大橋院長の為になるブログ

2020.05.31更新

オシメルチニブを一次治療から使う理由【研修最前線】:自治医科大学附属さいたま医療センター 2020年

肺癌再発患者への新規EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)・オシメルチニブについて。

オシメルチニブ誕生の背景
 EGFR-TKIの薬理作用を以下に記します。通常、皮膚表面の細胞では、チロシンキナーゼ活性をもつ上皮成長因子受容体(EGFR)に上皮成長因子が結合し、自己リン酸化を起こし、シグナル伝達によって細胞を増殖させます。非小細胞肺癌などの癌ではこの受容体に変異が起こり、常に活性化した状態になることで、無秩序な細胞の増殖が行われます。

肺癌のEGFR遺伝子変異として多くみられるのがエクソン19の欠失変異と、エクソン 21の858番目にあるロイシンがアルギニンに変化する点突然変異(L858R)です。この 2つの変異がEGFR遺伝子変異の90%以上を占めます。これらの変異に感受性を持つEGFR-TKIは、EGFRチロシンキナーゼに結合することで、自己リン酸化を阻害し、増殖シグナルの伝達を抑制し、癌の増殖を抑えます。一次治療のEGFR-TKIは非常によく奏効しますが、奏効期間は1年程度です。効かなくなる原因で最も多いのが、EGFR遺伝子のエクソン20領域で起こるT790M変異です。790番目のスレオニンがメチオニンに置換する変異で、EGFR-TKI耐性化機序の50~60%を占めます。オシメルチニブは、このT790M遺伝子変異を起こした場合に使用できる、二次治療向けのEGFR-TKIとして開発されました。

FLAURA試験で有意な差、一次治療から使用可能に
 二次治療向けとして登場したオシメルチニブですので、使用にあたってはT790M遺伝子変異を起こしているかを確認する必要がありました。遺伝子検査には、気管支鏡で再生検を行うか、それが困難な場合は血漿を用いてリキッドバイオプシーを行う必要があります。しかし一次治療後の再生検は、腫瘍が縮小していたり、線維化が進んでいたり、骨転移巣のみに病変を認めたりと、技術的に施行困難な場合があります。リキッドバイオプシーにも偽陰性の問題があります。
 オシメルチニブは、T790M遺伝子変異だけでなく、major mutationと呼ばれるエクソン19の欠失変異とエクソン 21の点突然変異(L858R)を有する癌細胞に対しても強い抗腫瘍効果を発揮します。さらに転移性脳腫瘍に対しても高い抗腫瘍効果を持つことも分かっています。
 Major mutationにも感受性を示すのであれば、わざわざ他のEGFR-TKIで耐性を獲得してからオシメルチニブを使うのではなく、最初からオシメルチニブを使えば良いのではないか、と考えることができます。
 この点を検証したのが、2018年に発表されたFLAURA試験です(N Engl J Med. 2018 Jan 11;378(2):113-125.)。進行性EGFR変異陽性非小細胞肺癌への一次治療としてのオシメルチニブの効果をゲフィチニブと比較した試験で、オシメルチニブ群ではゲフィチニブ群より有意にPFSが延長する結果が示されました(18.9カ月 vs. 10.2カ月、P<0.001)。
 こうした背景から、FLAURA試験以降は一次治療から、オシメルチニブを使用できるようになりました。おおはし
 

 

投稿者: 大橋医院

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