大橋院長の為になるブログ

2020.05.08更新

心不全の最新知見: 日本の死因別死亡率における心疾患の割合 は,15.8%と悪性新生物の次に多く,そのうち 37%が心不全である(平成22年人口動態統計). 他の国に類を見ない超高齢社会を迎え,65歳以 上の人口の10%超で心不全を認めることから, 今後,爆発的に心不全患者が増加することが予想うされる。

1.HF r EFとHF p EFとは?  従来,心不全患者では左室駆出分画(ejection
fraction:EF)が低下しているものと考えられて きた.しかし,EFが保持された心不全患者が増 加しており,EFが低下した心不全患者の予後と 同程度に悪いことが報告された2).これより, EFが低下した心不全患者(EF ≤40%)をHF r EF (heart failure with reduced EF),EFが保持された 心不全患者(EF ≥50%)をHF p EF(heart failure with preserved EF)と定義された.EF 41~49% の心不全患者を境界型HF p EFと呼び,以前HF r EF でEFが改善した症例を改善HF p EFと分類され た3).最近発表された欧州心臓病学会のガイド ラインでは,境界型HF p EFをHF mr EF(heart failure with mid-range EF)と呼ぶことが提唱さ れた。過去5年間の心不全 入院患者の約53%がHF p EFであり,日本におい てもHF p EFは増加している可能性がある.

2.ガイドライン準拠内科治療  心不全の病態に交感神経系,レニン・アンジ オテンシン・アルドステロン系,サイトカイン, 酸化ストレスなどの活性化と,それによる心肥 大,リモデリング,アポトーシスの関与が知ら れている.心不全のリスクを有するが,器質的 心疾患を伴わないステージAの段階より,冠動 脈疾患の予防,左室の構造的異常の予防目的 に,ACE(angiotensin-converting enzyme)阻害 薬あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬 (angiotensin receptor blocker:ARB)を使用する ことが推奨されている。

1)HF r EFの治療  ACE阻害薬・ARBと β 遮断薬は基本治療薬であ り,心不全発症後は速やかに少量から漸増し, 投与を行うべきである.導入にあたり,どちら か一方を開始する場合もあるが,新しいガイド ラインでは同時に始めるべきとされている4). アルドステロン拮抗薬は両薬剤への上乗せ効果 が示されており,血圧や腎機能に注意しながら 追加を検討する.利尿薬はうっ血をとるのに有 効だが,予後改善作用は明らかではない.症例 毎に使用量を調節すべきである.

2)HF p EFの治療  HF r EFと異なり,生命予後を改善する有効な 治療法は確立されていない.うっ血症状がある場合には利尿薬の使用が推奨されている.心房 細動の心拍調整,高血圧や冠動脈疾患などの併 存疾患の治療が有効である. 

3)新しい薬物療法  昨年,米国FDA(Food and Drug Administration)で10年ぶりに新しい心不全治療薬が2つ 認可された.心拍数を低下させるIfチャネル阻 害薬ivabradineとARB・ネプリライシン阻害薬
LCZ696である.低血圧や合併症により β 遮断薬 を十分量投与できない症例では β 遮断薬の予後 改善効果が限定される.Ivabradineは β 遮断薬投 与下でも頻脈を呈している洞調律HF r EF患者に 有効である6)

3.様々な臓器連関  心腎連関は最も知られた臓器連関であるが, 我々は糸球体濾過量低下に加え,アルブミン尿 が心不全予後不良因子であることを報告した. さらに,心不全患者では糸球体障害のみならず,尿細管障害も高率に合併しており(図3), 両者を合併する心不全患者は著しく予後不良で あることを報告した8).心肺連関についても研 究が進み,睡眠時無呼吸や慢性閉塞性肺疾患を 合併すると予後不良であることが報告されてい る.また,心不全患者では栄養障害や活動性の 低下などにより,四肢骨格筋の減少と筋肉低下 を認めることが多い.高齢者のフレイル,サル コペニアは予後不良因子であることが報告され ており9),今後の介入治療が期待される。

4.非薬物療法の進歩
1)心臓再同期療法  左脚ブロックなど心室同期不全を有する HF r EF患者の治療に心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)が有効である. 冠静脈洞を介し左室側壁に留置した左室リード と右室リードより両心室ペーシングし,再同期 を図る.劇的に改善する症例がある。2)陽圧呼吸療法 3)心臓移植と人工心臓

おわりに  心不全は急性増悪を繰り返すたびに心機能が 低下する.心不全入院を繰り返す主な原因とし て,塩分・水分制限の不徹底に加え,治療薬服
用の不徹底がある.服薬の自己中止や非心臓手 術後の心不全治療薬の非再開などにより,心不 全の再燃をみることが少なくない.十分な病歴 の確認なく,不用意なACE阻害薬・ARBおよび β 遮断薬などの降圧薬の中止は避けなければなら ない

投稿者: 大橋医院

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