大橋院長の為になるブログ

2014.11.19更新

<恋のキューピット>
 大橋信昭


矢橋正太郎君は、幼少の時より人見知りで大人しく、例えば壇上で演説せよと言われて、緊張して何も話せないタイプであり、引っ込み思案という言葉が的確なのか、無口は益々増強し、クラスでも目立たず、誰からも注目を浴びず、ひっそりと学生時代を終わり、なんとなく看護学校の試験を受けていた。異性に対しては、全く話すことさえ苦手で、これといった恋も経験せずに、看護師の試験に合格した。彼は女性と話がすることさえ苦手なのに、周りが女性だらけの、看護学校、そして正門に見事な桜が就職時に咲き乱れる桜山病院へ就職した。
 矢橋君は桜山病院で3階の内科病棟に配属となった。もちろん、学校で実習や講義は受けたものの、1年目や2年目は新人扱いされ、特にその内科病棟の婦長の特訓、猛烈教育、時には罵声さえ浴びるのである。その矢橋君の受け持つ患者さんは高齢者が多く、また婦長というものの新人教育は厳しいものであった。本当は優しい女性なのだが職場では鬼婦長となる。患者さんに対しては笑顔だらけだが、周りの看護師、介護士、担当の医師さえも彼女を恐れていた。
 矢橋君も3階病棟に配属され3年、4年が経ち、かなり経験を積んで立派な看護師として成長し、患者さんに特に老人には優しく、病人たちは矢橋君と話をするのが楽しみの一つであった。医師にも可愛がられ、近頃では例の鬼婦長も、彼を大切にするようになった。順風満風の看護師生活である。
 ところが皆さんもよく考えてみるとお分かりだと思う。若い女性は彼は囲まれているのである。3階病はもちろん美人の看護師が多いがと他の病棟にも綺麗な女性は一杯いる。事務系等にも美女が一杯居て、パソコンを見つめている。彼はわざと女性を避けていた。これでは、この桜山病院に何年勤めようが、恋の花ひとつ咲かない。
彼もいつの間にか30歳を超えることになった。
 こういう時はお節介なキューピットの役をしたがるベテランの看護師が現れるものである。長崎看護師は一時、集中治療室に努めた事があり、職人肌である。彼女が中心となって、婦長には秘密にしておいて、勤務時間を終えて、密室で、河山看護師、楢沢看護師、高見看護師が集合、会議となった。演題は「独身矢橋正太郎君の今後の結婚生活について」であった。長崎看護師が終始会議のリードを取った。
「おかしいと思うの。だってもう彼は30歳を越したのよ。彼の女性関係を聞いた事ある?」と長崎看護師が最初に発言した。河山看護師は「だって、彼は私と話をするときには、わざと視線をずらすのよ。私に気があるのかしら?でも困ったは、私には夫も子供もいるのよ!」楢沢看護師は「馬鹿ね、あなたの出番じゃないの!、矢橋君に将来お嫁さんになるような素敵な恋人が見つからないかしら?」高見看護師は言った。「ネーどうかしら、私たちが仲人役、いや愛のキューピットになるのよ。」
 急に密室会議に出席した、長崎、河山、楢沢、高見看護師は顔を赤らめ、大笑いし、まるで彼女たち自身に結婚が迫っているような錯覚を覚え、大騒ぎになった。すると、突然長崎看護師が立ち上がった。「事務の三沢さんは、独身で可愛いし、この前、雑談していたら彼氏もいないようよ。」河山看護師は「それじゃ、どうやって二人を紹介するの?」楢沢看護師は「この際、まず矢橋君の意見を率直に聞くべきよ。」高見看護師は「事務の三沢さんは私に任せてよ。」
 女性の力は怖いものである。あっという間に段取りが決まった。長崎看護師は矢橋君に迫った。矢橋君は顔を真っ赤にし、「私には三沢さんという方がよくわかりませんが、一度お話したいと思います。」こちらはOKだ。高見看護師は以前より親しくあったらしく
「どう矢橋君は真面目にだし、看護師としても有望よ。お婿さんというと肩が凝るから、少しお話でもしない?」三沢くんは「私、まだ結婚のことはまだ考えてないけど、あなたがそう言うなら話だけしてみるわ。」
 お見合成立である。市内のある喫茶店で4人の看護師が仲介になり、矢橋正太郎くんと三沢栄子さんは二人きりになった。
どんな話がなされたか、書くのは野暮である。デートの約束が決まったらしい。言っておくが奥さん候補の三沢さんはご主人候補の矢橋君より7つ年下である。矢橋君は「はい、はい、はい」と言っているだけで、三沢さんは全ての面で彼をリードしているみたいだ。この調子で初デートも成功し、デートを重ね、桜病院の婦長を始め全てのスタッフの知るところとなった。

 ある日曜日の昼下がり、桜病院の正門の桜は満開であった。その下に八橋正太郎くんが三次栄子さんに高価な包装紙から指輪を出した。「ぼ、ぼ、ボクと結婚してください」栄子さんはにっこり彼と握手し病院の中に連れて行った。いつの間にか、3階の内科病棟の看護師が集まっており、大拍手が起こった。

 この先は書くことはやめることにする。栄子さんの女房に敷かれた矢橋正太郎君の奮闘ぶりが滑稽であるからである。桜も散り、
愛のキューピットにより、幸せな夫婦がひと組成立したのである。


岐阜県大垣市の大橋医院は、高血圧症、糖尿病、や動脈硬化症に全力投球をします。

投稿者: 大橋医院

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