2020.09.07更新

無症状の小児が新型コロナウイルスを拡散させる?
学校再開の安全性に疑問を投げかける調査結果

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した小児は、無症状でも保有するウイルス量は極めて多いことが、米マサチューセッツ総合病院(MGH)粘膜免疫学・生物学研究センターのAlessio Fasano氏らの研究から明らかになった。Fasano氏らは、こうした小児たちがCOVID-19の“サイレント・スプレッダー”(無症状のままウイルスをまき散らす人)として感染を広げる可能性があると指摘し、学校再開の安全性について疑問を投げ掛けている。詳細は、「The Journal of Pediatrics」8月19日オンライン版に発表された。

 この研究は、COVID-19の疑いでクリニックを受診したか、COVID-19の疑いがあるかまたは確定診断された、あるいは小児の多系統炎症症候群(MIS-C)でMGHに入院中の、0~22歳の小児および若年成人192人(平均年齢10.2±7歳)を対象に実施された。このうち49人(26%)は検査で新型コロナウイルス陽性が判明したほか、18人(9%)には、COVID-19との関連が示唆されているMIS-Cが確認された。

 対象者の鼻やのどから採取した検体や、血液検体を基にウイルス量を調べたところ、感染が確認された対象者の気道から、極めて高レベルのウイルスが検出された。その量は、集中治療室(ICU)での治療を必要とする重症の成人患者から検出されたウイルス量を上回っていた。

 また、感染例の半数以上(51%)が低所得地域の小児および若年成人であり、高所得地域の感染例はわずか2%であったことも明らかになった。こうした地域には、COVID-19に罹患した場合に重症化するリスクが高い、高齢の祖父母を含む多世代で構成される家庭が多い。

 さらに、MIS-C患者の免疫反応を調べたところ、重症MIS-C患者では、新型コロナウイルスだけでなく、他のコロナウイルスやインフルエンザウイルスなどに対する抗体反応も上昇していることが明らかになった。このことから研究チームは、このような非特異的な抗体反応が自己抗体の出現を招き、MIS-C発症の引き金になっている可能性があると示唆している。

 論文の筆頭著者で、MGH嚢胞性線維症センターのLael Yonker氏は、「感染した小児や若年成人から、これほど大量のウイルスが検出されるとは思いもしなかった。特に発症後2日間のウイルス量が多かった。重症の成人患者に治療が行われる際、病院ではさまざまな予防策が講じられているが、成人入院患者のウイルス量の方が、外を歩き回っている小児のウイルス量よりも、はるかに少なかった」と驚きを示す。

 こうした研究結果を受けてFasano氏は、COVID-19の感染拡大における小児の影響力が過小評価されてきた可能性があると指摘。そして、「今回のCOVID-19のパンデミックでは、症状がある人たちを主な検査対象としてきたため、感染者のほとんどは成人だとする誤った結論が導かれていた。しかし、この研究で、小児が新型コロナウイルスの感染を免れているわけではないことが示された。小児もこのウイルスの感染源となり得ることを、心に留めておくべきだ」と主張している。

 Fasano氏らはさらに、秋の学校再開に対して警鐘を鳴らし、対面での授業を行う場合には、厳格なガイドライン遵守が必要だと主張している。保有するウイルス量が多い小児の中には、無症状の小児が非常に多く存在していることが予測されるため、体温測定と症状の観察だけでは、教師や学校のスタッフの安全が確保できないと考えられるからだ。また、学校でのCOVID-19の感染拡大防止に有用な対策として同氏らは、無作為に抽出した生徒に対する検査の実施やマスクの着用、ソーシャルディスタンシング、手洗い、オンラインと対面を組み合わせた授業の実施などを挙げている。おおはし

投稿者: 大橋医院