の変化を介して循環障害がおこるなどの仮説があるが、実証には至っていない.

約半数の患者は、末梢神経障害による手や足先のしびれ感や脱力で発症し、この症状が進行するにつれて、皮膚の色素沈着や手足の浮腫が出現する。残りの半数では、胸水・腹水や浮腫、皮膚症状、男性では女性化乳房から発症する。これらの症状は未治療では徐々に進行して行き、次第に様々な症状が加わってくる。診断は末梢神経障害や骨病変の精査、血液検査によるM蛋白の検出や血管内皮増殖因子の高値などに基づいてなされる。

標準的治療法は確立されていない。現状では、以下のような治療が行われており、新規治療も試みられている。少なくとも形質細胞腫が存在する症例では、病変を切除するか、あるいは化学療法にて形質細胞の増殖を阻止すると症状の改善を見ること、血清VEGF値も減少することから、形質細胞腫とそれに伴う高VEGF血症が治療のターゲットとなる。
(1)孤発性の形質細胞腫が存在する場合は、腫瘍に対する外科的切除や局所的な放射線療法が選択される。しかし、腫瘍が孤発性であることの証明はしばしば困難であり、形質細胞の生物学的特性から、腫瘍部以外の骨髄、リンパ節で増殖している可能性は否定できず、局所療法後には慎重に臨床症状とVEGFのモニターが必要である。
(2)明らかな形質細胞腫の存在が不明な場合又は多発性骨病変が存在する場合は、全身投与の化学療法を行う。同じ形質細胞の増殖性疾患である多発性骨髄腫の治療が、古典的なメルファラン療法に加えて自己末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法、サリドマイドあるいはボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)などによる分子標的療法に移行していることに準じて、本症候群でも移植療法、サリドマイド療法が試みられている。副腎皮質ステロイド単独の治療は一時的に症状を改善させるが、減量により再発した際には効果が見られないことが多く、推奨されない。

有効な治療法が行われない場合の生命予後は不良である。副腎皮質ステロイド主体の治療が行われていた1980年代までは、平均生存期間は約3年であった。メルファラン療法が中心であった1990年代には、平均生存期間は5~10年と改善が見られたが治療効果は不十分であった。おおはし

投稿者: 大橋医院

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