2017.01.03更新

私は 
<恋は悩まし>     大橋信昭

 私(宮本武蔵:三船敏郎)は真剣に悩んだ。3年の姫路城の天守閣で、一心不乱に、古今東西の文献を読み、沢庵坊主の大説教が頭にこびりつき、日本全土の剣客に触れ合い、あるいは優れた人に巡り合い、私をもっと鍛え上げねばいけないと痛感したからである。3年の武士道、世界の書物を読みもっと立派な武士にならなければいけないと思ったのである。それが3年ぶりにあまりにもやつれて悲愴な顔したお通(八千草薫)は悲痛の泣き声を聞いて、私の武士道に生きる道が揺らぎ始めた。お通は相変わらず綺麗だ。抱きしめたいという気持ちが込み上げた。
思えば、私は、郷里において多くの人に極悪非道の迷惑をかけ、沢庵坊主に悟らされたのである。私が、暴れん坊で極道の限りをつくしているところを、村人に囲まれて、高い桜の木に吊るされたのである。3日間、飲まず食わず、武蔵は考えた。このままではいけない。沢庵坊主の説教を聞こうと思ったのである。かわいそうにとお通は、村人に沢庵坊主に必死に助けをお願いしたのである。その頃から、武蔵のお通への恋心は脳裏に焼き付いた。
私は、言った。「私はこれから、剣の道を進み、日本中の剣豪に逢い、己を高めたいと!」、お通は言った。「武蔵さん、私は、姫路城の天守閣で、ご苦労なさっていると思い、小橋のたもとで団子屋をやり、あなたを3年待ちました。それを無視して、どっかへ旅たつとなされるのですか!あまりにもひどい!私は許しません。幸い団小屋を、一緒にやりませんか?団子の作り方は、私が教えましょう。毎日が楽しいですよ。」お通の色気と、うりざね顔と、それに何も危ない道を行くことはないのではないか?なるほど、団小屋経営は安泰だ。沢庵坊主なんか無視だ。途端に3年読んだ本と、武士道の体力が消えてしまった。それから、武蔵とお通は、幸せに暮らし、子宝にも恵まれた。(完)
はつこい

投稿者: 大橋医院