大橋院長の為になるブログ

2020.05.29更新

糖尿病における心不全治療の新たな選択肢:欧米のガイドラインにおけるSGLT2阻害剤の位置づけ

2型糖尿病と心不全の合併は相互に増悪させる悪循環をもたらすことが知られている1-3)。また、合併率も高く、心不全患者の約45%が糖尿病を合併するとの報告もある4)。さらに、心不全の発症リスクはHbA1c値との相関も認められている5)。Dagogo-Jack氏は「われわれは全米の糖尿病性ケトアシドーシス入院患者、約157万例の大規模解析を行ったが、交絡因子調整後も心不全合併患者の死亡率は非合併患者の1.7倍であった6)」と述べ、両者の合併がいかに予後不良であるかを強調した。
 糖尿病における心不全発症の主要な機序は、虚血性心筋症(アテローム動脈硬化)や糖尿病性心筋症であり、これらは高血糖やインスリン抵抗性・高インスリン血症などを背景に引き起こされる1)。Dagogo-Jack氏は心不全における神経ホルモン系の活性化を紹介し、「心拍出量が低下すると、続発性に神経ホルモン、交感神経系、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化するが、これらの常態的な亢進は糖調節を悪化させ、糖尿病を増悪させる7)」と解説した。

米国では2008年のFDAガイダンス8)において、欧州では2012年のEMAガイドライン9)において、新しい2型糖尿病治療薬の承認申請には心血管疾患(CVD)発症リスクの評価が求められるようになった。したがって、これ以降に承認されたDPP-4阻害剤、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害剤は、CVDに対する安全性が検証され、確認されている。また、SGLT2阻害剤ではエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジンの3剤すべてが心不全による入院(HHF)を30~50%と大幅に減少させ、心不全死や主要有害心血管イベント(MACE)も減少させることが示されている1,10)。加えて、一部のGLP-1受容体作動薬でMACEの抑制効果も認められている1)。Dagogo-Jack氏は「こうした心血管安全性試験は、心不全の管理・予防における選択肢について新たな洞察を与えてくれる」と解説した。

米国糖尿病学会(ADA)は2019年に糖尿病の標準治療に関するGLを発表している11)。その中で、第1選択としてメトホルミンと生活習慣改善を堅持しつつ、心不全および慢性腎臓病(CKD)が認められる病態では、第2選択としてSGLT2阻害剤を優先的に使用するよう提言している。「これまで、第2選択は個々の医師の裁量に任されていたが、エビデンスに基づき標的臓器の障害を防ぐという考えが明示されるようになった」とDagogo-Jack氏。

同様に、2016年に発表されたESCの心不全診療ガイドライン12)は、EMPA-REG OUTCOME試験13)でエンパグリフロジンの心血管ベネフィットが示されたことを受け、2型糖尿病の心不全予防および進行遅延、死亡リスク低減の目的でエンパグリフロジンを考慮することを推奨クラスⅡa、エビデンスレベルBで推奨している。Dagogo-Jack氏は「その後、カナグリフロジン、ダパグリフロジンでも同様のベネフィットが示され、現在、ertugliflozinの臨床試験が進められている。この推奨はSGLT2阻害剤のクラスエフェクトに改訂されるだろう」と述べた。
SGLT:ナトリウム依存性グルコース共輸送担体おおはし

投稿者: 大橋医院

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