大橋院長の為になるブログ

2020.09.16更新

肥大型心筋症の新薬/HFpEFへのARNIの有用性探る試験【時流◆ESCピックアップ】

心筋ミオシン阻害剤、主要・二次評価項目を有意に改善
 8月29日のHot Line Sessionで発表されたのは、HOCMに対するファースト・イン・クラスの心筋ミオシン阻害薬mavacamtenのピボタル国際共同臨床第3相試験EXPLORER-HCM。早期フェーズの臨床試験ではHOCM患者の症状、身体機能、運動耐容能とQOLの有意な改善、ならびに左室流出路(LVOT)閉塞の改善が確認されている。

 同試験では、251例のHOCM患者をmavacamtenの1日1回投与群、またはプラセボの1日1回投与群にランダム化割り付けし、検討が行われた。

 30週時点の主要評価項目(運動耐容能、症状、LVOT閉塞、機能状態とQOLの複合エンドポイント)の、あらかじめ定義された基準の達成率はmavacamten群でプラセボ群に対し有意に高かった(36.6% vs. 17.2%、P=0.0005)。心機能を評価した二次評価項目(LVOT圧較差、自覚症状・息切れ評価の臨床症状スコア)も有意に改善していた(P<0.0006)。

 安全性と忍容性は両群同等だった。重篤な心有害事象はmavacamten群で4件(心房細動2件、たこつぼ心筋症2件)、プラセボ群で4件(心房細動3件、心房細動+うっ血性心不全1件)が報告された。なお、同時掲載された論文ではプラセボ群で突然死が1件あったとされている(Lancet 8月29日付電子版)。

 研究代表者のIacopo Olivotto氏(イタリアCareggi University Hospital)は「既にHOCM治療を受けている患者へのmavacamten治療により、プラセボに比べ、一貫したベネフィットが確認された」と結論している。

HFpEFに対するARNI、バイオマーカー改善も6分歩行距離は改善せず
 8月30日のHot Line Sessionで発表されたのは、HFpEFに対するサクビトリル/バルサルタンの臨床第3相試験PARALLAX。昨年のESC2019で報告されたPARAGON-HF試験では、HFpEFに対するハードエンドポイント(心不全による全入院、ならびに心血管関連の原因による死亡の複合エンドポイント)の有意な改善を示せなかった。

 PARALLAX試験ではARB(バルサルタン)単剤群との比較を行ったPARAGON-HF試験と異なり、ACE阻害薬、ARBまたはプラセボを含む個別化された至適治療を行っている患者という、より実臨床に近い患者群が対照群に設定された。HFpEF患者2572例(平均年齢73歳、女性51%、ベースライン時の平均LVEF 56%)がランダム化割り付けされた。12週間時点の主要評価項目(NT-proBNP値)はサクビトリル/バルサルタン群で有意な低下を達成していた(対照群に対し-16.4%の低下、P<0.0001)。もう一つの主要評価項目(ベースラインから24週時点の6分歩行距離の変化)に有意な差はなかった(両群の平均変化の差-2.5m、95%CI -8.5-3.5m、P=0.79)。

 二次評価項目(質問票によるQOL評価)は4週時点でサクビトリル/バルサルタン群において有意な改善が見られたが、24週時点では両群の差は消失していた他、NYHA心機能分類の重症度の変化も両群に差はなかった。

 研究代表者のBurkert Pieske氏(ドイツCharité University Medicine Berlin and the German Heart Centre)は「同試験から個別化治療群に対し、サクビトリル/バルサルタン群で心不全の予後を予測する代替マーカーであるNT-proBNPの一貫した現象が確認された」と結論している。

 サクビトリル/バルサルタンは既に、LVEFの低下した心不全(HFrEF)の治療薬として各国で承認されている。その後、標準治療が確立していないHFpEFへの適応拡大に期待が集まりつつあるようだ。ESC2020参加者のツイッターや複数の海外循環器専門メディアは、同試験の成績を「解釈が難しい結果(mixed results)」と評している。おおはし

投稿者: 大橋医院

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