2015.03.26更新

<世にも哀れな介護物語>
大橋信昭
この世には、哀れな介護の世界がすぐ目の周りに無限に広がっているのです。
その憐れな老人たちの泣き声を聞いておりますと、胸元が苦しくなり、私自身苦しくなり、うつ病になるのでございます。

92歳の老婆と74歳の息子が、あるアパートに暮らしていました。20年前は幸せだったそうです。元気に会社に出勤するわが子を見送る母親は楽しそうです。夫が亡くなってから、5年になるでしょうか?母と息子の幸せな生活が続いていました。母は息子の結婚生活が気になっていましたが、今が良ければ、何も嫁なんかもらわなくても、楽しいですからね。それから不思議なことに超スピードで、歳月が流れました。今、母は糖尿病と視力障害、家を這いずる範囲の行動しかとれず、よく転倒します。そのたびに「勝ちゃん」と叫びますが、勝ちゃんも会社を退職してから、体が動きません。手の震戦、歩行障害、関節の屈曲、言語障害、これでは、生活が成り立ちません。そんな時に私はケアマネージャーから呼ばれたのでございます。まず、母と子の生活を絶つのが大変でございました。何十年と二人きりの生活です。部屋は散乱、食事はチョコレートとキャベツとごはんの冷え切ったものでもよかったのです。しかし、今後の事を考えますと、収入や施設の都合を考えますと、二人を別々のショートステイを利用させたのです。ご褒美に日曜日にこの親子は再会できます。お二人が離れるときの泣き声は、耐えられないものでした。

部屋に入るなり、「御爺さんの妾をどこに隠したんや。私は、知っているのだ!」とニトロを舌下しながら御婆さんは怒鳴りました。御爺さんは「私はもう91歳ですよ。体も動かないし、早く死なせてください。」いけません!この老夫婦で生活が成り立つのでしょうか?遠くにいる娘さんに電話しますと、「私の夫に愛人がいまして、やっと離婚が成立し、私もストレスでそちらへ行けません。よろしくお願いします」娘さんの夫の愛人問題が御婆さんの中で御爺さんの愛人と混乱していたのです。ケアマネージャーと訪問看護ステーションと,介護プランを立てた。ここで問題になったのは金銭的なことであった。前に入院していたところにも、滞納金があるし今後介護プランを立てるにも不可能だ。それどころか、電気、ガス、水道も止まりそうだということで、市役所に相談したのですが、今住んでいる、家を競売して、生活保護を取得する必要があるとのことです。そんな時間がありません。最近、認知からくる万引き常習者になった御爺さんが「先生!もう長く生きすぎました。死なせてください」と一言があり、傾眠しだしたのです。その後3-4日で、眠るように亡くなりました。直葬で、御寺に納骨です。20日してから、娘さんが来て「やっと私の医師の許可が出ましたので、御寺にお骨を収めます。」と頭を下げて、帰って行かれました。愛人は正体不明?

娘さんは、いつか92歳の父親が他界することは分かっていました。一回、自宅で心肺停止があったのですが、蘇生し、戻りました。娘さんは公務員で退職したばかりで、役場、中核病院は顔なじみ、土足で一般市民がいけないところ、入り放題、介護プラン立て放題。ケアマネージャーも訪問看護ステーションも、私:医師も、92歳の父親に対して、娘さんにご機嫌を損なわないように、全力を尽くしたのです。部屋の中を歩行器で歩かれる頃の娘さんは満足していましたが、心不全、腎不全、貧血で寝たきりになり、看護師は補液、私はエポジンの筋注、往診の連続、しかし、浄土の世界は近いことは誰にも分かっていました。娘さんは言いました。「先生、父が亡くなった時は、死亡診断書を書いてくれますね!」はい!午前2時に書きに行きました。お通夜も行きました。あまりにも娘さんの存在が大きく怖い在宅ケアでした。

胃瘻の患者さんを在宅で持ったのは久しぶりです。子供たちが言いました。「こんな、哀れな、やせ細り、生きているのが苦しそう、先生、尊厳死でお願いします」そんな心境になるなら、胃瘻など入れなければよいのに!結局2か月、もんどりうった苦しみの末、患者さんは亡くなりました。緩和ケアはしっかりしたつもりです。                             

在宅尊厳死はご計画的に利用しましょう。とは、金融屋の貸し借りみたいにうまくいきません。愛する両親がいつの間にか、この世とあの世の境をふらふらしたときに、冷静でいられるはずがありません。国は在宅で安らかに亡くなりましょうと言っていますが、そんな安らかは貴重です。ご家族は、疲労困憊、遠くの親戚は「何故!病院へ行かせないか!」と末期に現れ突然に主張する。
施設は200人待ち、200人が亡くなってやっと入れる、ショートステイも有料老人ホームも入所不能、かかりつけ医の私と、異常に情熱的なケアマネージャーと、深夜,公園の前で寒風に打たれながら、介護プランを考えこんでいる時を皆さんは見かけるでしょう。それは、愛人が二人、デートの約束をしているのではありません。利用者さんの財産の算盤漢書は、その残ったご利用者になる人にとって大切です。ケアマネと医師の計算合戦はこれからはよくおこるでしょう。寂しい風が場末の狭い土地に吹き込んでいます。  


岐阜県大垣市の大橋医院は、高血圧症、糖尿病、や動脈硬化症に全力投球します。

投稿者: 大橋医院