2017.02.13更新


         大橋信昭
(これは事実と異なるものであり、ご了承ください。)

恋など随筆のタイトルに書いたら、皆は大笑いであろう。あの剥げた孫もいるお爺さんが、恋とは「あいつ、いよいよ認知症になったのか?」とこの文章なんか見向きもしないであろう。
 しかし、この当人の私が、恋について悩んでしまうのである。君、彼女がこの文章を読んで気が付いたら、さぞお怒りになるであろう。
 でも、私にとっては、抑えきれない感情なのだ。最初、病棟回診で、一目惚れしてしまった。キュートで、声は鶯の様に、甘酢っぽく、仕草一つ一つ可愛らしい。素敵なロングヘアー、つぶらな瞳、自分を見失ってしまう笑顔には、正直な心なのだ。愛らしい耳たぶ、みとれてしまう横顔、均整の取れた肢体である。思わず抱きしめたくなる、うなじ、乳房のラインには、私はもう仕事が出来なくなっている。
 しかし、病んだ、心を痛めた、重症な患者には、適切な指示を出さねばならない。そのジレンマの、苦しいこと、苦しいこと。

夢でもいいから遠い誰もいない小島で、私は、思っていることをすべて晴らし、彼女を思いっきり抱きしめたい。しかし、そんなことはあり得ない。なんという可愛らしい美脚だ。彼女の、ボディーには、そんなに見つめてはいけない。
仕事もよくでき、看護師として優秀である。医学的知識も相当の物である。
私は,明けても暮れても、このような煩悩にさいなまれ、ついに今の思いを手紙に書いてしまった。しかし、これはいつも、胸のポケットにしまい込み、だれにも知られないように注意していた。
病棟は忙しいものである。患者さん相手に、飛び回っているうちに、この手紙を、どこかに落としたのである。誰かが拾い、あっという間に、他の大勢の看護師、事務員に知れ渡った。その日から私は、彼女に逢えなくなった。同僚の看護師の嫉妬と意地悪は悪魔のようなものである。連日のいじめに、ついに辞表を出し、その病院を退職した。
最後の別れは、切なかった。もう二度と彼女と遇えないと思った。彼女は、迷惑にもこんな爺さんに、惚れられて、不愉快で怒りの極致、靴で廊下でも蹴っ飛ばしているに違いない。許してください。どうしても,抑えきれない感情であったのだ。(完)

投稿者: 大橋医院