2015.09.14更新

日曜日は江戸時代
大橋信昭

 日曜日の朝の起床時間は、午前6時から7時ごろである。年を取ったので、日曜日だからと言っても、ゆっくりと眠ることはできない。ウィークデイどおり起床する。すぐに、鏡に向かって体操をする。まず全身の筋肉をストレッチする。筋肉がほぐれて気持ちが良い。そしてスクワット、腕立て伏せ、ロングブレス、そしてスクワット、気持ちが良くなったところで、朝食をとる。
 さー、伝馬町の診療所から自転車で直江町のお墓まで行き、ご先祖に、今週も有難うございましたと感謝をする。お地蔵さんには22円をさしあげ、大橋家をお守りくださいとお祈りする。そして、診療所に帰り、書斎に引きこもる。
 コンピューターを付けて、Youtubeで落語を聞く。柳谷小三治、春風亭柳昇、古今亭志ん朝、を聞く。すっかり江戸時代である。宵越しの金は持たないという大工の熊さんが、大みそかには借金取りにから逃げまくる。大家さんは、今日、家賃を払わないといつ払うんだ!酒屋さんも、積もりに積もった飲み代を今日中に払ってもらわないとここを動かないと睨む。熊さんも睨み返す。払えないものは払えない。そんなやり取りをやっていると、大店の金持ちの坊ちゃんが吉原の花魁にすっかり上せてしまい、二日たっても、三日たっても、帰ってこない、女郎部屋にお泊りだと言って、怒った大旦那が"勘当だ"と罵声を上げる。驚いた大番頭が、吉原へ駆けつけ、「お坊ちゃん、旦那さんがすっかりお怒りだ、すぐに帰ってください!」「いやだ、このお絹ともう少し暮らしたい。」なんてごねるものですから、本当の勘当になりまして、糸の切れた腑抜けの若僧には遊郭にも相手にされない。そんな話を聞いていると、夜、すっかり暗くなった江戸の町に、焼鍋うどん屋が屋台で商売をしていますと、酔った左官屋が立ち寄りからみまして、「おいらは江戸っ子だ、蕎麦は無いのか?江戸っ子は蕎麦と決まっているじゃないか。うどんみたいなミミズみたいなもの食えるか?」「お客さん、そんなこと言われてもうちはうどん屋なんで。」「おーそうか、
しかし、この寒いのに、この火鉢なんて温かい物を持ち歩いて商売しているおめーは幸せ者だ。その火鉢を貸せよ。やっぱり温かいじゃないか。おーいけちけちしないで炭をもっと放り込め!」すると、濛々と煙だらけになりまして、「火事だ!火事だ!」と大騒ぎであります。
 小話も面白いのがいくつかあります。「お歳暮が始まったのはいつからだったか?」「キリストが生まれた頃からですよ」「どうして?」「だって聖母(歳暮)マリアというでしょう)
などとか、診療所において「あなたは過労ですよ」と医師が言うと、患者が急に怒り「私は、殿様のけらいではない、家老ではない」なんて小話があります。
 耳で落語を聞きながら、若い時に集めた山本周五郎の全作品がそろってあります。「長い道」「花と刀」「おさん」「髪飾り」など面白い作品ばかりですが、
今読んでいるのは、「樅の木は残った」です。原田甲斐という怪人物が主役ですが、江戸幕府が、伊達藩を分断、壊滅しようという企みを,藩にスパイを送り込み、黙々と決行しようとします。原田甲斐は、歴史上悪人と言われていますが、この小説では、伊達藩存続のために、奥さんも離縁して、命がけで、この幕府の悪巧みに挑戦します。描写がプロです。屋台で、赤ん坊を背負いながら女給をしている女、やけ酒で倒れそうになっている浪人、景気のいいあきんど、空は真っ暗で、星が綺麗で、三か月が明るいです。
すっかり江戸時代です。山本周五郎という人は、小学校しか出ていませんが、直木賞も断り、家族とも離れ、掘立小屋で、マスコミカットの命がけで書いています。写真も拒否、講演で簡単に金を稼ごうともせずに、ひたすら作品を生み出しながら、60歳代で絶命します。命がけで書いている文章だから、どの作品も面白いのです。
  江戸時代は、こういう文化度が高く、一生懸命で、粋な社会だから面白いのです。私の日曜日は江戸時代です。 

岐阜県大垣市の大橋医院は、高血圧症、糖尿病、や動脈硬化症に全力投球します。

投稿者: 大橋医院