2014.02.20更新

<一年生>

大橋信昭

 小生は、還暦を過ぎて、出家したわけではないが、突然、医学論文を読み出し、勉強会や学界にも顔を出し始めた。還暦後に気が付くようでは遅いが、小生の医学知識は現在の医学知識と、百年の差がある気がしてきたからである。医学新聞も、ネットやメールでも、医学的知識は飛び込んでくる。老眼鏡をはめて熟読すると、小生の無知ぶりに一人、書斎で赤面を呈するのである。
 もはや、歴史小説や推理小説ばかり読んでいては、20年や3年後輩の医師と、医学的会話が成立しないのである。故に、今年に入り、医学情報を追いかけているわけである。しかし、還暦はさすがに脳の知識許容面積が少ないようである。努力すれども、努力すれども、医学情報は、一晩眠れば、小生の脳の中で消失しているようである。あきらめてはいけない。いつ昇天するかわからない年齢になり、最新医学への強熱は深まるばかりである。
 私は決心した。可能な限り勉強会に出席しよう。疲労困憊の時は会場での高鼾は周囲の医師に迷惑をかけるから、体調管理は気をつけねばいけない。絶対に、深酒でアルコールの匂いが、体に染みついている時ではいけない。よく寝て、規則正しい小生の生活が、学界や勉強会には望ましい。
 勉強会にもいくつもの種類がある。一番良い勉強会は、熱心な医師が自主的に集まり、それぞれの医師が自分の得意分野を発表する会である。スポンサーがつかないから、基礎的な医学的知識、臨床応用、症例報告、薬の評価等である。製薬会社が主催の勉強会は、その会社の薬の悪口は言いにくいものである。
小生は、製薬会社がいない、自主的な熱心な医師が集まる勉強会を、一番大切にしている。これは数えるほどしかない。
 次に一番困るのは、製薬会社主催の勉強会である。週に2-3回はある。小生が気に入らないのはあくまで、その製薬会社のもっとも売ろうとする商品の宣伝会とあまり変わらないのである。遠方より、かなり高名な医師が招待されて、その先生の業績を発表するのだが、その部分は勉強になるが、いつの間にか薬の宣伝になっている。「このように有意な差を持ってOOOO会社のこの薬が一番の成績を収めたのであります。」これを聴くと、後で懇親会にどんな分厚いステーキやうまい酒がまわってきても、おもしろくない。小生は、その高名な先生がいつからOOOO会社の手先になったのか不可解である。資本主義であろうとなかろうと仕方があるまい。
 ともかく純粋に勉強がしたいのに、製薬会社はどこまでも後を追いかけてくる。学術学会のナイトセミナーは純粋に勉強ができると思うと、配られた弁当には、製薬会社のマークが入っている。講師の大切な話をメモしようとすると、ボールペンには必ず製薬会社のマークが印刷されている。
 小生は製薬会社の悪口を書いているのではない。純粋に勉強したいのだが、製薬会社なくして医学の発展は難しいのである。次々と発表される新薬により、我々はいつの間にか、治らぬ病気も治せるようになっているし、医学情報の宝の山が製薬会社にあり、そこのMRが持ってくる資料には考え込まなくてはいけないのである。小生の乏しい知識と製薬会社のMRと膨大な医学的資料を比較すると、MRの話に聞き入ってしまうのである。
 小生は医師である。製薬会社とは何の関係もなく、賄賂も貰う気はない。ここは純粋に、教科書、雑誌、文献に目を通し、医学生になったような純粋性が必要である。還暦を過ぎて、今日、ネットで買った「心機能評価」の本を丹念に読み、大切ところは鉛筆で線を引き始めたのである。40年も前の4畳半のわびしい下宿生活を思い出しながら、活字に目を通しているのである。この努力は、もう行く年もない棺桶に入るまでに、多くの患者を救うことになると期待したい。
最後に小生は還暦を過ぎて「老いても、勉強熱心はだれにも負けない医師一年生である。」


岐阜県大垣市の大橋医院は、高血圧症、糖尿病、や動脈硬化症に全力を尽くします。

投稿者: 大橋医院